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峻烈のムテ騎士団  作者: いらいあす
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第一話 得てして奴らは無敵である その2「団長デーツ」

 そしてしばらく時間が経った。


「起きろ!! モロダシゴミ虫!!!!」


 賢者のアストリアのバカデカい声が、気絶していたモロダシゴミ虫の耳にガンガン響く。モロダシゴミ虫とはタナカの事である。

 そして今は本当にモロダシ中。身ぐるみ剥がされ、何かの上に仰向けの状態で乗せられ、手足を拘束されている。


「ここは?!」

「ここは僕達の憩いの場、拷問部屋さ」


 薄暗く周りが見えない中、エルフのバーベラのどこか気品が漂う嘲笑がタナカの目に映る。横目に何かの閃光が見えたので、そちらの方に目をやると、魔法使いのマァチが機械を弄っていて、スイッチを押すたびに電気が漏れている。


「何をする気だ?」

「さあ? 何をするかは僕らの団長次第さ。ま、気分いい事ではないのは確かだけど」


 バーベラが上の方に目をやる。その視線の先には階段とその上に扉があった。おそらくここから彼女らの言う団長がやってくるのだろうとタナカは思った。

 しばらく見ていると、その扉を通って、いや、扉をすり抜けて幽霊のローナが入ってきた。


「団長が来るよー」


 死人の割にとても明るい表情で大声を出すローナ。他のみんなも今か今かと待ち遠しそうな顔をして待機している。そしてゆっくりと扉が開き、一人の女性が入って来た・・・・・・と思ったら、つまづいて階段から転げ落ちてしまった。


「「団長!!」」


 全員がそのズッコケ団長の元へ寄って介抱する。


「いたた、夜中に起こすからこうなるのだ。あー眠い」


 彼女はゆっくり起き上がる。第一印象最悪なその団長の姿をタナカはじっくりと見た。

 全身は赤地に金の刺繍の入ったマントで覆われてていて、身体は見えないが転がる時と起き上がる時に金属がカチャカチャと音を立てているのを聞くと、どうやら下には鎧を着こんでいるらしい。

 そして顔。老けてはいないが若者でもなく、年齢を重ねた大人の顔。そして美しい顔でもあった。


「お前が、我が要塞ガルガレオスに忍び込んだネズミか」


 団長はタナカの顔を覗きながら、少し不敵な笑みを浮かべた。


「さて、何者だ? 大方、密偵か暗殺任務であろうが、雇い主は誰だ?」

「さあな。頑張って探ってみな。最も俺は喋る気は一切ないが」


 啖呵を切ったタナカ。はったりではなく、彼は拷問の訓練も受けているため、どれだけ痛みを受けても情報を漏らさない自信があるのだ。


「そうか、そうだな。相手に名前を聞く前にまずは自分から名乗るのが礼儀であるな」

「へ?」


 思わぬ団長の答えに少し目が点になるタナカ。


「では教えてやろう、我々が何者なのかを。マァチ、音楽をかけろ」

「あいあいさー」


 マァチが魔法の杖を掲げると部屋全体にアップテンポの曲が響き始め、全員がそれに合わせて体を揺らし始めた。


「一番 

 僕はエルフさエルフのバーベラ 

 瞬足神速一瞬でお前を拘束

 足も速いが女に手を出すのも早いぜ イェー」


 ラップで歌い出すバーベラ。タナカはこの状況の意味不明さに謎の畏怖を感じ始めていた。ていうか女に手を出すのも早いって。そして他の団員も歌い出す。


「二番

 私の名前はマァチ・ターノ

 魔法で最強なんでもできるの

 根暗で毒舌そんな私は結構繊細 イェー」

「三番

 ローナ・ケンフィスお茶目なゴースト

 あんまり舐めてると呪い殺すぞ

 正直生きてる奴らが全員憎いよ イェー」

「四番!

 天の賢者アストリア!

 知能はからっきし!力でごり押し!

 えーとえーとそれからえーと イェー!」

「五番

 私が団長デーツ・ロロイア

 素敵に無敵で刺激的

 みんなの頼れるリーダーだ イェー」

「我ら!」

「我ら!」

「我ら!」

「我ら!」

「我ら!」

「「峻烈のムテ騎士団 イェー!」」


 団長の名前はデーツ。こんな形で敵の首領の名前を聞き出せるとは。そしてたった五人だけの本当に小さな団体らしい。

 しかしそんな重要な情報にも関わらず、タナカの思った感想は一言。


「で?」


 しかし歌はまだ終わっていないのか、タナカの渾身の“で”を無視して、団員みながビートを刻んで待機している。そして団長デーツがタナカをリズムに合わせて指を差す。


「こっちは全部を教えたぜ 

 あんたのお名前なんてーの

 はい

 あんたのお名前なんてーの」

「六番

 俺の名前はー・・・・・・て歌うかー!」


 鳴り止むビート、下がるテンション、団員輪になり、話し合い。


「あいつ思ったよりもノリがいいな!」

「これは結構な大物」

「モロダシゴミ虫だけど」

「でもリズムの入りはよかった」

「モロダシゴミ虫だけど」


 一応の話し合いの決着がついたのか、またデーツがタナカに近づきこう言った。


「お前、なかなか面白いやつだな。最も、だからと言って我らの命を狙った不届き者であることは代わりない」


 デーツがマントのスリットから腕を出し、手甲で覆われた指を鳴らすと、マァチの杖から光が放たれ、それが天井に映像となって映し出された。それは先程、タナカがローナを人質に取った場面であった。


