タンポポ庭園の事件簿(4)
「ミアのパンツが盗まれた……だと!? なんと言う罰当たりな事を!」
「フィーラに続いてミアまでも! 絶対に許せない!」
ミアが自分もパンツを盗まれたと話すと、国王とランタナが激怒した。だけど、何故か二人よりも怒る人物もいた。
「殺しましょう」
ド直球な殺意を抱いて口にしたのはネモフィラの護衛騎士メイクーだ。メイクーは剣を構えて、目の前に犯人がいたら今にも真っ二つにしてしまいそうな勢いである。
「殺……っ!? お、落ち着くのじゃメイクー。たかがパンツを盗まれただけなのじゃ」
「たかがではありません! こんな事が――」
こんな事が許されるわけが無いと、メイクーが言おうとしたその時、不意に爽やかな風が吹きぬける。そしてそれはミアのスカートをひらりと捲り、ノーパンなミアの下半身をチラリと見せた。すると次の瞬間、メイクーが突然鼻血を噴水のように出してその場に倒れて気を失ってしまった。しかし、その顔はどこか幸せな顔。
「め、メイクーが死んだのじゃ!?」
死んでません。と言うか、ミアは風でスカートが捲れた事に気づいていないので、メイクーが変態な理由で気を失った事に気づいていない。とは言え、それはミアだけ。他の者たちはそれを見ていて、一先ずメイクーは放置する事に決めた。
「ミア。この村に温泉なんて初めて聞いたけど、この村には温泉があるのかい?」
「あ、あるにはあるのじゃが……って、今はそれよりメイクーなのじゃ!」
(ピンチなのじゃ! この大人数の前では、蘇生の魔法が使えんではないか!)
などと焦るミアだけど死んでないので問題無い。と言うか、侍従たちはミアがパンツを穿いていない事の方が気になって、ソワソワしだす。だけど、それを口には出来ない。何故なら、国王とランタナどころか、ミア本人がノーパンの事を気にせず話を進めるからだ。
「ああ。放っておいて大丈夫じゃないかな。それで? 温泉はあるんだね?」
「放っておいていいわけないのじゃ!」
「心配するでない、ミアよ。メイクーの顔を見よ」
「か、顔……なのじゃ?」
メイクーの顔。それはもちろん幸せそうなマヌケ顔である。間違いなく生きていると気がつき、ミアは本当に放っておいていいのだと理解した。しかし、ノーパンなので、侍従たちは落ち着かない。
「村長に教えて貰って案内されたのじゃ。あ。ですのじゃ」
「おかしいな。そんなものは知らないぞ。国の決まりで、村や町や都市の施設は全て王家に報告する必要があるのに。国王陛下は温泉の事を知っていましたか?」
「知らないな。となると、グラベマルク伯爵が怪しいか」
「私も同感です。一度ここにグラベマルク伯爵を呼び出し、温泉について詳しく聞きましょう」
「事と次第によっては爵位の剥奪だけでなく、それ相応の罰を与えねばならないな」
村や町や都市に何があるのか、そしてどう経営しているかなど、この国ではそれ等の報告が必要で、それがしっかりと法としてあったりする。だから、報告が無ければ疑われて当然で、最悪の場合は国への反逆行為として罪に問われるのだ。
「ぬぬう。秘湯と言っても、あれはただの風呂じゃ。一人で暇をしておったワシを気遣って、紹介しただけかもしれぬのじゃ。個人で持っているただの風呂であれば、お主等に報告する必要も無いじゃろう? ですのじゃ」
「それなら確かに報告の必要は無いね。でも、確認は必要だよ」
「その通りだ。ミアが被害者になった以上、どちらにしてもグラベマルク伯爵を呼び出す必要がある」
国王が侍従の一人に直ぐに連れて来るようにと伝えて、村長が呼び出されると、ミアも下着が盗まれた事を伝えた。すると、村長は真っ青な顔でミアを見て、そのタイミングで風が吹く。そしてこの時、侍従たちは確信した。村長は犯人ではないと。何故なら、村長はミアのノーパン姿を見ても、真っ青な顔を更に青くしただけだったからだ。しかし、国王とランタナは疑っていて、村長が白だと伝える事が出来る度胸のある侍従がここに一人もいない。ミアもノーパンの癖に気にしていなくて気づかない。
「グラベマルク伯爵。貴殿の紹介でミアが連れられて行った秘湯とやらの報告を受けていないが、これはどう言う事だ?」
「申し訳ございません。ミア様に嘘を教えてしまいました。それは私めの家の敷地内にあるただの風呂でございます。ですから、報告をしておりませんでした」
「なるほど。ミアの予想通りか。しかし、今はそれは問題では無い。決まりだな。下着を盗んだ犯人は貴殿だ。グラベマルク伯爵」
「そ、そんな……っ!? 濡れ衣です! 私は盗んでいません!」
「これ以上嘘を重ねるのか? 真面目で誠実。それが貴殿の取り柄で私は気にいっていた。だからこそ一年前に伯爵の爵位を与えてやったのだ。しかし、それは間違いであったな」
「本当に私では無いのです! 信じて下さい! ウルイ国王陛下!」
「罪人の分際で私の名前を気や――」
「まあ、待たんか」
「ミア……?」
ミアが二人の間に歩いて行き、二人を見上げて「やれやれ」と言葉を続ける。
「村長は犯人ではないのじゃ。よう考えてみよ。何故ワシを一人で温泉に連れて行ったのじゃ? もし村長が犯人であれば、自分が犯人だと言っている様なものではないか。そんなアホな事はせんじゃろう」
「確かにそうだな」
「村長はとても良い人なのじゃ。ワシと同じくらいの娘もおるらしいしのう」
「娘がいるいないは置いておいて、ミアの言う通りだね。国王陛下、私もグラベマルク伯爵は犯人ではないと思うよ」
「そうか。どうやら私の早合点だった様だ。疑ってすまなかった。グラベマルク伯爵」
「いえ。滅相もございません。ミア様、庇って頂き誠にありがとうございます。あの、お礼と言ってはなんですが、下――」
「そうか! 思いついたぞ! グラベマルク伯爵。その風呂の存在を知っている者を今直ぐ全員ここに連れて来てくれ! その中に犯人がいる可能性が高い!」
「――え? あ、失礼しました。はい。かしこまりました。今直ぐ」
せっかく村長が下着を持って来ると言おうとしたのに、それをランタナが止めてしまい、ミアのノーパンが延長されてしまった。




