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峻烈のムテ騎士団  作者: いらいあす
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第十話 賢者のお仕事 その4「食事」

「あれ?私、ここで何を?」


 ヤンマが目を覚ますと、そこは燭台の灯りがいくつもならんでいる薄暗い部屋だった。


「体が・・・・・動かせない!?」


 彼女の体は縄が縛られ、木の板の上に置かれている。


「木の板? それにこの縄はどこかで」


 頑張って目線を下に向けて、自身を縛る縄を見る。それは赤と青の縄だった。


「これって昼間の!? てか、この部屋自体!」


 そう、ここは第2と第3の試練が行われた縄の部屋である。


「誰か! 誰か説明してください!!」


 すると、部屋に豚の顔の皮でできたマスクをかぶった者達が部屋に入ってくる。

 そして、最後に入ってきた豚マスクの者は椅子に乗って担がれている。どう考えてもタークレ女王である。


「女王!? これはいったいどういうことなんですか!?」

「君は選ばれたのだ賢き者よ」

「選ばれた!? 何に!?」


 豚マスクのうちの一人が、大きな肉切り包丁を取り出す。


「何って、メインディッシュぞよ」


 冷静な声で答える女王。ヤンマは、アストリアの言葉を思い出し、自分がまな板の上に置かれていることを理解してしまった。

 あの時は怒りでろくに考えていなかったが、このまな板が人間用であることを誰も否定していなかった。


「わわわわわわ私美味しくない! やめた方がいい!やめた方がいいですー!!」

「安心てしていいぞ。我々は味に興味はないのだ。必要なのはそなたの知恵」

「ちえ!?」

「我がドルコス王家は、賢き者の肉を食すことでその知恵をいただくのだ」

「そんなの全然賢くない方法ですううううう!!」


 豚マスクの料理人は刃物を掲げてヤンマに近づく。


「いやああああああ!お助けえええ!!」


 その時、地下室に大きな轟音が響く。


「たのもおおおおおおお!!!!!!!!!」


 耳をつんざくその大声の正体は、顔を見ずともこの場にいる誰もがわかった。賢者アストリアである。


「そなた、どうしてここに!」


 豚のマスクの女王は、耳を塞ぎながら言った。


「忘れ物してた!!」


 木炭の入った麻袋を掲げるアストリア。どうやら、彼女は食事の時に買い物袋を食堂に置いてきていたようだ。


「そしてお腹空いたから城の中をさまよった!! そしたらここから人が集まる声が聞こえた!! だから来た!!

 てか、お前らやっぱり豚料理食べたんだなー!!!」


 豚のマスクを指さすアストリア。すると、縛られているヤンマを見つける。


「お前何やってる!!」

「助けてください! 食べられそうなんですー!」

「お前・・・・・豚だったのかー!!?」

「ちがーう! いいから助けてくだしゃいー!」

「わかった!!!」


 アストリアは、襲い来る豚マスクの家来たちを拳で薙ぎ払いながらヤンマの元へ駆けつけ、そして素手で縄をちぎって救出する。


「ふぅ・・・・・やっぱり体を鍛えるのも賢いのかも?」

「喋ってる場合じゃないぞ!!! 私も喋ってるけどな!!」


 襲い来る豚マスクを殴るアストリア。しかし、戦う手段がないヤンマは逃げ惑うばかり。


「これを使え!! かっちかちなんだぞ!!」

「これって?」


 アストリアから投げられたのは木炭であった。それを受け取り、しどろもどろと動けずにいるヤンマだったが、襲い来る豚マスクを勢いつけて木炭で殴った。


「ぶぎゃあ!?」


 殴られた豚マスクは気絶してしまう。


「ほんとうに硬いですねこれ・・・・・怖っ。て、ぎゃわあああ!」


 次々襲い掛かる豚マスクを殴るヤンマ。アストリアも負けじと鎖を振り回し次々と薙ぎ払う。


「ふはははは! 問題だ! 我が王家に逆らうものがどうなるでしょうか!!」


 女王は座っている椅子のひじ掛けを取り外すと、そこには大きな斧が収納されていた。そしてそれをアストリアにめがけて投げつける。

 しかしその刃を手で受け止めたアストリアは、そのまま斧を砕き、そして女王の元へと走っていく。


「うおおおお!!! 答えは・・・・・しらーん!!!!」


 大きなアッパーで椅子ごと女王を殴る。

 女王はそのまま勢いで、地下室の天井をぶち破り、真上にあった庭まで突き抜けてしまった。皮肉なことに、突き抜けて出た場所は、真上から見ると、ちょうど豚のケツにあたる部分であった。


 その後、城の全ての者を殴り終えたアストリアとヤンマは城を脱出していた。


「ひー・・・・・死ぬかと思ったー」

「死んだら思うことなんてできないぞ!!! いや、ローナは思うことが出来るか!!」

「ほんとにほんとにあなた賢者ですか?」

「ああ!! 私は天の賢者アストリアだ!! まいったか!!」

「ええ、ええ、ええ、まいりましたとも」

「そっか!! じゃあな!!」


 木炭の入った袋を担いで去っていくアストリア。ヤンマはその背中に賢さは見なくとも、少なくとも勇敢さだけは見えていた。

 そして数日後、山奥にある天の賢者本部へと戻ったヤンマは、今回の依頼についてを、この場所の統治者である元老院の者に報告していた。


「以上が報告です。まあ、つまりはドルコス王国は危険なので、今後依頼を受けないようにした方がいいよってことですね。

 そもそもそも、もっと依頼人の身辺調査はすべきかと」


 しかし、その報告を受けた元老院の老人は声を低くして答える。


「我々が無能だと言いたいのかね?」

「あ、いえ、そういうことではなく! あの、はい! なんでもないです!

 あ、あとアストリアというものは何者なのでしょうか? 彼女は果物を食べたから追放されたと言っていましたが」

「ヤンマよ」


 老人は先ほど以上に声を低くする。


「は、はい!」

「お前さんは、まだ我ら天の賢者の一員となったばかりだから、少しだけ授業をしてやろう。

 世の中で最初に得るべき知恵は、自分が"出る時"かそうじゃないかを見極めることだ・・・・・わかるな?」

「あ、はい・・・・・では失礼します」


 急いで元老院の部屋を出ていくヤンマ。彼女は元老院の言葉で、ますますアストリアという賢者のことがわからなくなった。


「何があったんでしょうねあの人たちに。

 あ、そういえば、借りっぱなしでしたね」


 彼女は服の中に入れていた木炭を取り出して眺めた。


「やはり、少しは鍛えた方がいい?」


 そう言って木炭で素振りしてみる。しかし、それが手からすっぽ抜けて遠くにいた賢者にあたってしまう。


「おっとー」


 その場を逃げていくヤンマ。やはり、彼女は"出る時"を学ぶべきのようだ。



 次回へ続く。

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