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峻烈のムテ騎士団  作者: いらいあす
3/57

第一話 得てして奴らは無敵である その3「戦闘開始」

 要塞ガルガレオスに響き渡る衝撃音。


「バーベラ、外の様子を見に行け」

「了解団長」


 デーツが命令するや否や、バーベラは一瞬でその場から消え去った。


「ははは! ついに始まったか」


 待ってましたと高らかに笑うタナカ。


「なんなんだこれは?」

「これはな外で」

「外で軍が集まって投石器で攻撃を始めてる。どうやらそいつはただの陽動係。つまりは使い捨てのゴミだ」


 戻ってきたバーベラが簡潔に答えた。


「俺が言おうとしたこと全部説明してくれてどうも。いやゴミは言わなかったけど。

 俺の密偵は半ばおまけみたいなもの! 時間内に戻らなきゃ攻撃を始める取り決めだったんだよ。

 とにかくお前らは俺たちの作戦に見事にひっかったのだ間抜け! やーいやーい、俺の事にかまけてなければ準備もできたろうにやーい」


 これまでの仕打ちのせいで色々とヤケクソのタナカ。しかし、そんなタナカの喜びに反し、ムテ騎士団は慌てる様子もなく、ノロノロとマシンから降りていた。


「あー面倒くさい。マァチよ、今は何時だ?」

「多分6時ぐらい」

「朝ご飯にするにはちと早いな」

「私さっき食べた!」

「それは夜食じゃない?」

「なあ、バーベラ。相手はどのぐらいだ?」

「1225人かな」

「じゃあ朝飯前の軽い運動だな」


 投石器による攻撃が未だ城に響き渡っている中、彼女達は今日のスケジュールを決めるかの如く、呑気に会話している。その一切の焦りのなさにタナカは困惑するばかりだ。


「1000人以上を5人で相手にする気か?!」

「我らを潰したいなら星の数と同じだけ兵士を集めるのだな。それでも充分勝てるが。

 そうだな、よし。バーベラ、こいつも連れて行くぞ」


 デーツが指パッチンをすると、バーベラが一瞬でタナカの拘束されている場所をマシンから、壁にかけてあった人間サイズの盾へと移し替えた。


「人の盾って奴か? 言っておくが、俺は捨て駒。人質にしたところで奴らは怯まないぞ」

「盾? 違うな、これは特等席だ。お前には一番近くで我らの戦いぶりを見せてやる。感謝しろ。

 アストリア、こいつの運搬は頼むぞ」

「頼まれた!」


 アストリアは男性一人が括り付けられた巨大な盾を片手でヒョイと持ち上げ、意気揚々に運び始めた。

 拷問部屋を出て長い階段を抜け、城の屋根に登り、団員全員が整列して下を見た。

 投石器の石は彼女達の立つ場所よりも下の部分にしか当たっていないうえに、城壁に傷一つついていない。


「馬鹿め、無敵の我らの住む家だ。傷がつくわけなかろう」


 高らかに笑うデーツ。そしてその理屈はおかしいいだろと苦笑するタナカ。

 下の兵団も投石器での攻撃が無駄だとわかったのか、丸太を繋ぎ合わせた簡易な作りの橋とはしごを運び始めた。どうやら、塀にかけて侵入する気のようだ。


「団長、どうする? 誘い込んでから始末する?」


 ローナが首を掻っ切る仕草を無邪気な笑顔でする。


「今日はネズミを既に一匹入れてるんだ。これ以上はいらん。今から始末する。よしレディゴー」


 デーツのその言葉を待っていましたとばかりに全員が嬉々の表情を見せる。

 そして一斉に城の屋根から飛び降りた。

 バーベラは壁の側面を猛ダッシュで走り、掘の水の上すら平気で走った。

 ローナは霊体なので、落下せずにふわふわと飛んでいる。

 マァチは魔法を使ったのか、足元に小さな竜巻を作り、それに乗って飛んでいる。

 驚くべきはデーツとアストリアだ。二人は生身で飛び込み、そのまま足から着地した。大きな地響きを立てるも、二人の足はなんのダメージも受けずに堂々と敵の前に立った。

 一方タナカはどうなったか。盾とひっついたまま地面に向けて放り投げられていた。幸いにも倒れることなく地面に垂直に刺さったので、盾の下敷きになることは免れた。その代わりにモロ出しの身を兵団に目撃されたが。