【「こいつは我が里に古くから伝わる、人体改造術の一つ手凶穿。例え貴様らが早く動こうと稲妻を出そうとも、わずかに動くその一瞬でこの子の首をすっ飛ばすことができる」】


 まさか日に自分の言った言葉が三回も繰り返されるとは。そして映像が戻って先程の場面がまた映される。


【「こいつは我が里に古くから伝わる、人体改造術の一つ手凶穿。例え貴様らが早く動こうと稲妻を出そうとも、わずかに動くその一瞬でこの子の首をすっ飛ばすことができる」】


 これで四回目、いやまた戻された。


【「こいつは我が里に古くから伝わる、人体改造術の一つ手凶穿。例え貴様らが」】

「わかったわかった! 確かに俺は子供を殺そうとしたよ。既に死んでたけど」

「とにかくだ。相手の命を奪う覚悟があるのならその逆も然り、命を奪われる覚悟もあるのであろう?」

「ああ、暗殺者は自らの命などとうに捨てたと覚悟して任務に当たる。命乞いははしない、やるならさっさとやれ」

「そうなのだ、そうなのだ、そうそこなんだよ問題は」


 デーツは頭をかきながら苦虫を噛み潰したような表情で言う。


「死ぬ覚悟のある人間を殺したところでなんの意味もない。

 我が騎士団の仲間を襲ったその罪を償ってもらうにはそれ以上が必要なのだ」

「つまりは拷問による苦痛ってことか。そのぐらい覚悟の上、やるなら」

「やるならさっさとやれ。って言うのであろう? 

 だが”苦痛“だなんて、そんなありきたりな事は我らムテ騎士団の主義じゃない。我らは“峻烈”にいく」

「しゅんれつ?」


 “峻烈”、厳しく激しいことを指す。タナカはその単語に聞き覚えはなかった。だが、これからよくないことが起きる事だけはわかった。


「なんだっていい。俺は耐えてやるさ」

「別に耐える耐えられないはこの際どうでもいい。命などとうに捨てたのであろう?

 だったら今からお前の命は我らが好きに使うだけだ。

 よーし、みんな乗れ」


 乗れ? なんに乗るのかタナカは疑問に思ったが、自分の背後でドタドタと騒がしい音がする。

 タナカは仰向けの状態、つまり後ろを見るには視線を上に向けなければならない。首を極限まで反らし、白目寸前になるまで上目にしてようやく後ろの光景が見えた。

 自分の後ろには大きな箱がいくつか連なっており、そこには椅子がふた席ずつ並んでいて、ムテ騎士団達はそこに座っていた。やがて部屋に明かりがついて、タナカの目の前に線路が広がっているのが見えた。


「俺、今トロッコに縛られてるのか?!」

「違う、これはジェットコースター」


 タナカのすぐ後ろ、つまりは先頭座席に座るマァチが言う。


「ジェットコースター? て、それで一体」


 タナカが言い終わる前に大きなベルの音がジリリリと響く。


「安全バーを所定の位置までしっかりと下げてください、間もなく発射致します」


 マァチは杖を拡声器代わりにして、自分の声を部屋全体に響く。団員達はそれぞれ安全バーを下ろして体をしっかり固定させた。しかし、幽霊であるローナだけはバーがすり抜けてしまう。


「じゃあローナ、お願いね」


 マァチが振り向いて後ろの席に座るローナに言う。


「えー? 今日もローナちゃんがやるのー?」

「ごめんね。動かすだけの電気が溜まってなくって」

「わかったわかった」


 ローナは何かを了承した後、下へと潜っていった。すると、マシンが揺れ始め言葉を発した。


「じゃあ出発するよ」


 その声はローナの物であった。そう、幽霊の体を利用してジェットコースターに憑依したのである。

 全裸の男が先頭に括り付けられたまま、マシンはゆっくり進み、直角になった坂を登り始めた。

 やがて外まで出て城の天辺にまで達する。城の全高は65メートル。切り立った崖の上に建っているので地上からの高さは100メートル近くになる。流石にスリルには慣れっこのタナカでも、拘束されたままこんな高さまで来たことはない。

