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峻烈のムテ騎士団  作者: いらいあす
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第一話 得てして奴らは無敵である その4「決闘」

 団員達はもうこのくらいでいいだろうと、みなデーツの元に集合する。


「思った以上に骨のない連中だったね」

「どうせ、適当に集めた面子」

「舐められたもんだね私達」

「お腹空いた!!!!」


 戦場の中央に集結したムテ騎士団を見て、残った兵士の九割が一目散に逃げだした。ついでにバーベラに見初められた女性兵士も。

 そして残ったのは大きな鎧を身につけ、二匹の馬にひかせた戦車に乗る大男が一人と、その側近の兵士が十数人だけ。彼らに向かってデーツが叫ぶ。


「お前らが大将グループか」

「いかにも。このザンダル将軍と我がトカル・・・・・・トカリルナ王国選りすぐりの親衛隊だ」

「やっぱ言いにくいよな」

「ともかく! 他の兵士達は所詮はただの雑魚と金で急募した馬の骨どもだ。

 だが我々は格が違う。ここからが本当の戦いだという事を思い知らせてやる」

「ちょうどよかった。こっちも本当の戦いを思い知りたいところだった。さっきのは草むしり程度にもならなかったし」


 すると、デーツ以外の団員は身構えて勝負の姿勢を見せた。しかし、デーツはみんなを静止させる。


「まあ、待て。我は今日、まだ戦いらしい戦いをしていない。

 それにこの将軍、かなりの手練れ・・・・・・を気取りたいようだから、ちょっとお相手してやろうと思ってな」

「気取ってなどいない。実際に俺は強いのだ」


 暗殺者タナカの目には、このザンダル将軍が虚栄で誇ってるようには見えなかった。

 将軍は白髪が兜からはみ出ていて、顔には深く刻まれた皺があるため、かなりの老齢なのだろうが、真っ直ぐ伸びた姿勢から肉体の衰えを感じさせない。いや、むしろ老齢が故に、潜り抜けてきた死戦の数が、ここの誰よりも多い事が容易に想像できた。

 そして何よりタナカが注目したのは目だった。鋭い眼光をしており、いつどのタイミングで相手を叩き切るかを常に伺っていて、まさに獲物を狩る獣のような目。隙を見せれば一瞬で殺されるであろうとタナカは思った。

 対して、上を見上げたタナカの目に映るデーツの目はというと、濁りきった眼光をしており、いつどのタイミングで相手をバカにしてやろうか伺っていて、まさに意味なく咀嚼して一日を過ごす家畜のような目。隙を見せて一瞬で殺されればいいのにとタナカは思った。


「そんなに強いというのなら試してやろう。我と一対一の決闘だ。

 お前が勝てば我らは大人しく投降する。

 我が勝てばお前達は地面にキスして”僕たちは雑魚でちゅ勘弁してちょ、許してちょ“と言ってから身につけてるもの置いて国に帰れ」

「我々の条件が無駄に酷いな! でもとにかく、勝てばいいのだろう? 勝てば」

「その通り、勝てばいいのだ。勝てば」

「だったらやってやろう、決闘をな!」


 決闘を受け入れた将軍に、親衛隊一同は歓声を上げた。対するムテ騎士団はクスクスと彼らを嘲笑していた。


「さて、戦いの準備を始めよう。まずはその盾は使うな」


 ザンダル将軍はタナカが括り付けられた盾を指差す。


「盾? ああ、これは余興で持ってるだけで防御する気などない」

「いや、そうじゃなくて普通にかわいそうだろ。

 人を裸で貼り付けるなんて、しかも余興って。残酷すぎるぞ。

 君、辛かったら泣いてもいいんだよ」

「あ、ありがとうございます」


 将軍の思わぬ優しさに涙が溢れるタナカ。

 しかしそんな涙など知ったことかとデーツはアストリアに向けて盾を投げて渡した。アストリアは盾をキャッチするが、その衝撃がタナカの全身に伝わる。


「特等席なんだからちゃんと見せてやるのだぞ」

「任せろ! 見せてやる!」

「じゃあ将軍。戦う格好になるから少し待て」

「うむ」


 デーツは自分を覆っていたマントを後方に向かって投げ捨て、今まで隠されていた彼女の身体が周囲に晒された。

 驚くべきことに、彼女の身につけている鎧は手足とそれから胸とパンツだけという、所謂ビキニアーマーであった。

 しかし、もっと驚くべきことにそれを見た将軍と親衛隊が目を逸らしたのだった。

 半裸の女性を見まいとする紳士的振る舞いや恥ずかしさのためではない。彼女の身体があまりに醜かったからだ。

 ヘソが丸見えのお腹は一瞬妊娠してるかと思われるぐらいに突き出ており、太ももから足首にかけては贈り物のハムでもぶら下げてるのかというぐらいにパンパン。そのくせに全体的に皮膚はブヨブヨ。

