王女を救った謎の王子さま
「ほ、ほう。一昨日の夜にそんな事があったんじゃな。死者を蘇生する魔法とは、そんな魔法を使える者もいるのじゃなあ」
「はい。ですので、その少年がいないか確認する為にネモフィラの護衛を一人だけ残し、ネモフィラは妻と一緒に先に城に帰らせました。しかし、私はその少年が実は聖女様だと考えたのですが、違うようですね」
「そ、そうじゃな。それにしても、ネモフィラ殿下はそれでおらんかったのかあ。納得なのじゃ」
城に向かう道中の事。ミアは馬車で王族と同席して、国王から一昨日の晩に助けた第三王女ネモフィラの話を聞いていた。国王の隣には第二王子ランタナもいて、二人の話を聞いていた。
ランタナはミアより二つ年上の七歳だけど、七歳とは思えない程に落ち着いていて姿勢も良く、その身からは王族として相応しい高貴な雰囲気を漂わせた美少年。ネモフィラよりも国王の血をその見た目に色濃く受け継いでいて、綺麗な桜色の髪に整った顔立ち。国王が幼い頃はこんな顔立ちだったのかなと思わせる様な見た目だ。まだ幼いながらも、ランタナのワインレッドの綺麗な瞳で見つめられれば、どんな少女も心を奪われて恋に落ちてしまうだろう。と言っても、ミアは中身がお爺ちゃんなので、そんな事には当然ならない。
寧ろそんな事よりも、ありもしない処刑の可能性に怯えて、今は話題を変えたくて仕方が無かった。
「それよりも第一王子アンスリウム殿下と第一王女サンビタリア殿下と第二王女アネモネ殿下の姿が見えんが、このお披露目会の巡回には来ておらんかったのか?」
「ああ。兄さんと姉さんたちは最初から来ていないよ。三人とも学園があるからね。私はまだ七つだから、学園には通っていないんだ。だからフィーラと一緒に来たんだよ」
「なるほどのう。確か天翼学園は全校生徒が寮生活になるのじゃったな」
(……いや。サンビタリア殿下は既に成人だった筈じゃが?)
ミアが疑問を口に出さず考えていると、国王が突然怒ってランタナを鋭く睨んだ。
「ランタナ。その物言いは何だ? 聖女様に無礼だぞ」
「父さん……いや、国王陛下。無礼かどうかで言えば、それはミアの方です」
「なに? どう言うつもりだ? 聖女様へのその態度。失礼極まりないと知れ」
「そうではありません。ミアは身分を隠す身。成人までは公爵として接していかなければなりません。であれば、今は立場を聖女と王家ではなく、王家と公爵家の関係でいる必要があるのです。そうしなければ、いつか何者かに勘付かれましょう。心苦しくても、身分を隠す為に言葉使いなども徹底するべきなのです」
「しかし……」
ランタナの意見は最もで、流石に国王は言い返す事が出来ずに口籠る。そして、それにはミアも納得だった。
「それもそうじゃな。これからはワシに敬語など不要じゃ。じゃなくて、ですのじゃ」
どちらかと言うと、言葉使いについてはミアの方が不安要素が高いのだが、それはともかくとして漸く国王も納得して頷いた。
「そう言えばなんじゃが、その公爵と言うものにワシがなるわけじゃが、お主等のような高そうな服を着なければならぬのか? ですのじゃ」
国王とランタナは王族だけあって身分に見合う服装で、昨日まで平民だったミアには抵抗のある豪華さだった。と言っても、ミアは公爵なので貴族服になるわけで、王族とはまた別のものになる。が、それでも間違いなく平民とは全く違うので、やっぱり少しだけ抵抗があった。一見どうでもいいような事に思えるが、これから先ずっととなると、やはり気になってしまうのだ。
「ミアの言う通り、当面の間はこちらが用意した貴族服を着てもらって、生活が落ち着いたら自分で好きなものを買うと良いよ。その頃には公爵の者として相応しいものがどう言うものなのか分かると思うしね」
「ぬぬう。やっぱりそうじゃったかあ。仕方が無い。ワシはラフな男物の服の方が落ち着くのじゃが、それは部屋着だけにするのじゃ」
「お、男物……ですか? 聖女様は……ごほん。ミアは兄がいるようだが、平民は少女であっても兄と同じ服を好むと言う事か?」
「そ、そうなのじゃ。はっはっはーっ」
(危ないのじゃ! つい口が滑ってしまったのじゃ!)
なんとか誤魔化せた。と、ミアは思ったが、誤魔化しきれるわけもない。
「あっ」
そう声を上げたのはランタナだった。ランタナはミアを改めて凝視する。
ミアは艶のある綺麗な金色の髪に、まだ幼さのある柔らかい綺麗な肌。小顔で可愛らしく、短めの眉毛と長めのまつ毛に、大きな目には宝石のように青い碧眼の瞳。服装はどっからどうみても地味な村娘と言う感じだが、ドレスを着せたら間違いなく右に出る者がいない程の美しさと可愛らしさを備えている。まるで宝石の原石のような美少女だ。しかし、仮に男児用の服を着せるとどうなるだろうか? と考える。
「いや。だけど……」
「どうした? ランタナ」
ランタナが考え込み、国王が眉を潜めて訝しむ。
「フィーラは帽子を被った王子さまと言っていましたよね?」
「そうだな。それがどうしたのだ? しかし、ネモフィラには悪いが、王子さまとやらは諦めてもらうほかあるまい。聖女様ですら知らぬのだ。思うに、村にたまたま立ち寄っていた冒険者の子供だったのだろう」
「さあ。そうとは言い切れませんよ」
ランタナがミアを上から下まで舐めるように見て、ミアはめちゃくちゃ焦った。が、なんとかそれを隠そうと平然を装う。しかし、そんな時だ。ミアとランタナの目がかち合い、ランタナがニッコリと笑みを浮かべて、ミアが口を引きつらせる。
「王子さまもそう思うだろう?」
「どどど、どうじゃろうなあ?」
ミア本人は気づいていないが、緊張のあまり王子さまと言われたのに返事をしてしまった。身バレ確定の瞬間である。とは言え、気がついたのはランタナだけで、国王はランタナの言いきれない発言に首を傾げていた。




