乙女の恋路を応援しよう
地面に置かれた炎の魔石から小さな火が燃え続け、その上には網が敷かれ、色んな種類の貝が焼かれていく。焼貝食べ放題のお店にて、自分達で焼いた出来たて熱々な貝を食べ乍ら、ミアたちはブレゴンラスドの二人と交流を深めていた。ミアがネモフィラに頼み、侍従たちは侍従たちで同じように貝を焼いて食べて休憩している状況だ。だけど、いつ何があっても良いように、メイクーだけはミアたちと同じグループにいる。
「ほら。こっちが焼けてるわよ」
「ありがとう。ケーラお姉ちゃん」
普段からそうなのだろう。ケラリトことケーラは面倒見が良いらしく、プラーテの皿に焼けた貝を乗せる姿は様になっていた。だからか、最初は驚いて警戒していたネモフィラやミントも打ち解けて、今では仲良くお喋りをして貝を食べている。
「ところでフィーラちゃんはアンスリウム様の妹なのよね? アンスリウム様は一緒ではなかったのかしら?」
「アンスリウムお兄様ですか? はい。お兄様はお城でお留守番です。王族が誰もいないのは危険だからと……。ケーラ様はお兄様を知っているのですか?」
「ええ。アタシは天翼学園を去年卒業した卒業生なの。だから、アンスリウム様の事をよく知っているわ」
「去年……卒業…………」
ネモフィラが驚いてケーラを凝視する。とても失礼だが仕方が無い。去年卒業と言う事は今は十六か十七で、アネモネやゴーラの一つ上。だけど、ネモフィラ以外の者も驚いて同じ事をするくらいには、ケーラの見た目は二十台にすら見えないオッサン……いや。乙女だった。
「お主、随分と老けておるのう」
「み、ミア!?」
「あらやだわ。この正直者~。そうなの。アタシって子供の頃から大人っぽいってよく言われていたのよねえ」
「っぽい!? あ。あわわわ……。ごめん……なさい」
あまりにも驚きすぎてミントまでもが声を上げて、慌てて謝って手で口を塞ぐ。そして、そんなミントを見て、プラーテが楽しそうに笑った。それにしてもだが、ミントが驚くのも無理は無い。ケーラはどう見てもオッサンだし“ぽい”では無く“見たまんま”である。メイクーも言葉を失ってしまっているし、ネモフィラも驚きすぎて焼貝を食べる手が止まってしまっている。しかし、流石はなんちゃって五歳児ミアである。前世八十まで生きたミアからすればケーラもまだ若い。焼貝を食べ乍ら気にせず話を続けるだけ。
「アンスリウムの事をよく知っておると言ったが、仲が良かったのじゃ?」
「ええ。とても良かったわ。アタシ、アンスリウム様に告白した事もあるのよ」
「告白!? ケーラ様はお兄様を好いていたのですか!?」
「どどどど、どうなったんですか!?」
まだ幼いとは言え、ネモフィラももうすっかり女の子だ。今度の驚きはさっきとは全くの別物で、ネモフィラはミントと一緒に驚くと、若干興奮気味に鼻息を荒げて恋バナの期待に満ちた目をケーラに向ける。するとケーラは頬を染めて両手で押さえて、少し恥ずかしそうな表情を見せた。
「婚約者がいるからって断られちゃったわ」
「そうでした。お兄様には当時婚約者がいました」
「なんと言う運命の悪戯……でしょうか」
ネモフィラとミントががっかりして顔を曇らせるが、ケーラはネモフィラの言葉を逃がさなかった。その逞しい瞳を鋭く光らせ、野獣のような眼光をネモフィラに向ける。
「今、当時と言ったかしら?」
「え? はい。今はお兄様に婚約者はいませんので」
「なあああああんですってええええええええ!?」
ケーラは大袈裟にも思える程の驚きを見せ立ち上がる。そして、ガッツポーズをして口角を上げた。
「それって今がチャンスって事じゃない! きっとこれは今噂になっている聖女様のお導きに違いないわ!」
正解。導いたわけでは無いけど実際にその通りだった。
「良かったね。ケーラお兄ちゃん」
「お姉ちゃんって呼んでって言ってるでしょう? でも、今は最高な気分だから許したげる。プラーテも聖女様の導きに感謝しなさいな」
「はあーい!」
ケーラとプラーテが微笑み合い、ミアが目を逸らして顔をひきつらせる。思いっきり当事者のミア的には、非常に動揺せざるを得ないお話だった。そして、それ等を知っているネモフィラとメイクーは冷や汗を流し、勘違いしながら一部だけ知っているミントは何故か得意気な顔をしている。
「け、ケーラ様……は、今でも……アンスリウム様がす、すす、好き……なんですか?」
得意気な顔のわりにはいつもの口調でミントが尋ねると、ケーラは漢らしいスマイルをミントに向ける。
「ええ。そうよ。在学中は二日に一回は告白しているほど好き……いいえ。愛しているわ」
「素敵……です」
いや。こええよ。って感じだが、ミント的には有りらしい。
「応援……します!」
「わたくしも応援します!」
「あら。ありがとう、ミントちゃん。フィーラちゃん。うふ。アナタ達いい子ね。アタシ、頑張るわ!」
「わああ。じゃあ、ケーラお姉ちゃんとアンスリウムお兄ちゃんを結婚させよう団を作ろおよー!」
「いいですね! 作りましょう!」
「は、はい!」
「やったー! じゃあじゃあ、プラーテが団長だよお! 副団長はミアちゃんね!」
「ワシ……っ!?」
「うん! だって、ミアちゃんって何だか男の子みたいでかっこいいもん!」
「なん……じゃと……っ!?」
「プラーテ知ってるよ。悪者をやっつけて、サンビタリアお姉ちゃんをいい子にしたんでしょお?」
「はい! ミアはとってもとってもかっこいいのです!」
「わ、私も……そう思います」
「私が保証します」
何故かメイクーまでドヤ顔で同意する。すると、ミアが調子に乗ってニヤけた顔して頷いた。
「仕方が無いのう。漢らしいワシが副団長になってあげるのじゃ」
「やったー!」
「うふふ。良かったですね。プラーテ」
「み、みんなで……頑張りましょう」
「みんなありがとう! アタシ、絶対にアンスリウム様と結婚して幸せになるわ!」
ここに【ケーラとアンスリウムを結婚させよう団】が結成された。本人がいない所でとんでもねえものが生まれてしまったが、ミアに何も言わず婚約とか言いだしたりしていたし、何も問題はないだろう。




