黄金の町ゴールドベストの冒険(3)
黄金ラーメン。それは黄金の器に黄金のスープと黄金の麺のみが入ったラーメンで、見た目は……まあ、なんか凄い。正直言って食欲をそそるような見た目で無い事は確か。
ラーメンが目の前に置かれた瞬間に、ミアとネモフィラは動揺と困惑に踊らされてそれを見つめた。しかし、クリマーテとメイクーはそうではないらしく、楽しそうにそれを見つめて食事を始める。そして、何故か同席する事になった魔宝帝国マジックジュエリーのルビーとトパーズも、とくに気にする事も無く平然と麺をすすった。
「ミア……わたくし、なんだか胸焼けがしてきました」
「奇遇じゃな。ワシもなのじゃ」
最早目が死んでるまでいってる二人は、ゲッソリした面持ちでラーメンと睨めっこ大会を開始する。
「ミアお嬢様。見た目はグロイですけど、結構美味しいですよ」
「麺以外の具が無いのが残念ですね」
クリマーテとメイクーがそれぞれ感想を言って麺をすすると、目の前に座るミアは、それを見て勇気を振り絞ってフォークを握った。箸で無くフォークなのはミアがお子様だからなのではなく、単純にこの国の食文化の問題である。
「ぬおおおお! 女は覚悟が大事なのじゃあ!」
凄まじくしょうもない事に母の教えを口にして、ミアは意を決して麺を口に入れる。そして、その味に驚いた。
「これは……とんこつ醤油に近い何かなのじゃ」
「とんこつ醤油……? ミアお嬢様はラーメンに詳しいんですか?」
「うむ。若い頃は暇さえあれば食べに行くほど好きだったのじゃ……あ。と父上が言っておったのじゃ」
「おお。ミアお嬢様のお父様が好きなんですねえ」
「そ、そうなのじゃ」
あ。じゃねえよ。ってな感じで、このアホ……じゃなくて聖女。直ぐに失言する。しかし、今回も直ぐ誤魔化す事に成功し、なんとか事無きを得た。まあ、五歳児の若い頃なんて言われても何歳だよって感じで、父親と言われた方が信じられるわけだが。
「思ったより普通に美味いのじゃ。フィーラも食べるのじゃ」
「は、はい。わたくしも覚悟を決めます」
ごくりと唾を飲み込んで、ネモフィラはフォークを手に取る。勇気を振り絞って麺をすすり、見た目のわりには普通に美味しいその味に驚いた。
「美味しいです」
「うむ。人を見た目で判断しては駄目なように、ラーメンも見た目で判断してはいけないのじゃ」
なにやら良い事を言ってる風にドヤ顔で語ったミアだが、全然良い事を言っていない。しかし、その言葉にネモフィラは「はい」と笑顔で頷いて、黄金に輝くラーメンを食べ始めた。すると、今までの一部始終を見ていたルビーが、柔らかな微笑みを見せる。
「ふふ。貴女達、思っていた以上に面白いのね」
「ルビー。相手は子供と言えどチェラズスフロウレスの王女だ。今の発言は失礼だぞ」
「お固いわね。そんな事だから未だにあの人達を説得出来ないのよ」
「…………」
“あの人達”と聞いた途端に、トパーズが顔を曇らせて黙る。少しだけ顔が青ざめているようにも見え、その顔からは疲れが感じ取れた。
「説得と言えば、トパーズ様に一つお聞きしたい事があるのですけど……」
「僕に? なんだろうか?」
「その、わたくしのお姉様の事を知っていますよね? トパーズ様はお姉様との婚約を取り消さなくても良いのですか? お姉様に説得されて現状を維持しているわけではないのですよね?」
「そう言えばそうなのじゃ。あまり気にしておらんかったけど、言われてみれば不思議なのじゃ」
ネモフィラの質問の後にミアが言葉を続けると、トパーズがフォークを置く。そして、水を一口だけ飲んでから深いため息を吐き出した。
「タリアは本当に家族には何も言わないんだな。それとも、僕に気を使ってくれたのかな」
「トパーズ様に気を使う……? どう言う意味でしょうか?」
ネモフィラが首を傾げて尋ねると、トパーズが答える前にルビーが呆れた口調で答える。
「婚約を解消しないでくれって頼んだのは兄さんなの」
「ええええっっ!? トパーズ様が!?」
「ほお。トパーズ殿下はサンビタリア殿下を好いておるのか。納得なのじゃ」
「違う違う。誤解しないでくれ。タリアを……こほん。サンビタリアを説得したのは確かに僕だ。だけど、それは好きだからってわけでは無い」
「どう言う事なのでしょうか……?」
「それは……」
トパーズが言い辛そうに口を噤み、視線を逸らして黙り込む。よっぽど言い辛い事なのか。しかし、本人の気持ちをお構いなしに、ルビーが変わらぬ呆れた調子で代わりに答える。
「兄さんには他に好きな人……結婚を誓い合った人がいるのよ」
「えええええええっっ!? う、浮気ですか!?」
「違う! 人聞きの悪い事を言わないでくれ!」
ネモフィラが驚いて浮気なんて言うものだから、トパーズが慌てて声を上げた。そして、観念したと肩を落とし、恨めしそうな視線をルビーに向けた。
「サンビタリアと僕は元々お互いを利用して婚約していたんだ。他に婚約者を作らないように、そして、結婚をしないようにね。だから、僕たちは婚約者と言う形をした協力者なんだよ」
「兄さんは王太子だから、今直ぐにでも結婚しろって親が煩いのよ」
「はあ。タリアから婚約を解消してほしいと言われた時は、他の婚約者候補を婚約者にと話が出て、それなら直ぐに結婚の準備をと両親に言われてね。本当に恐怖だった。婚約解消を取り消してくれた彼女には本当に感謝しているんだ」
「そうだったのですね」
「サンビタリア殿下でも人から感謝されるものなのじゃなあ」
おい。こら。って感じの失礼なミアの言葉に、クリマーテがすすっていた麺を「ボフッ」と吐き出して、むせ乍ら笑いを堪えた。そして、その吐き出した麺は見事にミアの顔面にクリティカルヒットしたが、自業自得である。