 さて、兵団の前に集結したムテ騎士団。真上から降りてきた5人の女性と、あとは返り討ちに遭って辱められたであろう自軍の密偵の姿に、鎧をつけた猛者達は困惑するしかなかった。

 しかし紛いなりにも戦闘のプロ集団。前衛部隊の師団長が代表として前に出た。


「貴様らはこの城に住むという、ムテ騎士団の使いか」

「使い? いいや、我らこそがムテ騎士団である。そこの盾に付いてるのは違うが。

 とにかく我は団長のデーツ、よろしくねー」


 しかし、相手側はこれを冗談と捉えたのか笑い声が漏れ出る。


「たった五人? しかもみな女子(おなご)ではないか」

「人数に関してはまあ、驚くだろうけど。戦いにおいて性別が勝敗を分けることはない。戦いは常に峻烈さを極めた者だけが勝つ。

 ところで、あんたら誰?」

「我らはかの偉大なトカリルナ王国軍である。我らがトカリルナ王の命により、貴様らムテ騎士団を討ちに来た。

 貴様らのしてきた暴虐の数々にトカリルナ王はお怒りである」


 ムテ騎士団はお互いに顔を見合わせた。


「トル? え? どこ?」

「トカルリナ?!」

「トカリルナ」

「なんか言いにくいよねリルナって」

「我らの恐ろしさを知らぬからして、田舎の国なのは間違いないが」


 田舎者扱いに腹を立てたのか、言いにくいという感想が図星だったのか、とにかく兵団の苛立ちが目に見えて明らかだった。そして師団長が前に出る。


「宣戦布告だムテ騎士団よ。我らの前に出てきた事を後悔させてやる!

 あとリルナって指摘受ける程言いにくくはない!」


 腰に下げた剣を抜刀し、デーツに切りかかる師団長。だが、デーツは人差し指と中指でその剣を挟みとってしまった。


「言いにくいと思う」


 そう言うと、彼女はその剣を指二本を使って、ハサミのように真っ二つにする。

 確かに彼女の手は鎧で覆われてはいるが、だからといって剣を折る程の圧力などかけられるわけはない。そのため、師団長はもちろんのこと、ムテ騎士団以外のその場にいた全員が動揺した。


「アストリア。やれ」

「わかった!!!!」


 団長の声に嬉々しく応えたアストリアは、小走りで師団長に近づき、彼の体を両手でがっしりと捕らえた。


「よいしょー!!!!」


 と、大きな掛け声と共に師団長を上空まで投げ飛ばした。兵団は皆、空を見上げたが、彼らの切込隊長は空の彼方へと消えてしまった。星になったのである。

 そしてこっちを見ろと言わんばかりに、デーツは指を鳴らし、兵団の視線を自分に注目させこう言った。


「今のが何かわかるか? 戦いの狼煙だ。さあ戦争を始めようぞ!」


 兵団は一瞬目を点にしたが、すぐに師団長の敵討ちせねばと、一斉に剣を抜き声を張り上げムテ騎士団へと向かっていった。


「じゃあみんな。いつもの戦術でよろしく。つまりはご自由にどうぞ」


 デーツがそう言うと、バーベラは高速を使って、ローナはそのすり抜ける体を使って、相手の兵団をかいくぐり奥へと進む。

 マァチはまた竜巻で空を飛び、アストリアは真っ向から兵団に拳を上げて向かって行った。

 団長であるデーツは盾、つまりタナカに寄りかかって欠伸した。


「あんたは行かないのか?」

「時が来れば行く。だが今はあいつらに任せるさ。なんせ全員無敵だからな。

 それよりこのショーをよく見ておけ、お前には特等席を用意したのだぞ」


 タナカは別にデーツに言われたから、目の前の光景を見ているわけではないが、しっかりこの目に焼き付けようとは思っていた。何せたったの五人でこの戦いにどう挑むのかが気になっていたからだ。


