第五話 転売に明日はない その4「見てくださいこのコショー↑↑」
そんなこんなで準備を進めること約5分。その間にもコニーとクラウドは商売を続けている。
「さあ、たかだか5万ぽっちも払えない貧乏人は帰りな」
その言葉に、先程の小金持ちの婦人が前に出た。
「か、買えますわよそのぐらい。ええ、買わせていただきますとも!」
彼女にとって貧乏人扱いは癪に障ったのだろう。しかし、使用人を雇わずに自分で買い物に来ているあたり、実際には大した金持ちでもないのも事実。
「ちょっと待ったー!」
その時ムテ騎士団の待ったの声が響く。そして群衆がその声のする方向に目を向けると、そこには小さな舞台がいつの間にか建てられていた。
そして主婦の格好をしたマァチ、子供のような短パンと小さな帽子を身につけたローナとタナカが舞台に上がる。最初に台詞を口にするのはマァチだ。
「さあ子供達。今日の晩御飯は単に火を通しただけのお肉よー」
「えー味気なくてやだやだー」
ローナは嫌がる演技をする。しかし隣のタナカは状況を飲み込めずに当たりを見渡す。
「ちょっとタナカ君。演技しなよ」
「え、ええ?」
「いいから嫌がる子供の役だよ。ほら、やだやだー」
「や、やだー」
かなり棒読みだが一応の演技を見せるタナカ。そしてお次はバーベラが舞台に上がる。
「オーノー。料理の味がありきたりで、子供達がご飯を食べてくれない時ってあるよねー」
彼女は普段以上に声を低くして、さらに大袈裟な身振りで演技している。
「でももう大丈夫。このムテ騎士団が発明した奇跡の調味料があれば、味に新たな革命を起こして、あなたの食卓が明るくなること間違いなし!
その名も・・・・・シオコショー!」
「んまあーシオコショーですってー」
筒状の器を出したバーベラとマァチは大袈裟な演技を続ける。
コニーとクラウドも気になったのか、店を離れて舞台に近づく。
「使い方はとって簡単」
バーベラはマァチの手をひき、舞台の隣に据えられていたバーベキュー用の鉄板に案内する。そしてそれを追ってローナとタナカも移動する。
「さあ、シェフを呼ぼう。シェフー」
バーベラがシェフを呼ぶと、シェフことデーツがやってくる。その後ろには仔牛の肉の塊を抱えたアストリアも。
「やあシェフだよ。今日はこちらの素敵な奥さんとご家族にとびっきりのステーキを振る舞おう。アシスタント君、お肉を」
「私はアストリアだぞ団長!!」
「いいから置くのだ」
「わかった!!」
アストリアが肉を投げると、デーツがムテの剣で肉を6切れのステーキにして熱々の鉄板の上に落とす。
上質な脂が溶けて蒸発し、周囲に美味しい匂いを漂わせた。
「オーイエー! いい匂いだねシェフ」
「だが、どんな上質な肉だって味の決め手がないと締まりがない。そこで使うのがー・・・・・」
「シオコショー!」
バーベラが群衆に見せつけるようにシオコショーの容器を見せつける。
「さあ、取り出しましたこのシオコショーを肉全体に行き渡るよう、満遍なく、そして軽く振るう」
火が通って、ピンク色の身が薄く茶色に変わり始めた頃に振りまかれる塩と胡椒。
脂混じりの蒸気に乗せて胡椒の芳しい香りが、群衆の鼻とお腹を刺激する。
「これだけいいお肉だと、半生が一番美味しいのでね、はいこれで完成という事で」
ステーキを切って断面を見せながら皿にのせていくデーツ。前方で見ている人はその見事な色に生唾を飲んでお腹を鳴らした。
「じゃあ奥さん、早速食べてみよう」
「はーい」
ムテ騎士団とタナカは、バーベラによって配られたお肉を群衆に見せつけるように一口で食べる。
「うま!」
タナカはこれだけの上質なお肉を食べるのは初めてだったようで、噛んだ瞬間に溶けていく脂身に思わず声が出る。
「すげえ、脂っぽいのにしつこさがない。ただただ肉の美味しいところだけが口の中で溢れてくるようだ」
そして味の感想も頼まれてもいないのにどんどん出てくる。
その仕込みのない素直なリアクションは、見ている者の信頼を勝ち取り、舞台への視線を釘付けにした。
「その脂のうま味を活かすのが、このシオコショー。
なんとこいつには、塩と胡椒が両方同時に入っているのさ!
