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峻烈のムテ騎士団  作者: いらいあす
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第五話 転売に明日はない その3「コニーとクラウド」

 そして数時間後、タナカは大量に重なった荷物を抱えて右往左往していた。


「タナカ、真っ直ぐ歩かないと危ないぞ」

「前見えないんだよ!」


 なんとか顔を荷物の横側から首を出して、周囲を確認しながら歩くタナカ。

 そんなタナカを見て、マァチがこう呟く。


「いいね」

「何が!?」

「この荷物抱えてるの、いかにもこき使われてる感があって、とても落ち着く」

「落ち着くな」

「まあまあ、ローナちゃんだってタナカ君のこと考えて荷物一つだけ持ってあげてるんだから」


 ローナは念力で馬の人形を運んでいる。


「そりゃ自分のおもちゃだからだろ!」

「違いまーす。拷問道具でーす」


 ローナが馬の首をもぐと、中から有刺鉄線が飛び出る。


「わ!? 街中で出すなそんなもん」

「あ、そろそろ魔法で冷やさないと」

「冷てえ!」

「タナカ!!!!!」

「な、なんだ!?」

「特に用はない!!!!!」

「ほんとお前らなんなんだよ・・・・・・」


 そんなこんなで先ほどの魚屋市場を通りかかった時に、何やら騒がしい様子の人々を見かける。


「何があった?」


 デーツが通りすがる人に尋ねる。


「なんか胡椒屋で揉めてるんだと」

「揉めてる?」

「詳しいことはよくわかんねえ」

「そうか。じゃあ確かめに行くか」


 ムテ騎士団一行が胡椒屋の屋台に近づくと、その前で人々が罵声を浴びせてるのが見えた。


「おい! ぼったくりが!」

「卑怯者!」

「そんな商売で恥ずかしくないのか」


 しかし、店主はそんな様子は気にしていない。


「なんだ? 急に値上げでもしたか?」

「おや、団長。あれは僕が今朝見た胡椒屋じゃないよ。

 今朝のは年寄りの男性一人だったけど、この店は若い男女がやってるね」

「単に交代勤なんじゃ?」

「いや、屋台自体が違うから完全に別の店だね」

「ふーん“コニーとクラウドの店“ね」


 デーツは店に掲げられている店名を読み上げる。この店を営む夫婦の名前そのままの店名である。妻の方がコニー、夫がクラウドである。


「さあ安いよ安いよ新鮮な胡椒だよー、今ならこれだけの量で、たったの5万ゴルドだよー」


 客の罵声の中でコニーの甲高い声が響く。


「なあ、胡椒の相場ってどんぐらいだ?」


 タナカは隣にいたバーベラに聞いてみる。


「ここから距離をかけるにつれて値段が跳ね上がって、首都圏ではあの量で5万前後なのは確かかな。

 でも、ここでなら同じ量でも高くて1万ゴルド。さらに言うと今朝の店はおまけして9千ゴルドだったよ」

「そりゃ不満の声も上がるか。でも、早く起きてその店で買えばよかったんじゃ」

「買おうとしたさ!!」

「うお!?」


 タナカの隣で、群衆の中の一人が大声を上げた。彼はエプロン姿で、料理店で働いているようだった。


「俺達地元の店の者は、あの爺さんの店の胡椒をいっつも買ってるんだが、今日はなぜか地元以外の人間がたくさん並んでた。

 胡椒は4万ゴルド分の量しか売ってもらえないんだが、その他所モンども全員が、その上限で買い占めたせいで地元民は買えなかったんだ」

「でもそれってルールに則ってるんだし仕方ないんじゃ」


 すると、後ろにいた年配の女性が話に割って入る。高級そうな毛皮のストールを身につけているので、所謂小金持ちなのだろう。


「ところがその後にあの夫婦が来て、その連中から胡椒を受け取って、あの店を始めたでございますのよ。

 つまりあいつらは並んでた連中と組んで、お爺さんの胡椒を売り始めたんでございます。

 それも9千ゴルド分を5万ゴルドですのよ」

「それって転売!」


 マァチが珍しく声を張り上げた。


「転売のなにが悪い。ルールは破ってないぜ」


 店の奥で腕を組んでいたクラウドが外に出てくる。彼はかなりの長身で、群衆を文字通り下に見ていた。

 そして愛する夫に同調するようにコニーがまた声を張り上げる。


「あたいらは人を雇って胡椒を調達したんだ。これだって他の行商人がやってることと同じだろ?

 つまり、あたいらコニーとクラウドは立派な商売人なのさ!」


 もちろん群衆はそんな事を認めるわけもなく、非難の嵐は止むことがない。そんな状態に苛立ったクラウドが声を上げる。


「ぎゃあぎゃあぎゃあとうるせえんだよジジババどもが! これが新時代の商売なんだよ!

 そんなに欲しけりゃ、遠くまで足を運んで他の店に買いに行くか、もっと早く並べばいいだろ! お前らそういう努力もしないでよく被害者面できるなあ!

 胡椒が欲しけりゃ金を払え! それが嫌なら帰れ! それだけの話だろうがよ!」


 群衆は彼の言葉に押し黙ってしまった。吠えるような声に怯んだわけではない。“努力”という言葉が響いたからだ。

 確かに、いつもより早く並んでいれば買えたかもしれない。遠くまで行けばあまり高くない値段で買えるかもしれない。自分達のいつでも買えるという認識の甘さがこの事態を招いたかもしれない。そういった思いに駆られ、恥じて、そして黙ってしまったのだ。

 だが、そんな中でコニーとクラウドに反抗心を忘れない者たちがいた。なんてこったムテ騎士団である。


「さて、ムテ騎士団よ。楽しい楽しい市場崩壊チャンスだぞ」

「何そのチャンス!?」


 デーツの言葉にツッコむタナカだが、彼女はその市場崩壊チャンスなるものを本気でやるつもりらしく、彼のツッコミはスルーされ、ムテ騎士団だけで集まって円陣を組む。


「じゃあ我が準備する」

「この台詞は僕に任せて」

「じゃあ前にやった時と同じだね」

「ローナちゃんのアドリブ力を見せてやる」

「お腹すいた!!!」


 なんの会議かわからないタナカはただ呆然とするばかり。すると、ローナが彼に話かける。


「というわけで、タナカ君はローナちゃんと一緒にやるからちゃんと着いて来てよね」

「な、何すんだ!?」

「いいからいいから」

「なあ、せめて目的を教えてくれ」

「なんてことはない。あのバカップルにお灸を据えてやるのさ」


 デーツが、マァチが出した何かを運びながらタナカに言った。


「ふーん。お前ならあの二人を肯定すると思ったが」

「なぜそう思う?」

「だって飯の時に、早い者勝ち的なこと言ってたろ。

 あいつらだって早く並んだから大量に買えたわけだし。まあ代理雇ってたけど」

「“的なこと”ってお前・・・・・・ちゃんと聞いてないな。まあいい、それとこれとは話が別だ。

 それにあいつ、さっき我のことババと呼んだし」

「アレは特定個人に向けた言葉じゃないと思われ」

「とにかく、今からお金で買えない物を教えてやるパート2を始めるから、今度はちゃんと聞いておけ。

 あと、ついでにお昼も食べる」

「どんなタイミングで昼食おうとしてんだ」

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