 最初に目に飛び込んで来たのは、前線で戦うアストリアだ。彼女の武器は拳。目の前の兵士の剣に臆することもなく、敵の中に飛び込む。

 剣と拳では、拳の方が不利になることは戦いを知らない素人でもわかるだろう。何せリーチが剣の方が長く、触れるだけで大怪我を負わせることができるのだから。

 しかしそれでもアストリアの拳は剣よりも強かった。どう強かったって、そのままの意味である。

 なんと刃に触れても一切の怪我を負っていない。それどころか拳で剣を粉砕している。彼女にとって剣など壊れやすい板切れでしかないのだ。

 たかが女のお手々と思っていた兵士達は、自分の鍛え上げた剣が粉々になってしまった事に驚きを隠せない。だが、そんなものはさっさと隠して逃げるべきだった。

 剣がなくなれば今度は持ち主の体にその拳がとんで行く。

 鎧など無意味だと言わんばかりに、腹や胸、頭の装甲がパンチひとつで砕かれていく・・・・・・だけならまだよかった。

 なんと一度打たれただけで数メートルも先に吹っ飛ばされてしまうのだ。そして飛んでいった先で、他の兵士が下敷きになる。

 そんな事を僅か数十秒の間に繰り広げたので、あれだけ大勢いた前衛部隊はあっという間に片付けられてしまった。

 だがやられたのは前衛部隊。その後ろからどんどん兵士が向かってくる。流石にその数に辟易したのか、アストリアはこう漏らした。


「めんどくさいぞ!!!!」


 すると、彼女は近くで倒れていた兵士を紙クズでも拾うかのようにひょいと持ち上げた。

 そして自分の首に下げていた鎖を外すと、兵士の体にしっかり巻きつける。


「いいかー! 戦いはなー! 頭を使うんだぞー!!!」


 タナカはその言葉にまたしても嫌な予感がした。


「うっりゃはぁー!!!!!!!」


 彼女はグルグル巻きの兵士をまるでモーニングスターの鉄球のように、向かってくる兵団にめがけ頭から投げつけた。そしてぶんぶん振り回してどんどん敵を蹴散らしていく。


「頭だ! 頭を使え!!!」


 最早頭じゃなく全身じゃねーかとか、鎖が首にかかっていた時より長くなってるじゃねーかといった疑問はタナカの中にはなかった。あるのはこの疑問ただ一つである。


「あれ、本当に賢者か!?」


 思わずそのたった一つの疑問を声に出してしまった。それだけその一点をつっこまざるを得ない光景だったのだ。そしてその疑問にデーツが答える。


「アストリアは間違いなく天の賢者だ。追放された身だがな」

「そりゃあ、他の賢者もあんなのと一緒にされたくもないでしょう」

「さて、道が空いてきたな。行くぞ」


 デーツは盾を持って、タナカを運びながら前進する。アストリアは盾を軽々しく持ち上げてたのに対し、デーツは重々しく盾を前に突き出して持っていた。

 どうやらアストリアの方が力は何倍も上のようだが、それでも巨大かつ人間一人がくっついた盾を持ち歩き、また、向かってくる兵士に盾を振るって薙ぎ払ったりと常人以上の力はあるらしいと、タナカは分析した。

 進んだ先は広大な盆地、そこに大勢の兵が陣を取っていたが、三人の団員の前に、一人、二人いや一度に五十人ぐらいの数が減っていく。

 まずタナカの目に見えた光景は、誰もいないのに兵士が吹っ飛んでいく様子だった。だがタナカにその理由はわかっていた。バーベラだ。バーベラが目に見えぬ速さで敵を吹っ飛ばしているのだ。


