子供は打ち解けるのが早い
「プラーテ。幼稚舎ぶりなのじゃ」
「お元気そうで良かったです」
ミアとネモフィラが笑顔でプラーテに近づき、プラーテもそれを笑顔で迎える。
「ミアちゃんとフィーラちゃん。久しぶりー。また会えたね」
「おや? プラーテと友達かい?」
「違うよ。二人とは一緒に遊んだ事もないし、幼稚舎でもおはようって言った事しかないんだよ」
「え……?」
まさかの返答にゴーラが冷や汗を流して困惑していると、ミアが頷いてプラーテに同意する。
「そうじゃなあ。流石にあの事件以来は気まずかったしのう。仕方が無いのじゃ」
「でも、お姉様がごめんなさいとわたくしは言って謝ったのですよ。ね? ミント」
「は、はい。私も……一緒にいました」
「なんじゃと? それはワシも初耳なのじゃ」
「ミアがお手洗いに行っていた時です。丁度他の皆さんもお外に遊びに行って、わたくしとミントとプラーテの三人だけになったのです」
「あの時はプラーテもびっくりしちゃった。お絵かきしてたら皆がいつの間にかいなくなっちゃって、そしたら謝られるんだもん」
「そ、そうか……」
何だか軽いノリの少女たち。だが、少女たちはまだ幼い。誕生日が一番早いネモフィラでもまだ六歳になったばかりなのだ。このくらいの年の子はこんなものなのかもしれないと、ゴーラは納得して苦笑するしかなかった。それに、これは悪い事でも無い。ゴーラとしては、婚約者のアネモネと親しい間柄の者たちとは出来れば仲良くしたいのだ。そう考えれば、子供たちが仲良くしてくれるのは非常に助かると言える。実際、少女たちのおかげで和やかなムードになり、大人たちも自然と打ち解けられて微笑みが溢れていた。
だけどそんな中、サンビタリアだけは真剣な面持ちだった。侍従たちが止める間もなく服を脱いで下着だけになり、緊張した面持ちでプラーテの前まで歩いて深々と頭を下げた。
「プラーテ王女。あなたの大切な服を消してしまってごめんなさい」
「え? え?」
「私はサンビタリア=テール=キャロット。チェラズスフロウレスの第一王女で、あの事件のきっかけを作った本人よ。本当にごめんなさい!」
「あ。そっかあ。あなたがサンビタリアお姉ちゃんなんだ」
「ええ。突然で驚かせてしまったわね。どうしても直ぐに謝りたくて……。ごめんなさい」
「ううん。いいよ。謝ってくれてありがとう」
プラーテはそう言って曇りの無い笑顔を見せ、下げたままのサンビタリアの頭を優しく撫でた。サンビタリアはそれを受け、嬉しさのあまり涙を流した。
(うむうむ。良かったのう。しかし、こんな人前でその格好は不味いのじゃ)
お前がそれを言うなって感じだが、今回ばかりは実際に不味い。周囲の注目を集めてしまっていたのは言うまでもなかった。悪目立ちしているのは間違いなく、サンビタリアを知らない一般市民は奴隷か何かかと勘違いし、サンビタリアに哀れみの目を向ける。
「チェラズスフロウレスの印象が悪くなるといけないから、直ぐに着替えた方が良い」
ゴーラの一言でサンビタリアがハッとなり、周囲の目を引きつけていた事に恥ずかしくなる。サンビタリアは顔を真っ赤にして、自分の浅はかな行動に反省して直ぐに着替えた。
「でも、姉さんじゃないけど、ここまで暑いと脱ぎたくなるよね」
まるでサンビタリアの行動をフォローするように告げて、ランタナが手で顔を扇ぎながら呟くと、ネモフィラが苦笑しながら頷いた。
「はい。ブレゴンラスドはとても暑い国なのですね」
「そうじゃなあ。チェラズスフロウレスと比べると随分と暑いのじゃ」
(でも、日本の真夏よりは暑くないのじゃ。この暑さならだいたい三十度前後じゃな)
正解。ここブレゴンラスドは夏の気温が平均三十度ほどの国であり、一年中が穏やかな気候である春の国チェラズスフロウレスに慣れているととても暑く感じる気温。そして、流石は前世で八十まで四季のある日本で生活していただけあって、ミアは体感温度でズバリ言い当てたのである。
「チェラズスフロウレスはとても穏やかな気温の国だから、この暑さは少し辛いかもしれないな。ここで立ち話をするより、休憩を兼ねてお茶をしよう。近くにお勧めの店があるんだ」
「まあ。それはいいですね。船旅で疲れてしまったし、そうしましょうよ。ねえ? お父様、お母様」
ゴーラにアネモネが喜んで同意すると、国王と王妃も頷き、お勧めのお店へと向かった。




