タンポポ庭園の事件簿(2)
「ネモフィラの下着が盗まれていただと!?」
「へえ。随分とふざけた事をしてくれたじゃないか」
国王とランタナの所に戻ると、メイクーが直ぐに報告して二人が怒りの声を上げた。そして、怒っているのは二人だけでは無い。この場にいる侍従が全員怒り、かなり殺気立った雰囲気となってしまう。
「ぬぬう。みんな落ち着くのじゃ。確かに由々しき事態じゃが、そんなに殺気立つ事もなかろう?」
「いいや。ミア。妹のフィーラが窃盗にあったんだ。兄として許せるものか」
「だ、誰も許せとは言っておらぬが……」
「ランタナの言う通りだ。これは国への反逆行為だ。見つけ次第処刑する」
「しょ、処刑!? それはやりすぎなのじゃ」
「「そんなことはありません!」」
「ぬぬう……」
ランタナと国王に続き、侍従たち全員が国王の意見に賛成する。流石に処刑はやりすぎだとミアは思ったが、その言葉は届きそうにない。
「どうかなさいましたか?」
この騒ぎに駆けつけて村長が慌てた様子でやって来た。しかし、一人だけ困り果てた顔をしていたミアに気がついて、直ぐに営業スマイルよろしくなニッコリ笑顔になってミアに近づいた。
「お嬢さんは国王陛下に保護して頂いた子だそうですね。良かったらこれをどうぞ」
村長がミアに差し出したのは、小さく透明な袋に詰められたクッキー。可愛くリボンで封をしてあり、ミアはそれを「ありがとうなのじゃ」と喜んで受け取った。
因みに、村長が言った通り、ミアは保護した娘と言う事になっている。公爵令嬢の立場を手に入れたミアだが、それでもそんな立場の者が城で王族と一緒に暮らすのは疑問に思われてしまう。だから、事情により保護したと言う設定になったのだ。事情とは? と思われるのも想定していて、国王が関わっているのとミアの爵位が貴族の中でも地位の高い公爵なので、恐れ多くて下手に調べようとする者はまず現れない計算である。これが万が一ミアがただの平民と言われていれば話は別だったので、公爵と言う立場はこんな所でも役に立っていた。
さて、それはともかくとして、国王が村長を睨み話しかける。
「グラベマルク伯爵。先日この村に来た私の娘の下着が盗まれたと耳にした。説明を」
「――っ! も、申し訳ございません! 早急に調べて参ります!」
「待て。貴殿はこの件について知らぬと言う事か?」
「は、はい。恥ずかしながら仰る通りでございます」
「そうか。では確認を」
「はい!」
村長が慌て乍らこの場を去ると、村長の背中を心配しながら見送り、ミアは漸く準備してあった食卓の椅子に腰を落ち着かせる。
「村長は大変じゃなあ。しかし、昼食後に村を出るのは出来そうにないのう。犯人を捜しだすまで出発せんのじゃろう? ですじゃ」
「うむ。ネモフィラの無念を晴らすまでは村を出発する事は出来ぬ」
「当然だね。卑劣な犯人を捕まえないといけない。しかし、手紙にこの事が書いていなかったのが気になるね」
「ランタナもか。いったい何故……?」
「肉親と言えど、下着の事を殿方に伝えるのは些か抵抗があったのではないかと存じます」
「「――っ!?」」
国王とランタナの疑問にメイクーが答えると、二人は驚き、直ぐに「辛かっただろうに」と闘志をメラメラと燃やし出す。そして、最早食事どころでは無いようで、食事もせずに何やら作戦会議を始めだした。だけど、ミアだけは違う。何気に実は最初からいた影の薄いウェイターに視線を向けて手を上げた。
「すまぬがワシのご飯だけ先に持って来てくれぬか? こやつらに付き合っておったら食事が出来ぬかもしれぬ。メニューはお任せするのじゃ」
「え? あ、失礼しました。かしこまりました。今直ぐお持ちしますので、少々だけお待ちください」
ウェイターは若干キョドキョドしながらも注文を受けて店内に入っていく。しかし、それも仕方のない事。国王とその子息ランタナが昼食をとらないのに、王族より立場が下の筈のミアが昼食をとろうとしているのだから。とは言え、ミアをその二人が一緒に連れているのも事実。ミアを蔑ろにして、二人が食事をとるまで待たせるわけにもいかない。だから、ウェイターは内心ハラハラして頭が真っ白になる程に緊張と動揺している状態だった。
「やれやれ。ワシは綺麗なタンポポでも眺めながら、時間を潰す事にするのじゃ」
そんな事を呟いて、ミアは周囲に広がるタンポポ庭園をノンビリと眺めた。