「おーいバーベラ」


 デーツの呼ぶ声を聞くと、一瞬でバーベラが二人の目の前に現れた。


「順調か?」

「てんでダメだね」


 バーベラのダメという言葉に、タナカは疑問を覚えた。あれだけ敵を倒してるのに何がダメなのかと。

 すると彼女は一瞬で消えて、またすぐに戻ってきた。その手には兵士から奪った剣がいくつも束ねられていた。


「見てこれ」


 そう一言残すと、剣をその場に放り投げて、また消えてそしてまたすぐ戻ってきた。今度は盾の束を持っている。


「どれも」


 盾を放ってまた消えて戻って、今度は槍。


「これも」


 放って消えて戻って、今度は棍棒。


「安物」


 放り消え戻り、次弓。


「ば」


 方消戻、戦斧。


「か」


 放消戻、鎧。


「り」


 放消戻、女兵士。

 女兵士!? とタナカは困惑した。


「どれも売ったところでいい金にはなりそうにない」


 女兵士一人をお姫様抱っこしながらそう話すバーベラ。どうやら戦場で追い剥ぎ行為も同時にやってるらしい。


「あ、彼女は別、この子は上物。じゃあ後で名前教えてねベイビー」


 バーベラは彼女の頬にキスすると、静かに地面に降ろして、また兵士狩りに戻って行った。

 そういえば女に手を出すのも早いとか歌ってたっけと思い出すタナカ。そして今何が起こったのかと、山盛りの武器の前で怯える女兵士。


「あ、あの何ですかこれ?」

「すみません、俺も聞きたいんですそれ」


 タナカと可哀想な女性の疑問など知ったことかと、デーツは足を進め、次は上空にいるマァチに声をかける。


「マァチ!」

「後にしてー」


 マァチは杖から雷を地面に落とし、半径20メートルの範囲の兵士達を感電させていた。

 しかし威力は大きくないのか、食らった者は黒焦げにもなっていないし、地面に伏せて体を震わせているだけ。つまり死んでいないようだった。


「こっちは特に問題なさそうだな」

「待って団長」


 空から団長の前に降りてくるマァチ。


「なんだ?」

「ちょっとやり残しが」


 そう言うとマァチは杖から火花を出した。先程タナカを消し炭にしようとしたあの魔法である。

 そしてやり残しとはタナカを消し炭にすることである。


「消し炭ってしまえー」

「あっつ!!!!!」


 タナカに襲いくる火花。しかし、消し炭になる程の勢いはなく、体の一部の毛が燃えた。どこの一部と言われても一部は一部である。


「ヨシ」

「よくねえよ! 消して! この火早く消して! ここ燃やすの洒落になんないって!」

「ちっ」


 マァチは舌打ちしながら、杖から風を出して消火する。そして風をそのまま出しながら兵士達に向けると、どんどんその勢いが増していき、終いには巨大な竜巻となって敵を吹き飛ばしてしまった。


「じゃあ私行くから」


 彼女はまた竜巻で飛んで奥へと進んでいった。


「じゃあな。

 お? いい脱毛になったんじゃないか?」

「うるせえ」


 デーツはツルツルとなったタナカの一部を鑑賞しながら進む。次はローナの戦っている場所だ。

 そしてタナカはふと思った。幽霊ってどう戦うのかと。そう思いながら着いた先ではローナの姿はなかった。だが奇妙なことに、一人の兵士がその他の大勢の兵士を襲っていた。


「お前! どうして俺たちを襲う!」

「裏切ったのかてめえ!」


 仲間の裏切りに動揺を隠せぬ兵士達。仲間を斬るのをためらっているのか、反撃せず防戦一方だ。

 そして裏切った兵士が叫ぶ。


「そうだぜ! 俺は裏切っちゃったんだぜ! ムテ騎士団の連中と取引しちゃったんだぜ!」


 裏切り者にしての後ろめたさなどなく、随分とハツラツとした言い草であった。


「取引!? まさか金か!」

「ふふふ、違うぜ・・・・・・飴ちゃん貰ったんだぜ!」

「飴ちゃんだとぉ!?」


 理由のしょうもなさに唖然とする兵士達。すると飴ちゃんで祖国を裏切った兵士は、デーツ団長の存在に気づいて手を振った。


「おーい団長ー! 頑張るからねー!」


 彼は無邪気な子供のような笑顔でデーツを見る。まるで前からの知り合いだと思わせるその光景は、思った以上に裏切りの根が深かったのだと周囲の動揺を加速させた。そのうち一人が我慢できずに訴える。


「本当に裏切ったのかよ! たかが飴玉で!」

「ちょうど小腹満たしたくなって」

「小腹なんてアレ我慢すればないも同然の存在だぞ!? そんなんだから太るんだろ!?

