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峻烈のムテ騎士団  作者: いらいあす
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第十話 賢者のお仕事 その1「天の賢者ヤンマ」

 イエール連合の北部にある国、ドルコス王国。そこに一人の天の賢者がやって来た。

 彼女の名前はヤンマ。18歳にして賢者の検定に合格し、先月から天の賢者として活動している。

 天の賢者の主な仕事は、王国や政府などから政治の相談を受け、その答えを授けることだ。

 今日はドルコス王家に国の経営について相談を受けにいく予定である。


「いやはやいやはやいやはや、とんだ田舎の国ですね。

 こんなところの経営なんて、農耕ぐらいしかないのに何を相談すると言うのでしょうね」


 丸メガネをくいっと上げながら、石造のドルコス城を見上げるヤンマ。

 そして門番に近づき挨拶する。


「どうも。わたくしはヤンマ、天の賢者です。今日の午後にここに来るように女王様に言われております」


 軽く会釈するヤンマに、門番は怪訝な顔をする。


「あなたあなたあなた、もしや疑っておられる?

 この白いベールと服は天の賢者の証なのですよ」

「ええ、存じております。ですが、あなたと同じ格好をした方が少し前に来られまして」

「つまりつまりつまり、もう一人天の賢者が来てると?

 はて、ダブルブッキングだなんて天の賢者本部らしくないミスですね。

 いや、その前に本当に天の賢者なのでしょうか? 会って確かめないといけません」


 門番は悩んだが、代わりの者に警備を任せてヤンマを中へと案内する。

 途中、女中から先に来た賢者が食堂にいると聞いたので二人はそこに向かった。


「あれが先に案内した賢者でございます」

「あれが?」


 確かに天の賢者の格好をした女性が食事をしているが、食べ物を頬張ったり、かきこんだりと節操のない食べ方で、本当に天の賢者なのかとヤンマは疑問に思った。


「おかわり!!!!!」


 そしてあまりに大きい声で叫ぶので、ヤンマは彼女を偽物の賢者と断定することにした。

 耳を塞ぎながらヤンマは偽賢者に詰め寄る。


「ちょっとちょっとちょっと! あなたあなたあなた!」

「なんだ?!!!!」

「ほんと声デカっ。 あなたは偽物の賢者ですね!」


 声のデカい偽賢者は周囲を見渡す。


「あなたに言ってるんです!」

「私か!!!!!!!!?」


 ヤンマと門番の耳にキーンと響く。

 偽賢者と呼ばれている彼女の正体は、"声が大きいっていう"点で大体の人が察しが付いてると思うが、まあつまりは彼女である。


「お前何言ってる!! 私は本物の天の賢者だ!!! 天の賢者アストリアなんだぞ!!!!」

「そんな声のデカい賢者なんていません!」

「なんで声がデカいと賢者じゃないと思った!!! 声が小さいと賢者になるのか!!!」


 そう言われると、確かに声のデカさだけで賢者かどうか判別するのは証拠不十分ではないかと、ヤンマは一瞬思った。

 が、やはりそんなことはないと自分に言い聞かせて反論する。


「なぜならなぜならなぜなら。

 声を出すのにも体力を使います。なので相手に伝わる大きさで充分。余計な体力を使わないのが賢いやり方です。

 それをできないあなたは賢くない。つまり賢者じゃありません。はい論破です」


 得意げな顔でアストリアの顔を見るヤンマ。だが、アストリアは不思議そうな顔をしている。


「じゃあ私は賢いぞ!!! なぜなら声を出しても疲れないからだ!!!!!」

「はあ!?」


 確かに、体力というものは人それぞれであり、その人が余計な体力だと思っていないのならそれで充分かとヤンマは一時思った。

 が、やっぱりそんなことはないと自分に言い聞かせて反論する。


「しかししかししかし、大きな声は相手に迷惑です。賢い人は相手に配慮して喋るものです。

 それができていないあなたは賢くない。つまり賢者じゃありません。はい論破です」

「じゃあお前いつも配慮して喋ってるのか!!!」

「えーと」


 確かに相手を偽物と決めてかかり、しかも賢くないなどと言っている自分の発言は、配慮が足りていないとヤンマは刹那に思った。

 が、やっぱりそんなことはないと自分に言い聞かせて反論する。


「ですがですがですが、あなたみたいな人は天の賢者本部で見たことはありません。はい論・・・・・・」


 でも、自分は天の賢者になって一か月目のド新人。

 本部にいる総勢100人近くもの人間の事を全て覚えてるかは怪しい、と急にヤンマは思った。


「さっきから喋った急に黙ったり変な奴だな!!」

「ぐぬぬぬぬぬ! そもそもあなたどうしてこの人を中に入れたのですか」


 どうしようもなくなったヤンマは、相手への配慮なく疲れるような大声で門番に怒鳴る。


「いやーそれが、単純に天の賢者の格好してたので、天の賢者か? と尋ねたらそうだと言ったので、あ、この人が今日会う予定の人だと思いまして」

「つまりつまりつまり! ろくに確認せずに入れたのですね!」

「まあ、はい」

「もうもうもう! それ門番として失格ですよあなた!