 最早肉つきのいいなんてレベルではなく、それはもうただの肉の塊、あるいは丸々太った豚、あるいはただのオバハン。デーツの顔自体は美人なのが返って気持ち悪さに拍車をかけた。


「ぐえー! 目が腐る!」

「隠せ! 早く隠してくれ!」

「なんで戦場でこんなもん見なきゃならないんだ」

「もうやだ記憶から消したい」

「死ぬ」


 先程の戦闘とは別方面に阿鼻叫喚。これにはタナカも彼女らに楯突いたことを大後悔。対戦相手の将軍も空いた口が塞がらない。塞がらないと勝負にならんのでとにかく一言頑張って出してみる。


「き、貴様! 色気で惑わそうというのか! いや色気もへったくれもないから、醜さで惑わそうとしているのか!

 いずれにせよ破廉恥極まりないぞまったくもって!」

「別にどっちでもない。我が好き好んで着ているだけのこと」

「とんだ好き好んでがあったもんだな!」

「でも、これはチャンスではないか?

 お前はガチガチに鎧で身を固めてるのに対し、我はこのとおり無防備。少しかすめただけでも、致命傷になるのだぞ」


 確かに彼女の言う通り、明らかに将軍に分がある戦いだ。そもそもビキニアーマーなんて防具のくせに、防ぐ手立てがないクソみたいな装備。誰が作ったこんなもん。


「あまり釈然とせんが、そっちが自ら望んでその姿になったのだから、後腐れはないな?」


 将軍はそう言うと、腰に下げた剣を鞘から抜いた。


「当たり前だ。戦いに愚痴を持ち込む奴が生き残る道理はない」


 デーツも剣を抜く。マントのせいで見えなかったが、彼女は鞘を背負っていた。そしてみな体型の方に気を取られていたが、剣もどこかヘンテコであり、それに最初に気づいたのは彼女の背後から見ていたタナカだった。

