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元素使いの転生記  作者: 飛鳥文化アタッカー
1人ぼっちの元素使い
1/1

はじまり、はじまり


◇◇◇◇◇


side ???


──ここは、かつて空から氷の塊が落ちて来たと言われるとある村の残骸だ。7年前のある日、どんな歴史にも無い、どんな研究所でも観測した事のない突発的な異常気象が起こり、村人も、偶然この街に来ていた近くの領主も、周辺の森すら諸共に巻き込んだ大氷塊。巷では『大霰』とか言われてやがる、巨大な氷の塊が降ってくる現象だ。元々温暖だった村を押し潰し、一瞬にして雪の降り積もる土地にするような異常気象だ。


そんな事が起こった場所に、俺は調査にやって来ていた。


俺は冒険者ギルドの冒険者だ。等級は銀で、中堅ではあるが、長い間冒険者として活動してきた自信がある。木級の頃から努力して銅級になって、そっからまた銀級になるのに死ぬほど努力して、装備にも金かけたんだ。自信を持たなくてどうするよ。知り合いの奴らからは、このまま堅実に仕事してりゃ金級だって目指せるって言われてるんだぜ?そら、余計努力するに決まってらぁ。


そんな俺は、巨大な氷の玉、大霰が落ちてくるという異常気象の起こった村──ミルナ村の跡地に、調査にやって来たって訳だ。この調査依頼は国からの依頼なので、報酬の金銭は非常に高い。取るべき行動もある程度縛られるが、むしろそれだけだ。つまり、かなり良い依頼って訳だ。初めの頃は競争率も高かったそうだが、最近はそうでも無いらしい。


それは、この依頼でこの村に来たやつは誰一人として帰って来ていないからだ。噂では、金級冒険者の二つ上である白銀冒険者が向かったってーのに帰って来ていないくらいだ。よほど強い魔物が流れ着いていやがるのか、考えたくはないがヤバい魔物が空から落ちてくる氷を作り出したのか………とにかく、この村跡地にはナニカ(・・・)が居る。それは、銀級の俺でもわかってる。


今月の俺は金欠気味だ。だからこの依頼を受けた。調査と言ってもこの村に何が起こったかを調べる訳じゃない。どんな魔物が居るのかを調べるだけで良い。名前も分からなくていい。どんな魔物がどのくらい居た、くらいの適当な報告でも、十分に金は貰えるからな。なんせ、この依頼の成功者は皆無だ。噂すら立たねぇくらい危険な場所だ。


だから、俺はそこに目を付けた。ちっとだけ村の中に入り、コソコソ隠れ続けて、そして見つけた魔物をちっとだけ確認して、そんでやべー奴の顔見て帰れば金を貰えるんだ。


………さて、もう村に着いたはいいが………かなり寒いな。落ちて来たらしい大氷塊の残骸の影響か、この村周辺は温暖じゃねぇからな。周辺一体に常に雪が降ってるくらい、この辺は寒いんだ。にしても、7年前に降った氷が未だに残り続けてるってのが末恐ろしい。見たところ魔力は感知出来ねぇし、魔法の産物って訳じゃないのが更に恐怖を掻き立てる。こんだけデカい氷の塊を魔法じゃねーのに作れる魔物?それは、一体どんだけやべーやつなんだよ。


そう、この村跡地で1番異様なのは氷だ。空から雹のように落ちて来たらしい大氷塊。巷では大霰なんて噂される原因。それが、村の跡地に残っている。ちょっとした山とか豪邸みたいなデカさの氷が、降り積もる雪に覆われて、デカイ雪だるまの割れた身体みたいになってやがる。所々雪が積もっておらず、氷が剥き出しになっていたりするが………そんなの気にならなくなるくらいには、とにかく、デカい。それ以外の感想が湧かないくらいデカい。


俺は一先ず、氷の山に少し登って周辺を見渡す。ギシギシと鳴り響く足元の雪のおかげか滑る事はなさそうだが、油断していると滑り落ちて死にそうだ。落ちて来たらしい巨大な氷の破片は村のあちこちに、村の外にある森の中にさえ氷の破片が飛び散っている。破片ですらそこらの家くらいデカい。本当に落ちて来たらしいとわかるような………なんというか、氷はまるで、皿を落としたみたいに破片が飛び散っている。正に高い所から落とした、みたいな光景だ。少なくとも俺は、こんな天気も魔法も見たことねぇ。