 それにあなたも特に言伝がないのに入るんじゃありません!」

「え!? ご飯食べに来たんだけど?!」

「ここは料理屋じゃないのですよ!」

「え!!!!!?」


 料理屋じゃない。その一言にアストリアの中で時間が止まる。


「え? 本当に料理屋だと思って来たのですか?」

「今日は絵に使うための木炭買いに来たんだ!

 知ってるか! 木炭って使うと消えるんだぞ!!!」

「知ってます」

「そうか! で、ここで作られてる木炭はカッチカチなんだぞ!! 人を殴れるぐらいだぞ!!!」

「そ、そう」

「そのぐらい硬くないと私、握っただけで折っちゃうからな!!!

 で、買った帰りにお腹空いてさ。で、ここからいい匂いがしたから近づいたら、入れって言われたからここは料理屋さんだと思った!!!

 ご飯なんでもいいから出してくれって言ったら、いっぱい出してくれたからやっぱりここは料理屋さんだ!!!」

「ええ・・・・・・」

「いやー、大事なお客様がお腹空いているようだったのでお出ししたのです」


 通りすがった女中が答える。そしてこの状況にヤンマは頭を抱えた。


「つまりつまりつまり、天の賢者の格好だから確認もせずに入れた。

 お腹空いた時に案内されたから料理屋だと思った。

 はあ・・・・・・なんて短絡的な人達ばかりなのでしょう。

 あなたが本物の賢者かどうかは置いておくとして、ここに用事がない人のようですのでお帰りになってください」

「これ食べたらな!!!」

「はいはい」


 すると複数の家来達が、椅子を神輿のように担ぎながらやってくる。

 そしてヤンマ達の前で止まると、椅子を丁寧に降ろした。その椅子には王冠を被った女性が座っている。


「やあやあ、よくぞ参られらた天の賢者よ。私がドルコス王国の女王、タークレ三世ぞよ」

「ははー。女王陛下、お招きいただき感謝致します」


 ヤンマは立膝をついてタークレに挨拶をする。


「聞いたところによると、こちらの手違いで賢者が二人もいるそうな」

「あの者が賢者かどうかはわかりません。少なくとも、わたくしが正式に派遣された賢者でございます。

 こちらが証明のための契約書でございます」


 ヤンマは女王に契約書を手渡そうとするが、椅子を抱えていた家来の一人が代わりに受け取った。


「成る程。そなたが約束していた賢者で間違いないようだな」

「なのであの者はさっさと帰ってもらって」

「いや、せっかく賢者が二人もいるのなら、いっそ二人分の知恵をいただきたいのう」

「すみません、それは契約上できないですね」

「契約金の倍以上出すぞ」

「いやしかし・・・・・・」


 ヤンマが困っていると、突然アストリアが話しに割って入った。


「無理だぞ!! 人の考えは一つじゃないからな!

 賢者同士がお互いに知恵を出し合うと、それぞれの考えがぶつかって、結局答えが出せなくなる!!

 だから天の賢者は一人しか雇っちゃダメなんだ!!」

「え、ええ。そうですその通りなんです。これは昔から決められている鉄則でして」


 天の賢者のルールを知ってるとは、やはり彼女は本当に天の賢者なのではと、ヤンマは思い直し始めた。


「ふむふむ。それでは仕方あるまい」

「そうです。なのであの人には帰ってもらって」

「じゃあ、どちらの知恵がより賢いかを測って雇う方を決めよう」

「ええ!?」

「それもできないのか?」


 ヤンマは唇を噛みながら、どう発言しようか悩んでいた。なぜなら


「できるぞ!!!」


 そう、アストリアが言う様にルール上問題ないからである。


「送られてきた賢者が信用できない場合はチェンジが可能だからな!!

 だからこの場で雇う雇わないは決められるぞ!!」

「ええ、ええ、ええ。そうですよそうですよそうなんですよ! 全くもってそうなんですよ! きっー!」

「じゃあ今からテストの準備を始めよう。しばし待たれよ」


 そう言うと女王は家来に担がれ去って行った。ついでに門番も自身の職場に戻る。

 そして食堂にはアストリアとヤンマの二人だけとなった。


「わかりましたわかりましたわかりましたよ!

 あなた私の仕事を横取りするつもりでここに来たのですね!」

「そうなのか?!! 知らなかったー!」

「しらばっくれちゃってまあ。その大きな声も私を油断させる演技だってわかっちゃってますからねもう。

 あなたのような卑怯者には負けませんので」

「お前、何言ってるか全然わかんない!!」


 こうしてヤンマは一人火花を散らしているが、アストリアは晩御飯は何を出してくれるだろうということしか思っていなかった。

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