 まず長さだが、デーツの足から首元まである長剣で、鞘が平ではなく丸型の筒のような形をしている。

 そしてその理由は抜刀された時にようやくわかった。なんと刃が四方向もあり、真上から見れば十字の形になるように設計されていたのだ。

 どうやって鋳造したのか気になるが、それよりもあれでどう戦うのか、タナカも将軍も親衛隊も気になっていた。


「これが我が武器にして我が愛人、ムテの剣だ」


 デーツはムテの剣の柄にキスをした。


「タナカ、お前もクナイにこういうことしてるのだろう?」

「しねーよ!」

「あ、もっと濃い奴?」

「あっさり通り越して無味ですぅ!」


 ツッコミながらもタナカはムテという言葉の意味について疑問を抱いていた。

 騎士団の名前と同じ語源なのだろうが、それがどんな意味なのか皆目検討がつかなかった。しかし、なぜかムテの剣という名前に聞き覚えがあるような気がしていた。


「さて準備は終わった。お前はどうだ?」

「このザンダル、いつでも戦う準備はできている」

「そうか。あとは開始の合図を待つだけか。

 そうだな、ローナ、お前が合図を出すのだ」

「はいはーい。じゃあ行くよー! よーい・・・・・・ぴゃりん!」


 ぴゃりん? とタナカも親衛隊も頭の中が混乱するも、流石の将軍は違った。どんな合図でも聞き逃さず動揺せず、ただ真っ直ぐにデーツへと斬りかかった。


「もらった!」

「勝手に貰うんじゃない」


 将軍の振り下ろした剣を、デーツは紙一重で後ろに下がって避けた。


「まだまだ!」


 将軍は勢いを殺すことなく次々と攻撃を繰り出す。だがそれでもデーツは全て紙一重で避ける。

 必ず既のところで避けているデーツだが、彼女の表情に焦りなどなく、むしろ攻撃がどこに来るのが分かっているかのような余裕を見せている。

 終いには、あまり見事な避けぶりに、まるでデーツが動く方へ将軍が攻撃しているかのように、みな錯覚しそうになった。もちろんムテ騎士団以外は。


「いいぞー」

「ぶちかませー」

「ぶち殺せー」

「うおおおおお!」


 ムテ騎士団の四人とも大きなソファーで腰掛けて観戦している。


「いつの間にそんなものを!?」


 もちろんタナカは盾の状態でアストリアに持たれたままだ。


「さっき僕が要塞から持ってきた。あ、おつまみのナッツいる?」


 バーベラがナッツ入りの木製ボウルを差し出すも、タナカは手に取って食べられる状態にない。ちなみにバーベラはそれがわかってて差し出した。


「それより、あんたらの団長どうなってるんだ? あの将軍の剣裁きが悪いわけじゃない。明らか達人のもの。

 俺だってあんな剣士に連続で攻撃されたら避け続ける自信がねえ」

「デーツが本当に好きでビキニアーマーを着てると思うかい?」

「え、違うのか?」

「まあ好きに相違はないけど、一番の理由は肌にある。

 あえて露出させることで、僅かな空気の変動を肌全体で感じ取ることができるのさ。だから、相手が剣を振るたびに、そこで生まれた気流とその方向を察知し・・・・・・避けると」


 バーベラはデーツに向けた人差し指を、彼女の動きに合わせてなぞるように動かして教えた。


「そんな事あり得るのか? 気流よりも剣の方が先に肌に触れそうなもんだが」

「本当に僅かな変動なんだそうだよ。これはビキニアーマーの流派“アッバーズレーン”の会得者のみが感知できるんだとか」

「アバズレ?」

「アッバーズレーンさ。古代から秘密裏に受け継がれてきた流派だよ」

「そりゃあ、ビキニアーマーなんて表向きに受け継ぎたくはないよな。

 ん? もしかしてあの脂肪まみれの体も感知しやすくするための工夫か」

「いや、あれは単に怠惰の結果だよ」

「えー・・・・・・」

「戦場に出てる時はまだマシな方さ。寝てる時なんか一瞬マジで豚が横たわってるのかと思うぐらい。

 でも、僕はそんな団長が好きだ」

「えー・・・・・・」


 そんな会話をしていると、戦況に変化があった。将軍が動きを止めたのだ。


「いやはやお見事。俺の持つ技の全てを避けてしまうとは」

「アレで全部? レパートリーが少ないな」

「ああ、攻撃の方は全部だ。だから次は防御の方を見せてやろう」


 将軍は立ち止まったまま姿勢を低くし、剣を構えた。


「さあ全力で来るがいい。それとも、貴様は避けるしか能がないのか」

「一回も斬れなかったくせによく言うよ。

 まあ、そんなに来て欲しいなら、要望に応えよう。全力でいいんだな全力で」


 将軍は姿勢を一切崩さず、ただ寡黙に徹していた。つまり彼の返答はイエスであった。


「よかろう」


 そう一言呟いて、デーツはムテの剣を水平に構え、目に見えない速さで将軍を突いた。だが、将軍は剣で防いだのであった。


「素晴らしい突きだ。だが、それが全力とは正直ガッカリだよ」

「たったひと突きで我の全力を味わえると思っていたとは、ガッカリだよ」


 その時、ムテの剣が高速回転を始めた。十字の刃がきりもみとなって、将軍の剣を削り始める。


「我が全力を知りたいのなら、これから繰り出す技全てを受け止めるのだな!」


 ムテの剣はついに将軍の剣に穴を開けて、粉々に砕いてしまった。だが将軍には驚く隙も与えられず、デーツは横一閃の一撃を彼の胴体にお見舞いする。その一撃に加え、さらにムテの剣は鎧を回転で削り取っていた。

 デーツの怪力でそのままふっ飛ぶ将軍。しかし、デーツは贅肉だらけのだらしない体型とは裏腹に機敏に動いて、将軍の背後に周ってまた一閃を与える。今度は表に周ってまた一閃を繰り返す連撃。その光景はまるで壁にバウンドするボールのようである。

 そしてあっという間に将軍の鎧は砕かれ、最後にとどめとばかりに、大きな突きが将軍の腹部に叩きつけられた。


「アッバーズレーン流奥義プラスドライバー」


 そうデーツが呟き、将軍が地面に落ちた。勝敗の決着である。


「ちなみに技の名前は私が考えた」


 と、マァチが情報をプラスするのであった。余計な一言である。


「さて、終わった終わったー。約束通り地面にキスして”僕たちは雑魚でちゅ勘弁してちょ、許してちょ“と言ってから身につけてるもの置いて性癖(※この場合は性的趣向を指す)を暴露してから帰れ」

