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峻烈のムテ騎士団  作者: いらいあす
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第十一話 吟遊詩人のバラッド その3「さらば英雄の歌」

 カモンの言葉に益々混乱するタナカ。


「なんでそんなことを!?」

「まあ聞けや若いの。俺はな、罵られたいんだよ」

「ああ、なんだそういう趣味か」


 流石にカモンは怒ったのか、口に含んだ酒を霧状のようにして吹きかける。


「いててて! 目に入った! てか、汚ぇ!」

「まあ聞けや若いの。俺は疲れたんだよ、英雄として祀り上げられるのが」


 カモンは腰かけて、遠い目をしながら話を進める。その間、ムテ騎士団たちは悲しい曲を演奏する。


「昔から剣一つで、何も考えずにあらゆる戦場を駆け抜けて、次々と敵を殺めてきた。

 当時はそれが普通の事だと思ってたし、何よりみんな褒めてくれたからよ。ほら、今でも歌になってずっと褒めている。とにかくそれが俺にとって価値あることだと思っていた。

 だが、統一戦争の最中にそれが変わっちまった」


 酒がなくなったのかカモンは瓶を放り投げる。するとバーベラがすぐに新しい酒を持ってきて、彼はまた飲み始める。


「ある時、敵国へと侵入してその国を陥落させろって命令が来たんだ」

「つまりそれって」

「そう、国民を殺せって命令だ。

 ここからがバカバカしい話なんだが、今まで戦場で兵士を殺すのは普通にやってきた俺だが、民間人を殺すのは初めてだった。まあ、つまり統一戦争ってのがいかに歪んだ戦争だったかって証拠だ。

 で、その時の俺は兵士も民間人を殺すのも同じだと思って、その命令を実行したさ。

 だが、違った。鎧越しに肉を断つ感覚と、ただの布切れ一枚越しに肉を斬るのとでは全然違った。その違いの意味に俺は早く気付くべきだった」


 するとカモンは咳き込みながら、胃の中の物をぶちまける。


「今でも思い出すのが苦痛だよ。無抵抗な人間の体を刻んで、泣き叫ぶ子供の首を絞めて。

 嫌だ嫌だと思いながらも、頭の中で俺を称える歌を思い出しながら、俺は英雄なんだと言い聞かせて殺し続けたさ。

 そして殺しつくした後で気が付いた。"なんてこった、これは間違いだ"と。

 バカバカしいだろ? 何もかもがバカバカしい。だがもっとバカバカしいのは、俺が祖国へ帰ると、みんなが俺を称える歌で出迎えてくれたことだ。

 "カモン お前は英雄""、"カモン お前が正義だ"、"カモン"、"カモン"、"カモン"。俺がやった過ちをみんな歌にして、嬉しそうに広めるんだ。これ以上バカバカしいことはない」


 カモンからは大粒の涙が溢れていた。そして一気に酒を煽る。


「その日のうちに、俺は国を抜け出して酒に逃げる日々を送ったさ。だが、酒を飲ませてくれるところは常に俺の歌が歌われてる。

 吟遊詩人を脅して、二度と歌うなと口止めもしたが、それでもみんな"英雄カモンの歌"が好きなんだ。最早止められない。

 だがある時こいつらに、ムテ騎士団に出会った」


 するとカモンは一瞬黙って、デーツの方を見た。


「なあ、この時の話をこの若いのにしてもいいかい?」


 その質問に、ローナに貸してもらったハンドベルを鳴らしているデーツは首を横に振った。


「ああそうかい。じゃあ出会いのところは端折るとして、とにかく彼女達が面白い提案をした。逆に俺の事を咎める歌を流行らせてはと。

 変わった案だが、でもほら、笑えるだろ?」

「う、うーん。まあ、はい」


 タナカは返事に困ったが、とにかく笑えるという事にした。


「だから時折、ムテ騎士団に頼んでこの歌を歌ってもらうんだ」

「なーに、我らが歌を歌いたい気分になった時だけだがな」


 演奏に徹していたデーツもこの時はそう答えた。


「でも意味あるのかこれ?」

「これがあるんだな。わずかにだがな。他の地域だと俺を咎める歌が主流になってるらしい。

 流石に子供が"世界一の糞野郎"って歌ってたのはドン引きしたが」

「いや、それはあんたの責任じゃん?」

「とにかく、この歌を広めることに意味はある。

 罪なき人を殺して英雄になれるなどと勘違いする奴を出さないためにもな」


 そうして彼は一気に酒を飲みほした。


「もう一本」


 しかし、眠気に襲われたのか彼は舟をこぎ始める。


「流石に、今日はお開きのようだ」


 デーツは演奏をやめて、カモンから酒瓶を奪った。


「じゃあな、爺さん。また歌いたくなったら連絡する。じゃあ帰るぞムテ騎士団」


 デーツの呼び声と共に、ムテ騎士団は演奏する手を止めて帰り始める。タナカもそれを追う。

 すると、カモンが彼を呼ぶ。


「おい、若いのー。お前も頑張れよー。お前さん、俺と同じ目をしとるからなー」


 そう言って、彼は地面に寝っ転がって眠りについた。そしてタナカは、彼の言葉に返事することはなかった。

 その日の深夜、地下牢で寝そべっているタナカにローナが会いに来る。


「タナカ君、起きてるー?」

「まあな」

「じゃあ、これあげる。タナカ君も何か演奏できるようになると、男としての貫禄が出るかもしれないっぽい感じが出せる可能性がわずかながらあると思いたいといいね」

「すごい曖昧」


 そんな曖昧ローナがタナカに渡したのは、婉曲した木の板に弦が張ってあるという、一見すると弓のような物であった。


「なにこれ?」

「楽器だよ。確かズンドコって名前だったかな? その弦を指ではじくと音が鳴って、で、その木の板を伸び縮みさせると音階が変わるの」


 タナカが試しに弾いてみると、低い音が牢屋内に響いた。


「思ったよりもちゃんと音が出るな」

「気に入ってくれたなら何より」

「いや、別に気に入ったわけじゃ。ていうか演奏する気もないから! もちろん歌う気も!」


 しかし、ローナはタナカの言葉をちゃんと聞かずにその場を去ってしまう。


「たく、なんで俺が」


 とは言いつつ、タナカは手持無沙汰だったのか、ズンドコで色んな音を試しに出していた。


「ファッキンザカモン ファッキンザカモン」


 と、気づかぬうちに口ずさんでいたとさ。



 次回へ続く。

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