 いやそれはどうでもいい! 国に置いてきたてめえの婚約者はどうなるんだよ!」

「あー、いらないから気に入ったならあげるよ」

「んな、古着あげるみたいな感覚で!」


 相当仲のいい者なのだろう。訴えた兵士は涙を流している。一方裏切り者はそれ見て大爆笑。

 人の心がないのかと仲間達は思ったが、タナカだけは違和感を覚えていた。このふざけた態度はなんとなく覚えがあるからだ。


「お前が国を裏切るなら俺が止める!」


 涙を流した兵士は裏切り者に掴みかかって押し倒し、そのまま馬乗りになった。

 しかし、その瞬間にローナが裏切り者の中から飛び出してきたのをタナカは見逃さなかった。


「アレ? 俺は何をしてたんだ?」


 裏切り者だった兵士は眠りから覚めたような惚けた声で、自分に起こってる事に疑問を持ったが、馬乗りの兵士はその言葉を聞かずに、相手を殴り始めた。


「どうして! どうして裏切ったんだ! 信じていたのに! 信じていたのに!」

「え!? ちょっ!? 裏えっ!? いだっやめっ!」


 力のこもったパンチが彼を襲う。怒りで相手が正気を取り戻したことに気づかないようだ。

 そしてそんな様子を兵士達の影から見ていたローナは大爆笑だ。そして他の兵士の中に入っていった。

 そう、ローナは他人の体に取り憑いて操り、混乱を引き起こして戦うのだ。

 ローナに取り憑かれた他の兵士は殴り続ける兵士を蹴飛ばした。


「な、何をする!」


 しかし取り憑かれた兵士はなおも彼を蹴り続け、挙句にこう言い放った。


「暴力反対!」

「どの口が言う!」


 蹴られた方は仕返しとばかりに取り憑かれた兵士に殴りかかるも、ローナはまた抜け出して別の兵士に取り憑き、また別の兵士を殴る。


「お前は親の仇だ!」

「ええ!?」


 すると、殴られた方にまたローナが取り憑く。


「違う、私がお前の父だ!」


 その後もローナは別の兵士に取り憑いては滅茶苦茶なことを言っては殴り、また取り憑くを繰り返した。


「てめえ、さっき俺の悪口言ったろ!」

「金返せ泥棒!」

「この野郎干物にしてやる!」

「てめえのまつ毛のカールの仕方が気に食わねえ!」

「お前のお袋を抱いた!」

「俺はヤギに興奮する!」

「一発ギャグ、脇毛処理」


 以上の台詞は全てローナに言わされた兵士の台詞である。

 この無邪気な子供、いや邪気満載の悪霊のせいで兵士達は疑心暗鬼に陥り、ついには取り憑かれていない者達までうっかりお互いを殴り始めた。ついには剣を振るう者まで。

 あっという間に地獄絵図。攻撃の方法としては他の団員と比べて地味だが、他の誰よりも恐ろしいとタナカは震えた。その光景を見てローナ、そしてデーツも大爆笑。


「見ろ、タナカよ。この光景を」


 デーツは盾を持ちながらその場でぐるりと一回転し、タナカに周囲の光景全てを見せた。

 とんでもない力で投げ飛ばされる兵士達。ものすごい速さでふっ飛ばされる兵士達。反則的な魔法で感電させらたり燃やされる兵士達。この世ならざる者の手で翻弄される兵士達。そして聞こえる阿鼻叫喚。


「最高の瞬間だろ。実力の差を知らずに挑んだ馬鹿どもが返り討ちにあう様は。

 例えるなら、家に侵入した虫をすぐに駆除せずに、羽をもいで飛べなくしてやるかの如く」

「最低の感性だと思う」

「ほう、まだ我に楯突く勇気があるか。自分は盾にされてるというのに。

 立場がわからぬバカなのか、恐れを知らぬバカなのか」

「どっちにせよバカ扱いかよ」

「だが、同じバカでもその二つの違いは大きい。いずれにせよお前はもう少し遊べそうだな」


 デーツが不敵な笑みを浮かべる裏で、兵団はほぼ壊滅していた。

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