「なんか条件増えたぞ!? み、認めん! 敗北など認めんぞ!」


 親衛隊のうちの一人がそう言うと、他の親衛隊が剣をとった。


「やれやれ、約束は守るもんだぞ。ちなみに私はこの剣でナニをする」

「団長、僕たちも出るかい? ちなみに僕はスケベ親父もひくほどの女好きだ」

「私は二次元しか愛せない」

「幽霊に肉欲なんてあると思う?」

「性癖ってなんだ!!!!」

「いや、あんたらが暴露してどうする! あとそんな剣をぶつけられた将軍かわいそう!」


 ソファから立ち上がる団員となんかツッコミ役が馴染んでるタナカ。そんなみんなを落ち着けと言わんばかりに、手を前に出して静止させるデーツ。


「大丈夫、もうそろそろ戦いの狼煙が降りる」


 そのデーツの一言に、”ああ“と納得して団員達は座る。もちろんタナカには狼煙が降りると言う不可思議な言葉が理解できなかったが、それはすぐにわかることだった。

 デーツは後を向いて帰ろうとしていたが、背後からなら斬れると踏んだのか、親衛隊は皆一斉に斬りかかった。

 が、しかし上空から何かが急に落ちてきて、親衛隊全員が下敷きとなった。落ちて来たのは先程、アストリアに上空まで吹っ飛ばされた師団長であった。


「ああ、狼煙か」


 明らかに対空時間が長い気もしたが、タナカはとりあえず納得することにした。こうして完全なる決着となった。


「さて、マァチよ今は何時だ?」

「6時半、少し前ぐらい」

「まだそんな時間か。もう少しゆっくり遊べば良かったが、まあよい。今から朝食にしよう」


 兵士達が悔し涙を流しながら撤退の準備をしている最中、ムテ騎士団達は楽しそうにテーブルや机を運んだり、料理の準備をしていた。勝者と敗者の明暗が濃厚に出ているが、本当の地獄はこれからだった。

 全ての準備が終わる頃、机の上にはパンに付け合わせの蜂蜜とジャム、ふっくらとしたオムレツに、カリカリになるまで焼いたベーコン、チーズベースのドレッシングがかかった山盛りのサラダと豪華な食事がずらっと並んでいた。そして机の前には土下座で地面に伏せてる兵士達が、将軍を筆頭に並んでいた。


「さて、今日も食物を食べて食物連鎖の頂点に立っている事に感謝しようではないか」


 デーツは果実のジュースを注いだ杯を掲げ、乾杯の音頭をとった。そして、団員達も杯を掲げる。


「我らムテ騎士団に乾杯」


 と、声を揃えて一斉に食べ始めた。その勢いはまるで獲物が獣に食らいつく様であった。

 さて下品な食いざまとはいえ、戦い終えた後に目の前で食べ物を見せつけられて空腹にならない者などいないはずもなく、兵士達もそして未だに盾にくっついたままデーツの脇に飾られているタナカも、ぐーぐーと腹をすかしていた。