「うげぇ………」


少しばかり見えづらかったが、動きが僅かに確認できた。雪魔狼、しかもかなりの強さの雪魔狼だ。雪魔狼とは、非常に身軽で素早く、非常に狡猾で、さらには雪に紛れ、そして氷と雪の魔法を使い敵や獲物を狩る、最低でも金級、下手すりゃ白銀級の魔物だ。しかも、あの個体は恐らくここら一体の雪魔狼のリーダー格なんだろう。この距離だから気が付かれていないが、あのリーダー格は恐らく白銀級、これまた下手すりゃ白金級の、正しく災害みたいな強さの魔物だ。他の雪魔狼と比べて一回りも二回りもデカいな………あいつがこの付近の雪の影響か………?


って言うか雪魔狼が居るとかやべぇぞ。さっさと退散しねぇと………っと、他にも魔物は居るらしいな………あれは………!エレメントシープか!


エレメントシープとは………火、水、土、風、雷、光、闇、氷などの、自然に関する魔法の力を持った、平均にして5mを越える大きさの、銀級の魔物の羊だ。一体一体はデカイだけでそこまで強く無い。銅級の冒険者でも倒せるくらいには弱い部類に入る。だが、あいつらはめちゃめちゃデカいな群れを成す。今はあいつ一体しかしか居ないみたいだが………エレメントシープは群れを成すと、群全体で魔法を使って協力して、外敵をぶちのめす。その群れの規模によっては、下手すりゃ最低でも白金級の魔物とか呼ばれてるドラゴンだってぶっ殺せるくらいにはヤバい。無闇に手を出して群れを呼ばれたら、俺じゃ捌き切れなくて死ぬ。魔法の物量にやられて死ぬ。間違いねぇ。やべぇ、ここは本当にやべぇ。どうにかして逃げ──


「───誰?」


──ない、と?


振り向こうとする。しかし身体が動かない。背後から声が聞こえてきた。幼い子供の、しかも恐らく女の子の声だ。


──なのに、凄まじい威圧。凄まじい殺気。一寸も身体が動かない。怖い。身体が震える。寒さのせいじゃない。この子の、この子供の、あまりにも濃密な殺気のせいだ。


「貴方は、ここに何をしに来た?」


「っ………お、俺………は………」


声が震える。手足が覚束ない。何故だ?何故ここに子供が居る?この子供は何かの魔物なのか?それとも本当に人間の子供か?駄目だ、殺気のせいで思考が纏まらねぇ。


「何を、しに来た?」


質問された。子供なのに末恐ろしい。だがしかし、ここで正直に話せば、殺気を向けられている理由もわかるかもしれねぇ。魔物だったとしても情報くらい得られるかもしれねぇ。とにかく今は、会話を、対話を──


「おれ、俺、は………この村の調査をし──」


「そう。さようなら」


「──え」


俺の首が───落ち、た?









◇◇◇◇◇


side:⬛︎⬛︎⬛︎


私は処理をした冒険者という集団に所属していたであろう人間の装備を剥ぎ、その所持品を漁る。装備は革防具だが、節々に金属がふんだんに使われており、私の貧相な少女の身体で持ち運ぶ事は困難を要する。なので、私が側にまで引っ張ってきた木製のソリに漁った装備と所持品を乗せ、そのまま死体の元から去る。既に死体は分解した(・・・・・・・・・)ものの、だからと言って匂いなどはそう簡単に消せるようなものではない。血痕だって欠片も残していないが、だからって完璧とは言い難い。常に最悪を想定する事が、生き残る上での絶対条件。それを、私はこの12年で学んだ。


「ん………」


武器防具に携帯食料、通貨や小道具は勿論、枝や木の実、そして近くの炭鉱跡地で拾うことのできる石炭など、色々な物を乗せたソリを黙々と引く。この辺りは年月にして約7年前から雪が降り続け、雪の勢いが止む事は殆どない。


