第十話 賢者のお仕事 その2「庭の形」
しばらくして、家来の一人が二人を中庭にまで案内した。
「ではまずは第一の試練。この庭の形を答えよ」
「あ、急に始めるんですね。しかも第一って」
中庭に入った瞬間に急に問題を出す女王。仕方がないのでヤンマは急いで庭の様子を観察する。
「ふむふむ、綺麗に刈り取られた芝生と低木。しかも、所々直角や湾曲の形に並べられているのを見るに、おそらく上から見るとなんらかの形になるよう設計されているようですね。
つまり庭の形を答えるというのはそういう意味のようですね。
ちょっとそこのあなた」
ヤンマは女王の側近の一人に話しかける。
「あなた身長は?」
「178です」
「成る程、約180。ではそこに並べられてる低木の一番端に立ってください」
「はい」
側近の者は歩いて指示された場所に立つ。ヤンマは彼の反対側の端の低木の側に立ち、平行に腕を伸ばして人差し指を立てた。
こうすることで、自分の指と側近の者の縮尺を比べておおよその距離を測っていく。
それを端ごとに繰り返し、その縮尺を頭の中で組み立てていき、一つの図にする。
文章にしてしまえば簡単なことではあるが、実際にやると至難の業であることは違いなく、ヤンマは何度も庭を往復しながら頭の中の図をひねり出している。
「むむむ。えーと、四つ同じ場所があるから、ここはおそらく」
そうブツブツ呟く彼女には、二つ気になることがあった。
一つは、壁に大きな木の板が立てかけられていること。ただ置かれてるだけの木材なのか、それとも問題に関係あることなのか。
そしてもう一つ気になるのはアストリアのことであった。彼女はヤンマとは対象的に何一つ動かず、距離を測ることも、庭をめぐることもしていない。
何も調べずに当てるつもりなのかと疑問に思うも、今は集中すべきだと頭の中で図を作ることに集中する。
やがて短い足のような形が思い浮かび、次に顔やお尻の形が出来上がる。そして尖った耳と突き出た鼻からその正体に気づく。
「「豚だ!!」」
ヤンマとアストリアが同時に答える。
「おー、お見事正解だ。いかにも、この庭は豚の庭ぞよ」
手を叩く女王。家来の一人が持ってきた見取り図には、確かに豚の絵が描かれていた。
しかし、ヤンマは成功した喜びよりも驚きの気持ちの方が強かった。
「あなたあなたあなた! どうやって一歩も動かずに答えがわかったのです!」
ヤンマはアストリアに詰め寄る。
「答え? なんの話だ!!」
「え? だから庭の形を答える問題のことでしょうに」
「そんなのやってたのか?!」
「えー!? 聞いていなかった!? じゃあどういう意図で豚と答えたんですか」
「ああ、あれのことだ!!」
アストリアは、壁にかけられた板を指差す。
「あれはどこかで見たと思ったら、思い出したぞ!! 豚用のまな板だ!!」
「そうなの!?」
「あ、違います」
やんわり否定する側近の者。
「まさか聞いてない上に、関係ないことすら間違えるとは」
「豚じゃないのか!! この地方で大きめの豚を解体してるとこ見たぞ!!」
「それは隣の地方の文化だ。我がドルコス王家は代々、豚を神聖な動物として崇めている。庭が豚の形をしているのもそのため。
だから決して食べたりはしない」
女王は少し苛立った声で答えた。ヤンマはそれにビビる。
「ひいい!」
「でも、あの大きさは大きめの豚用のだろう!! 大きい豚は美味しんだぞ!!」
「だから違うと」
「豚だ!! 豚! 豚! 豚ー!」
豚と連呼するアストリア。決して丸々太った女王のことを言っているのではないが、それでもアストリアは女王に向かって豚と連呼し続ける。
それはまずいとヤンマは思ったのか、アストリアを止めに入る。
「もういいでしょう豚の話は! そもそもあれはただの木材ですよ、多分」
「いいや、あれはきっとまな板だ!! 洗ったのを天日干ししてるんだぞ!!」
「じゃ、じゃあ豚用じゃないんでしょう」
「豚用じゃない!? だったらあいつらが食べてるのは・・・・・」
「と、とにかく次の試練に行きましょう! ね? ね?」
女王は静かに次の場所へと移動する。それを追いかけるヤンマ。
しかし、アストリアは蝶々を追いかけていたので、ヤンマは彼女の手を引っ張っていく。




