プロローグ ~出会い~
ギャグと百合とバトルがメインの異世界が舞台の作品で、シリアスとちょいグロが入るけど、基本人が死なない作品になります。
春の国チェラズスフロウレス。桜が一年中咲き誇る名前通りの春の国。争い事とは無縁で、皆が皆助け合って生きている。ある意味では理想郷と言えるそんな気候穏やかで温かな平和な国の辺境で、国を震撼させる程の事件が起きる……いや。
起きるはずだった。
◇◇◇
人通りの少ない夜の雑木林の獣道。そこで、この国の第三王女ネモフィラ=テール=キャロットが謎の男達に襲われていた。
王女の綺麗だった桜色の髪は乱れ、汗で肌に張り付き、それを整えている余裕が無い程に最悪な状況。周囲には、つい先程まで生きていた侍従たちの死体が転がり、王女も殺されかけている。王女はそのワインレッドの瞳を潤ませて、それでも泣かずに男達を睨みつける。しかし、そんな王女に男達は愉快そうな笑みを浮かべた。
「楽な仕事だったな。魔力が高い王族や貴族の騎士って言っても、所詮は五歳の小娘と平和ボケした連中だ。俺達の敵じゃねえ」
男達の筆頭が舌なめずりをし、王女に刃を向ける。男の目には殺気しかなく、まだ幼い王女に慈悲を向ける事は無い。ただ自分の仕事を果たすべく、無慈悲な殺生をするだけだ。
「わたくしはメイクーやルティア達を殺したあなた方なんかに絶対に屈しない! 絶対に最後まで諦めません!」
「ガキの癖に威勢だけは立派だな。流石は王女さまってかあ? だがなあ、世の中には威勢だけじゃどうにもならねえ事があんだよ」
既に王女は体のあちこちに傷をつくり、満身創痍だった。だから、威勢だけと言われても当然の事。王女の必死の抵抗は虚しく、男の言う通りの結果に終わるだけ。
簡単に止めの一撃を受けて悲鳴を上げて、その場で倒れて意識を失おうとしていた。しかし、そんな時だった。
「なんじゃなんじゃ? 随分と物騒じゃなあ。盗賊がお貴族様を襲っておるのかあ?」
不意に聞こえた誰かの声。言葉使いはお年寄りそのものだが、その声は幼く可愛い。そしてそれはここにいる全員と関わりの無い者の声だった。
誰とも関わりが無く、間違いなく場違いな可愛らしい声に襲撃者たちが眉を顰め、声のした方へと視線を向けた。すると、そこにいたのはちょっと大きめの帽子を被った百センチにも満たないお子様。ここいらの地域の男の子向けの民族衣装を身につけていて、パッと見は王女様より年下で、どう見ても幼児である。
「なんだあ? てめえは?」
「ワシか? ワシは見ての通りのこの村の子供じゃ。ほれ。民族衣装を着とるから分かるじゃろ?」
「そんな事を聞いてんじゃねえ。ふざけたガキだ。まあいい。てめえら、このガキを殺せ。どっから迷い込んだか知らねえが、現場を見られたからにゃ生かしておけねえ」
男が命令すると、直ぐに仲間の男達が武器を構える。だが、その直後に信じられない事が起きた。
「――っな!? おい! どうした!?」
男が驚愕して声を上げ、仲間達に視線を向けた。
何故男は驚いたのか? それは、仲間達が次々と倒れていったからだ。しかも、全員白目を剥いて口から泡を吹き、完全に意識を失った気絶。それはまるで圧倒的な力で攻撃をされた様で、暫らく起き上がる事は無いと一目で分かる惨状。
「ぬぬう。やっぱりそうじゃ。ジェティの奴め、あれだけ調整しろと言うといたのに、殆ど変わっとらんではないか。困ったものじゃ」
「何言ってんだ小僧? これをてめえがやったって――」
「す、凄い……。あなた様はいったい……?」
「――っなに!? ど、どうなってやがる!?」
突然驚く男の視線は王女に向けられていた。しかし、それは当然と言える。年寄り臭い喋り方をする幼い声の子供に「凄い」と言って驚いて疑問を述べたのは、止めの一撃を受けて死ぬ筈だった王女だったからだ。王女はまるで何も無かったかのように傷一つない状態で、そこに立っていた。
そんな馬鹿なと男は王女を凝視するが、その体には傷痕すら無い。だが、間違いなく止めをさしたのは事実。何故ならば、止めの一撃だけでなく散々傷つけた時の名残りの切った痕跡が、王女が身につけているドレスに残っているのだから。
「あれ? 痛くない。うそ? 傷が……ふさがっています」
王女も自分の状態に気がついて驚いたが、しかし、こんなものは序の口にすぎなかった。驚く事に、今度は殺され倒れていた侍従たちが次々と目を覚まして立ち上がったのだ。
王女と男はまるで狐につままれた様な気分で起き上がる侍従たちを見て、そして、次の瞬間に男だけが白目を剥いて倒れた。
「うむ。さっきよりは手加減出来たのじゃ」
王女が、そして侍従たちが状況を飲み込めずに動揺し騒めく中、くっきりと聞こえた謎の年寄り臭い喋り方をする子供の声。王女はその声にハッとなって我に返り、子供に駆け寄った。
「助けて頂きありがとうございます」
「礼には及ばんのじゃ。ではのう」
「待って下さい! せめてお名前を……っ!」
王女が呼び止めるも、年寄り臭い喋り方をする子供はあっという間にいなくなる。そして、直ぐにいなくなってしまった謎の子供の背中を見送った王女は、頬を染めてうっとりとした表情で呟いた。
「王子さま……」
と。それは、間違いなく恋する乙女の顔だった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
今作は長編を予定しています。
暫らくは毎日一話は更新出来るように頑張ります。
それでは最後に、もし『面白い!』と感じてもらえましたら、
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お読みして下さった方々に、楽しい時間を提供出来るよう頑張ります。