塩味で味を調え、さらに胡椒で香りづけすることで、どんな料理もたったの一振りで深みが増す魔法の調味料」
バーベラは容器を持ちながら、舞台の端から端を歩いてさらに見せつける。
「だから適当に切っただけのお手軽野菜のスープも、こいつをぱぱっと振ったら」
デーツは野菜スープの入った鍋にシオコショーを振る。そしてそれをアストリアが飲み干した。
「めちゃくちゃうまーい!!!」
「これなら、姑にも文句を言わせまい。さらに、こいつはどんな食材にも合う」
「卵は?」
マァチがエプロンのポケットから卵を取り出す。
「もちろん合うぞ。卵を混ぜる時にふってあげればオムレツがさらにうまくなる」
「魚も?」
「もちろんもちろん、合わない食材を探すのは難しいぐらいだ」
ここで群衆から「おおっ!」という声が漏れる。その反応に焦りを見せたのか、コニーがヤジを飛ばす。
「じゃあ牛乳とかはどうなんだい!」
その言葉に、待ってましたとデーツは答える。
「野菜と一緒に煮詰めてシオコショーすればあっという間に、美味しいスープができますのよ奥さん」
「じゃあ砂糖はどうだ!」
今度はクラウドがしたり顔でヤジを飛ばす。これにも待ってましたとデーツは答える。
「実をいうと・・・・・ちょっとだけ砂糖も混ぜてある。所謂隠し味ってやつ」
二回も答えを返されて恥をかかされたコニーとクラウドだが、負けじとまたヤジを飛ばす。
「胡椒に砂糖だと! そんな高級なもの使うってことは相当な値段だぞそれ!」
その言葉にシオコショーに魅力を感じ始めた人々は動揺し始めた。
確かに胡椒だけでも値段が張るのに、さらにそれよりも高い砂糖が混ざったら、個人では中々手を出せる値段じゃないことは目に見えている。
そうした中でマァチが声を張り上げる。
「たしかにぃ! お値段はどうなっちゃうのぉ? どうせお高いんでしょー?」
「オー!心配だよねー。だけど安心してよ! なんとこのシオコショーはなんと・・・・・1980ゴルド! 1980ゴルド!」
「「お、お安い!」」
これには群衆もコニーとクラウドも同じリアクション。
「だけど今なら、おまけして・・・・・198ゴルド!」
「「ええー!?」」
さらに驚きが増す。
「さらにさらにもう一本つけちゃうよ!」
ここまでくると、その衝撃に倒れる人まで現れた。
コニーとクラウドもそのあまりのサービスの良さに怯み始めた。
「馬鹿な! ありえん! 化け物か!?」
「あんた気をしっかり! ここで持ち堪えないとやられちまうよ!」
「え? もう一声? 仕方ないなー。じゃあ5本まとめてどうぞ!」
なんの因果率が働いたのかは知らんが、コニーとクラウドはその一言に吹き飛ばされてしまう。
「さあさ、あなたの食卓を彩るシオコショー。今なら5セットが198ゴルド。198ゴルドです。
数に限りがありますのでお早めに」
殺到する人々。ムテ騎士団はそれを捌きながら販売していく。
コニーとクラウドは立ち上がって負けじと叫ぶ。
「お前らおかしいと思わないのか! 胡椒がそんな安価で手に入るわけないだろ!」
「そうよ! こんなのインチキ決まってるわ!」
「インチキ!」
「インチキ!」
そんな二人にデーツがやってきてシオコショーを振りかける。
「インチキ! いんちっっくしょん!」
「インはっくしょん!」
「こ、これは確かにはっくしょん! 胡椒! へぇっくしょん!」
「ムテ騎士団嘘つかなーい」
デーツはまだ胡椒をふりかける。
「わかった! わかったからもうやめろ! ぶえーっくしょん!」
「ていうかそのためだけに胡椒をかけっくしょん!! 勿体無いでしょう! いっきしゅん!」
その言葉を聞くとデーツは販売に戻った。
「ふざけた奴らだ」
「だけど、あたいらもアレを買ってまた売れば大儲けじゃないかい?」
「そうだな。よし、俺たちも買うぞ!」
「はい売り切れでーす」
その言葉を聞くや否や見事にズッコケる二人。
「おいしいやつら」
とは、マァチの下した評である。
「じゃ、また会えたら会いましょう。さいならー」
舞台をあっという間に片付けて去って行くムテ騎士団。
一方コニーとクラウドは歯を食いしばりながら、大量に余った胡椒を見つめていた。