「ん? お腹空いたのかい? じゃあ、これでもどうぞ」


 バーベラがタナカに向かってパンを投げた。だが、バーベラは高速で動いてタナカの口にパンが入るのを自ら阻止。


「うん、どうもありがとうバーベラ。どういたしましてバーベラ」

「なんだこいつ」


 すると今度はアストリアがタナカに近づく。


「おいお前! パンとジャムって一緒に食うと美味いんだぞ! すっごいんだぞ! パンよりも美味しんだぞ!」

「知ってる」

「誰に聞いた!」

「お前だよ。いやお前から貰った知識でもないが」


 今度はローナが何かを食べながら近づく。


「待て、何を食べてる」

「ベーコン・・・・・・の魂」

「ベーコンの魂!?」

「幽霊だからね、実際の食べ物は食べられないけど、それに宿る魂は食べられるよ。

 味はするけど腹は膨れないのはまあ、幽霊だし仕方ない」

「食べ物に魂ってあるんだな」

「だからお供物は無駄じゃないからどんどん供えてね」


 絶対に供えないと誓うタナカに、次はマァチがやって来た。


「死ね」


 そして帰った。


「えー・・・・・・」

「さて、お前たち。そろそろ言ってもらおうか」


 デーツが両手を打ち鳴らして例の言葉を催促する。そして兵士達は皆一斉に口を開いた。


「「僕たちは雑魚でちゅ勘弁してちょ、許してちょ」」


 特に指定されていたわけではないが、恐怖心からか、全員が僅かなズレも起こさずに口を揃って言った。


「声が小さい!!!!!」


 だがアストリアは許さなかったらしい。まあ声の大きさだけは人一倍うるさいのは確かだが。


「僕たちは雑魚でちゅ勘弁してちょ!許してちょ!」

「よろしい!!!!!」


 兵士達は先程よりも声を張り上げたが、その声はアストリアの十分の一にも満たなかった。


「じゃあお次は性癖暴露大会ー」


 デーツが誕生日のプレゼントの箱を開ける子供の様な笑顔で再度両手を打ち鳴らす。そこに続けてドンドンパフパフとマァチが魔法の杖で音を鳴らした。


「さてどいつから始めるか。まずはやはり将軍だな」

「俺、いや私ですか・・・・・・あーでも本当に特にないというか、その普通? 普通というかその世間でいう普通的な? はい、その、はい、もう勘弁してくださいよ」


 先程までの彼は死んでしまったのか、朝食をとる女性達に半ベソかいて謝り始めた。


「ていうか、たかが兵団をけしかけただけじゃないですか。なんだってこんな仕打ちを。

 あ、すみません。でもほらこれは酷いです。マジでもうやめてください。お願いします。お願いします」


 最早自分でも何言ってるのかわかってないのだろう、確かにムテ騎士団はゴミクズの中のゴミクズではあるが、大勢の前で性癖暴露で済ませてもらってるだけでもありがたく思え、ていうか本当は人に言えないような性癖なんだろうなこいつと、ムテ騎士団の面々は思った。


「全く、つまらぬ連中だ。興が冷めたわ。

 だが、そのまま帰すのも面白くない。だから交換条件だ」

「と、言いますと?」

「見逃す代わりに、お前達の中から一人捕虜をとる」


 トカリルナ兵達はザワめきだす。たった一人の捕虜でいいのかという安堵と、誰が選ばれるかという不安を抱いたからだ。


「もちろんさっきの女兵士だよね、逃げ出したけど今すぐ探せば見つかるよ」


 バーベラが鼻息混じりの早口で訴える。


「お前は黙ってろ。我が欲しいのはこのモロダシゴミ虫だ」


 デーツはタナカを親指で指す。その場の全員が驚きの声を上げる。それぞれ思惑は違えど、まさかの人選に驚愕した。


「そいつはただの傭兵、うちとはほぼ無関係なのでどうぞどうぞどうぞ」


 喜ぶ将軍。


「あの子の方が絶対いいって」

「こいつゴミより役に立たない」

「惨たらしく痛みを与えてから殺すの?」

「いらん!!!!!」


 怒る団員達。


「お、俺ぇ?」


 哀しむタナカ。


「我が決めたことは絶対だ」


 楽しそうなデーツ。


「というわけで帰ってよろし。王様への報告は無理でしたの一言でゴリ押せ」

「し、失礼しましたー」


 一目散に逃げていくトカリルナの兵団。その統率のとれた動きは進軍時よりもまとまりがあったという。


「というわけで、今日からお前は我々の・・・・・・奴隷? いや違うな。おもちゃ? 人形? とにかくお前の存在価値は我々で好きに決める。いいな?」

「嫌ですって言ったら?」

「嫌じゃないですって言わせるようにする」

「はいはい、わかりました。わかりましたよ」


 散々命を捨てる覚悟がどうの言っていたタナカも、いざ自分の身が他人委ねられると知った時、激しい後悔に襲われた。


「じゃあ早速後片付けよろしく」

「待って、食器とかのことだよな? まさか戦地全体のことじゃ」

「後・片・付・けよろしくー」


 そう言うとデーツ及び団員達はタナカを盾から降ろして、要塞へと戻った。

 タナカはいっそ逃げ出そうかとも思ったが。


「お前を見てるからな」


 バーベラが一瞬で戻ってそう言い残し、また一瞬で戻った。

 “峻烈”、厳しく激しいことを指す。今日この日、哀れな暗殺者はその意味をよーく味わった。そして今後ももっと味わうことになるだろう。そんな彼の名前はタナカである。


 次回へつづく。

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