コミュ力が高い不良
「へえ。お前って公爵なのか。じゃあオレと一緒だな」
「お主も公爵なのじゃ?」
「まあな。んで、オレのクソ親父が国家に数十人しかいない精鋭部隊の騎士でさ。オレはその子供」
「ほう。では、ルーサは公爵令嬢であり騎士の娘さんなのじゃなあ」
「娘……お前、いい奴だな。男だったら婚約者にしてやったのに」
「それは遠慮するのじゃ」
「ハッキリ言う所がまた男らしくていいな」
と言うわけで、何故か気に入られていくミアは、何故かついて来るルーサと話しながらネモフィラを迎えに歩いていた。そうしてネモフィラの泊まっている部屋が見えてくると、扉の前に立っていたメイクーと目がかち合う。メイクーは笑顔を見せたが、数秒後に隣に並ぶルーサを見て顔を顰めた。そして、メイクーの体で見えなかったけど隣にはミントもいたらしく、姿を現すとルーサに驚いてメイクーの後ろに隠れた。
「ミア様。その方は先程の……」
「うむ。さっきそこでバッタリ会ってのう。何故かついて来たのじゃ」
「ミアから騎士の駐屯地に行くって聞いたから、オレも一緒に行ってやろうと思ったんだ」
「はあ……?」
「ルーサは騎士の娘だそうなのじゃ」
「なるほど」
メイクーは納得して頷くが、背後に隠れたミントは顔を真っ青にさせた。するとそれに気がついて、ルーサがとんでもない行動に出る。
「おい、お前。ちょっとこっちに来い」
「――っ!? え……っ? い、い……や…………っ」
「いいから面貸せって言ってんだよ」
「っひ」
ルーサが無理矢理ミントの腕を引っ張って、ズカズカと遠くに離れて行き、シスカが慌ててそれを追う。ミントは助けをミアに求めて手を伸ばそうとしたが、ミアは微笑んで見守っているだけ。その微笑みに絶望し、ミントは手を伸ばす事無くズルズルと連れて行かれてしまった。
因みに、ミアはミントを見捨てたわけではなく、ルーサを信頼しているだけ。ルーサと話してみて悪い子ではないと判断して、だから止めようとは思わなかったのだ。
「ミアお嬢様。止めなくて良かったんですか?」
「心配しなくても大丈夫なのじゃ」
「全然大丈夫に見えないんですけどねえ」
「クリマーテ。ここでは口を慎みなさい」
「ええ。誰もいな――っ」
誰もいない。そう思っていたクリマーテだったけど、その考えを直ぐに改めて口をつぐむ。何故なら、丁度そのタイミングで旅館に泊まっている観光客が通り過ぎたからだ。見知らぬ相手とはいえ、侍従としてみっともない姿を見せるのはよろしくない。侍従が主に口答えするなんて見られたら、それがきっかけで主であるミアの評判を下げる事になるかもしれないから。クリマーテは姿勢を正して、ニッコリと笑みを作って後ろに下がった。すると丁度その時に、ネモフィラの部屋の扉が開く。
「ミア。お待たせしました。わざわざ迎えに来て頂いてありがとう存じます」
「気にするでないのじゃ」
「ところで、他にも誰かの声が聞こえていたのですけど……」
部屋の中まで声が聞こえていたのだろう。ネモフィラは首を傾げて周囲を見て、声の主を捜した。でも、その相手はここにはいないので見つかるわけもなく、更に首を傾げるだけ。
「フィーラは何を着ても可愛いのじゃ」
「っ。うふふ。ありがとう存じます。ミアもとっても可愛いですよ」
ミアに褒められて満面の笑みを見せるネモフィラは、確かにとっても可愛らしい。ネモフィラが着替えた着物は髪の色と同じ桜色の着物で、桜の柄の可愛いもの。着物に合わせて髪の毛も後頭部でお団子にしていて、いつものツインテールと違う印象で可愛らしい。とっても可愛いが詰まったその仕上がりに、ネモフィラの侍従も大満足の笑みを浮かべていた。
「ミントを迎えに行って、プラーテに会いに行きましょう」
「ミントなら既におるのじゃ」
「え? 既に……ですか?」
ネモフィラが周囲に視線を向けて再び確認する。でも、ミントの姿は無く、ネモフィラは再び首を傾げた。
「見当たらないのですけど……」
「じきに戻って……お。噂をすればなの……じゃ?」
ミアが廊下の先の曲がり角に視線を向けると、そこからミントが何故か満足そうな笑みで現れる。もちろんその隣にはルーサもいて、その背後でシスカが疲れた顔して歩いていた。のだが、ミアはミントの変わりように首を傾げる。
(ぬぬ? 何があったんじゃ?)
「あ、あの方は食事の時の……。ミントと随分仲が良さそうに見えますけど、お二人はお友達だったのでしょうか?」
「そんな関係ではなかったと思うのじゃ」
あれ程に嫌がって絶望していたミント。それが嘘だったかのような、作り笑いとは程遠い護りたくなるような良い笑顔。その姿はミアだけでなく侍従たちも驚くほどで、信じられないとでも言いたげな顔でミントを見つめた。
(何があったかは知らぬが、あのミントとこの短時間で仲良しになるとは、ルーサはコミュ力が高いのじゃ)
ミントと仲良くなるのに苦労したミアは、ルーサに感心した。