「………」


黙々と、表情も無く、ただ淡々とソリを引く。雪の上を歩く。足音は出さず(・・・・・・)、周囲の警戒は決して怠らない。私の感知(・・)だって別に無敵じゃない。所詮は空気の揺らぎを感じ取る技術であり、周辺地域の物の動きを知覚するだけの技巧なのだから、私が感知するよりも以前からある物の形は把握できても、その内容物は、その中身は、その全ては把握出来ない。この技術によって得られる情報は信頼しているが、それ以前に私が冷静な精神状態でなければ情報の把握すら不可能だ。常に最悪を想定し、常に警戒する。


「………ん」


周囲に広がるのは、降り積もる銀色の雪景色と、7年前に空から落ちてきた大氷塊の残骸。今も溶ける事なくあり続ける厄災の形。あの大氷塊によってこの辺りの気候は変質した程、残骸一つとっても私の背丈を優に越える巨大な氷の星の欠片。


そのかつての災害の残滓の中にこそ、私の住う家がある。


「ん………」


大氷塊に穴を開け(・・・・)、ソリを引いたまま中に入る。そうして進んだ先にあるのは、大氷塊の中に広がる大きな内部空間と、一軒の小屋と言っていいほど小さな家。昔はもう少しだけ大きかったが、7年前に半焼してしまって、そこからすぐに建て直した、愛しの実家だ。


「………ただいま」


返事は無い。当たり前だ。ここにはもう、私しか居ないのだから。………それでも、毎日、毎日………誰か居るんじゃないかと期待してしまう。でも、居ないのが現実だ。


「………」


引いてきたソリの中身を漁る。食料は地下に作った冷凍食料棚に、布、革、木材、金属などの素材類は部屋の隅に置いてあるガラクタ箱の中に、小道具や通貨のような再利用可能な小物は引き出しの中に、装備や防具のような嵩張るし材料もし辛いものは分解(・・)してから素材にする。


「ん………」


持ち帰った物の整理が終わったら、溜め込んだ薪を暖炉に投げ入れてから、暖炉の上に置いてある金属片と火打ち石同士を手に取って、その二つを上手く引っ掻いて火花を散らし、まずは乾燥した木の破片に火を付け、次に小さな薪に火をつける。そうしたら適度な風を断続的に送り込み、少しずつ少しずつ、薪の炎を強くしていく。大きな薪を火のついた薪の上にして、燃え広がりやすいよう位置を調整。そのまま待機をしていれば、次第に炎は大きな薪に燃え移り、急な熱波が私の顔を覆う。ここまで炎が大きくなれば、後はどうとでもなる。


大きな薪を追加で4、5本優しく入れてから、まずは真っ白もこもこな手袋を脱いで棚の上に載せておく。次は部屋の壁にかけられていた木製のハンガーを手にとって、まずは1番上に着ていた真っ白ふさふさな防寒コートとそのコートを身体に密着させる為の黒いベルトを脱ぎ、部屋の中で1番暖炉の熱が当たりやすい位置の壁にかける。ベルトは手袋の隣に優しく置く。次はこれまた真っ白なイヤーマフを頭から取り外して、ベルトと同じ棚、ベルトの隣へ優しく置く。


そうしてテキパキと脱いでいって、残ったのは真っ白な長袖ワンピースと、真っ白もこもこな靴下と下着とインナーと、暖かい真っ白ブーツ。そして、真っ白でとっても綺麗なマフラーだけ。


そして、そのマフラーには。


「………ん」


───『シャル』、という名前が刺繍されている。私の大事な、大切な、お母さんから貰った私の名前。決して忘れない言葉。忘れてはならない記憶そのもの。刺繍されている私の名前を撫で、少しだけ目を瞑る。


「ん………」


目を開けたらマフラーからは手を離し、暖炉の側に置いてある毛布を手に取って、薪を1、2本追加してから、私が一から作ったロッキングチェアに腰掛ける。毛布を被って、暖炉から少し離れた良い位置に居れば、身体の寒さは、あまりない。


「………」


今日も昨日も、毎日毎日外に出て、必要なものを探して、それで帰ってきたらこうして眠るだけの日々。食事は、あまり摂れない。1日2食が限度だ。けれど、私は別に構わない。私はまだ戦えるから、大丈夫。


今日はもう、眠ろう。しっかり眠って、身体の疲れを少しでも癒そう。それが、1番良い。


「………おやすみ、お母さん………」


もう居ない(・・・)母親におやすみの言葉を投げかけて、私は沈むように眠りについた。




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