革命軍の副隊長(2)
ミアに正体を見破られ、ルーサは動揺して動きを止めた。すると、避難していた人々もルーサの存在に気がついて、その姿を見てどよめいた。
「おい。あいつ……革命軍のサウルじゃないか?」
一人が呟き、どよめきが徐々に増して大きな騒ぎになる。危険だ逃げろと一斉に走り出す人で溢れて、この場は混乱の渦に包まれた。
「お主、大分嫌われておるのう。なんで男装なぞしておるのじゃ?」
「…………」
ルーサは何も答えず、ミアから目を逸らす。そんなルーサにミアが微笑んで、ゆっくりと歩き始めた。ネモフィラとミントは緊張した面持ちでそれを見守り、その背後では通信用魔道具からメイクーが騒いでいる。
ミアが距離を十歩ほどまでに縮めると、ルーサはミアを睨んで歯を食いしばり、チャクラムの魔装を出現させてそれを構えた。
「出来ればルーサとは争いたくないのじゃ」
「うるせえ! オレは革命軍副隊長のサウルだ!」
「ならばその革命軍副隊長に聞きたいのじゃが、何故フィーラを狙ったのじゃ? お主等革命軍の狙いはゴーラ殿下やプラーテでは無かったのじゃ?」
「それは……それはお前が……」
ルーサは言いよどみ、ネモフィラを睨む。睨まれた理由が分からず、ネモフィラは眉尻を下げて困惑した。隣ではミントが動揺し、慌てるようにネモフィラとルーサを交互に見る。
(ど、どうしよう。これって絶対私のせいだ。私が……私がミア様が本当は男の子で、女の子の格好をしなきゃいけないからって言っちゃったからだ!)
そう。勘違いが勘違いを呼び、この面倒な状況になっている。つまりこれは革命軍副隊長としての行動ではなく、ルーサ個人の行動。ルーサはミントの話を聞いてミアが実は男だったと勘違いし、それがきっかけでネモフィラを襲おうと決めたのだ。そしてその理由は、ルーサの過去や今の立場に関係していて、ミアがしたくもない女装をしていると思ったからだ。ルーサはミアを助けようと思い、ネモフィラを襲ったのだ。
ミントは自分のせいで争いが起きたと慌てて、勇気を振り絞って前に出た。
「や、やめて……下さい。ルーサ様。ぼ、暴力ではなく、話し合いで……ミア様を奪い合うべき……です」
「っは! な、何言ってやがる! オレは別にそう言うつもりじゃねえ!」
「ミント? ミアを奪い合うとはどう言う事ですか?」
ルーサが動揺し、ネモフィラは首を傾げる。ミアは突然自分を奪い合うなんて話が出るものだから、当然困惑して目を点にした。
「ご、ごめん……なさい! 私……がミア様が“王子さま”だと言う事を……喋ってしまった……のです!」
「そうなのですか!?」
「は、はい。だから、ルーサ様はミア様の事が……好――」
「うっせええええええ!」
「――きゅぅ…………」
ミントの言葉を遮るように、真っ赤な顔したルーサがミントにチャクラムを命中させる。チャクラムが命中した額は赤くなり、ミントは目を回してその場に倒れて気絶した。いつもであればミアが護ってあげただろうが、今回ばかりは出来なかった。何故なら、ミントの話に集中してしまって、警戒を怠ったから。そもそもこの攻撃に殺気はなく、どちらかと言うと漫才で言うツッコミ的なものだった為、ボケ担当のミアには察知できなかったのだ。
「み、ミント!? しっかりして下さい!」
「ルーサ! なんて事をするのじゃ!」
「うっせえバーカ! そいつが勘違いして変な事を言いだそうとしたのが悪いんだよ! だいたいオレはお前の事なんか――」
「坊や。そこまでよ」
「――っ!?」
ルーサが何かを話そうとした時だ。ルーサを狙って何者かが勢いよく近づき拳を振るい、それを寸でで受け止めたルーサが吹っ飛ぶ。先程までルーサが立っていた場所には謎の人物が立ち、そしてそれはミアもよく知る人物だった。
「ケーラなのじゃ!?」
「うふふ。また会ったわね、ミアちゃん。うちの問題児を回収に来たわ。邪魔しないでね」
「てっめええ! ケラリト! なんのつもりだあ!」
「あらやだ。ケーラって呼んで頂戴」
ルーサがチャクラムを構えて、直後にチャクラムから大量の水蒸気が発生する。今度はミントに向けた殺気の無いツッコミのような優しいものではない。間違いなくそこには殺気がこもっていて、殺意をむき出しにした本気のものだ。その様子にケーラはため息を吐き出すと、自らの拳と拳を合わせて、その逞しい筋肉を膨れ上がらせた。
「仕方が無いわねえ。本気で相手をしてあげるわ。坊や」
二人の殺気がぶつかり合い、ミアは気絶するミントと慌てているネモフィラに近づいて、殺気をぶつける二人を見て呑気に思う。
(男装と乙女のぶつかり合い……なんか面白いのじゃ。でも、見ておる場合でも無いしのう。とりあえず今の内に逃げるのじゃ)