 モロダシの体を満月の光が照らしだす。


「おい、この後どうなるんだ!?」


 慌てふためいて質問するタナカ。だが時既に遅し。マシンはほぼ直角に猛スピードで下り始めた。

 そしてタナカの質問に答えたのかはわからないが、団員全員が楽しそうに叫ぶ。


「「ダウーン!!!!!」」


 ジェットコースターのスピードにみんな満足そうだ。タナカ以外は。

 マシンは地上スレスレまで落ちると、今度は地下トンネルを通って、城の内部へと入り、水平のループ、垂直のループを繰り返した後、螺旋に回転をした。一度は乗ってみたい夢のコースだね。

 暗いトンネルを抜けると、そこはようやく元の拷問部屋に。その頃にはタナカは意気消沈、哀れ無惨な姿であった。


「どうだ暗殺者よ。乗り心地は」


 デーツが嘲笑混じりに聞く。


「もう、いやだ・・・・・・」


 タナカは朦朧とした意識の中でなんとか声を絞った。だが。


「え? もう一回だ? よし行こう。頼むぞローナ」

「あいあいさーのさー」

「やめてー!」


 マシンは再度上昇、再度下降。絶叫マシーン好きにはたまらないコースをもう一度駆ける。タナカは絶叫マシーンが嫌いなようで、またしてもぐったりしたまま拷問部屋に。


「もうやだ」


 そう声が漏れる前に、アストリアが叫ぶ。


「もう一回乗りたい人、手ぇ上げて!!!!!」


 タナカ以外全員挙手。


「反対の人!!!!!」


 そもそも拘束されてるからタナカは手を挙げることなできない。


「というわけで賛成が多いのでもう一回!!!!!」


 はいそうですもう一回です。もう3周目にもなると若干飽きてきたのか、みんな会話をし始める。まず話題を出したのはデーツだ。


「こいつの情報は他にないかバーベラよ」

「武器を大量に隠していた。クナイが主で、100本近くも持っていた。おそらくクナイフェチのド変態だね」

「ほう。我にはわかるぞ。武器も愛着持ってるとムラムラしてくる時あるよな」


 変態扱いされた後、本物の変態の発言を聞かされるタナカ。

 だが反論する気力もないのでこのままデーツ団長と武器フェチズム仲間にされてしまった。


「ていうかこいつの名前なんだよ!!!!!」


 絶叫マシーンに乗ってなくても、常に絶叫しているアストリアの声はやはり絶叫マシーンに乗ってもよく響く。


「モロダシゴミ虫だよ」


 バーベラがフォローするも


「そもそもモロダシゴミ虫って何? なんかみんな当たり前のように使ってるけど」


 今度はマシンと化してるローナが聞く。そして全員押し黙る。


「誰だ? 最初に使いだしたの」

「モロダシってなんだ!!!!!」

「私はみんなが使ってたから使ってるだけ」

「モロダシってなんだ!!!!!」

「どうだったかな。どっか他所で聞いた気がする」

「モロダシってなんだ!!!!!」

「なんか知らない間に仲間内だけで流行言葉ってあるよね」

「モロダシってなんだ!!!!!」


 そんなこんなでまた一周。だけど話の決着がつかなかったので惰性でそのまま4周目に突入。


「モロダシゴミ虫じゃかわいそうだし他に名前つけてやろうではないか。はい、みんな名前挙げて」

「モロ」

「ダシ」

「ゴミ」

「虫!」

「て、変わってなーい」


 こんな寒いコントに、タナカはうんざりする気力も無くなっていた。そう、彼の名前はタナカである。


「じゃあタナカとかどう?」


 そう切り出したのはマァチであった。

 偶然かそれともなんらかの魔法で言い当てたのかは不明だが、意気消沈中のタナカも思わず反応する。そう、彼の名前はタナカである。


「そんな変な名前のやついるか?」

「変というかナニソレって感じ」

「そんな名前の人いないでしょ」

「モロダシってなんだ!」


 酷い言われようである。だが一人反発する者あり。そう、彼の名前はタナカである。


「タナカで何が悪い!」


 このタイミングで丁度一周が終了して拷問部屋に到着。思わず自分の名前を出してしまったタナカはしどろもどろ。


「本当にタナカだったとは」


 最初にタナカと言い出したマァチは、自分が当てずっぽうで言った名前が正解だった事に驚きを隠せなかった。どうやら偶然の一致だった模様。


「まあ名前がわかったところで特に意味がないのだがな。ええと、モロダシタナカ虫君?」

「タナカだ」


 最早ヤケクソのタナカは堂々と名乗り始める。


「さてこの調子で目的まで吐いてくれるといいが」

「流石にそこまでバカじゃない。それにもう」


 タナカは外の様子が気になってるのか、ジェットコースターの進行方向に目をやった。すると、大きな音と振動が城に響き渡る。

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