第十二話 童貞を殺す鎧 その4「世にも珍しい光景」
「待て!」
ムテの剣でタナカに斬りかかるデーツ。またしても剣を交える二人だが、今度はアストリアの拳も加勢する。
だが、物の見事にタナカはそれらの攻撃を剣一つで抑えている。
「タナカってこんなに強かったか!!!?」
「鎧のおかげでもあるんだろうが、こいつ自身の元々の腕もそう悪くない。と、我は思っているがな」
彼女らが戦っている間に多くの童貞が避難をしたが、中には認めたくないのか、あるいは物珍しさからか野次馬に徹する者も残っている。
そんな者達の中に童貞を見つけたのか、タナカの剣はまた伸びて彼らを襲おうとする。
「させるか!」
デーツがなんとかムテの剣で防ぐも、剣が二股に分かれてまた男達の方へ伸びる。
「お前ら、どっか行けー!!!」
今度はアストリアが、その男達を遠くへ投げ飛ばして、剣が刺さらないようにした。
刺さらなかったのはいいものの、ちゃんと着地出来たかは疑問である。
すると、そこに別の男が盾と槍を持って突撃しててきた。
「ここで喧嘩が始まったと聞いて戻ってきたぞ!
効力は失ったらしいが、それでも俺は世界を救った男なんだ! ここは俺に任せろ!」
やってきたのは、先程ローナがボロの盾と槍を売った男である。
「あっそ、死ね」
だがやって来たのも束の間、タナカは彼に襲い掛かるとボロの盾と槍を完全に破壊し尽くす。
そして倒れた相手に止めを刺そうと、剣を振り下ろすもデーツの剣に止められる。
「なんだこいつ。そんな見窄らしい武器で戦えるかよ。どんな店で買ったのやら」
「団長!! この盾と槍、うちの店に置いてたぞ!!!」
「ああ、うちの客だったか」
余裕そうに会話するデーツだが、全体重を載せたタナカの剣を止めるのにかなりの力を使っている。
すると、彼女の頭に雫が一粒落ちた。顔を見上げると、それはタナカの目からこぼれ落ちた涙だった。
「もう‥‥…殺しは……たくさんだ……」
虚な表情ではあるが、必死に抵抗して絞り出された言葉は紛れもなく彼自身の本音だ。
「タナカ、お前……」
そしてデーツはボロの盾と槍に目をやった。
「ローナのやつ、この盾と槍を売ったって事は、今回も例の魔法を使ったはず。
おーい、さっき踊りに協力してくれた諸君! もう一度踊ってくれないか」
その言葉に戸惑う人々。
「頼む、倍は払うしお前達のことは絶対に守る。
むしろ踊らないと我が襲うぞこら! あと、童貞は遠慮なく申し出ろ」
脅しに屈したのかみな一斉に踊り出した。
「なんで踊らせるんだ団長!!?」
「戦ってて気づいたが、我らの攻撃には防戦一方で、反撃することなど一切してこない。
つまり、童貞を殺す鎧は逆に童貞しか殺せない鎧でもあるってことだ」
踊りが続くにつれてタナカは人々に囲まれる。
童貞を見つけて殺しに行こうとするも、踊っている人々に邪魔されて立ち往生するしかない。
剣を伸ばしても、踊る人々のステップを掻い潜れずにあちこち移動するだけになっている。
「どうした手も足も出まい」
「どうだ!!! 参ったか!!!」
デーツとアストリアも一緒に踊りながら、タナカを挑発する。
「団長! 説明書が見つかった! って、何この踊りは」
バーベラが説明書を携えて戻ってくる。
「でかした! で、方法は?」
「待って急いでたからまだ読んでない」
一瞬で読み終えたバーベラは、何処かに行きすぐに戻ってきた。
「で?」
「もう終わったよ。背中があんなに空いてたのはセーフティロックのためだったのさ」
するとタナカが身悶え始める。
「彼の背中に入れたのさ。鰻を」
「うわーお。気持ち悪」
「あそこにぬるぬるする生き物を入れると、次第に鎧が外れるって書いてある」
「凄いセーフティロックがあったものだな。個人的にそういうの嫌いじゃないが」
まるで踊りのようにくねくねと動き回るタナカ。やがて鎧が徐々に外れていき、履いていたパンツさえも全て脱げていつものモロダシになってしまった。
「うう、嫌な目にあったぜ」
タナカからは一切の闇が抜けて、完全にいつもの彼に戻る。
「最早モロダシを気にしなくなったなお前」
「畜生な事に慣れちまったよモロダシ」
「流石はタナカだ!!!」
鰻の粘液でぬるぬるになったタナカの一部が、民衆に堂々と晒さられる。
「団長、とりあえずこの鎧どうする?」
「持ち帰って封印しておこう。呪いが解けたってことは、我らの”親類“じゃないんだろうが、それでも危険な物に変わりない」
その言葉を聞くとバーベラは鎧を布で一瞬にして包み、“開封禁止”の札を張って手押し車に乗せる。
そして踊ってくれた人にお金を配る最中、マァチとローナ戻ってくる。
「あのお爺さん、なんとか一命は取り留めたよ」
「間一髪」
「そっか。じゃあ、ムテ騎士団よ。我らのすべき事をするぞ」
デーツの掛け声と供に、タナカは世にも珍しい光景を見た。
なんとムテ騎士団の面々が彼に頭を下げたのである。
「うわ!? お前らでも頭下げることあるのか!? 怖! え、怖!」
「謝ってるのに引く奴があるか!
まあ、でも今回ばかりは我々が悪かった。ふざけすぎた。とんでもない事をした」
「まあ、そうだね。うん」
デーツの口から初めて聞く真っ当な言葉に、タナカは困惑の念しかなかった。
「だから、これからは二度としない。童貞弄りは」
「童貞だなんて言ってすまない」
「もう童貞だなんて二度と言わないよ絶対」
「童貞を弄るのはもうやめるよ」
「タナカは童貞じゃない!!!!」
「本当に反省してんのかなこれは……お前らにはもっと反省すべきことがあると思うが、まあ許そう」
タナカはある意味で、ムテ騎士団のそのいつもの身勝手さに安堵していた。
「それに、お前の涙見ちまったしな」
「泣いてたのか?俺」
「覚えてないのか?」
「ああ、何回か意識を取り戻そうとしたのは覚えてるがな。自分達を棚に上げて爺さんになんか言ってた時とか」
「そうか、まあいいさ。とにかく夕方だ帰ろう」
夕陽が沈みゆく。デーツはタナカの顔から目を背けて歩き出した。
しかし、急に何かを思い出したかのようにタナカに詰め寄る。
「じゃあ仮に童貞じゃないとしてだ。初体験の相手は誰か教えろ!」
「全然反省してねーなおい!」
次回へ続く。




