第四話 ピクニック日和 その2「ムテ騎士団流ピクニック」
一方で代表兵士ミーちゃんハーちゃんの報告を聞いた各師団長は困惑をしていた。
合戦の最中、ピクニックをしている連中を邪魔してはならないなどという報告を、どちらの軍も未だかつて聞いたことがなかったからである。そりゃそうか。
そして、最初に行動を決めたのはミカデウス王国の方であった。そもそもこの領土拡大戦争を先に仕掛けてきたのは彼らなので、野心的な気持ちが強いのである。
「力の強いやつがいたからと言っても、その連中はみな女なのだろ?
だったら、さっさと襲って捕虜にすればいい。 例えこの合戦に負けて退くことになっても、いい戦利品になるだろうよ」
師団長の下卑た笑みに、いややめた方がいい、マジでやめた方がいい、と言いたいミーちゃん。
彼は、彼女たちが師団長が考えているような手籠めに出来るような連中ではないと、身をもって知っているからだ。
しかし、たかが一介の兵士が師団長に進言できるわけもなく、ただ報告を済ませて自分の隊に戻るしかできなかった。
やがて岩の影がムテ騎士団の方へと伸びる。合戦の合図だ。
ミカデウス王国の前線部隊が声を上げて駆け出す。わけのわからない報告に手をこまねいていたハンバンド王国は後れを取ってしまい、急いで進軍の支持を出すのであった。
ところで一方のムテ騎士団はそんなこともお構いなく、マァチの特性ランチに舌鼓を打っていた。
「うむ、外で食うサンドイッチは格別だな」
「ただパンに具材を挟んでいるだけなのに、ここまで美しいハーモニーを奏でているとは。
シェフの腕がいい証拠だね」
「バカ、ほめ過ぎだから」
「照れてる照れてるー」
「うまいぞ!!!」
そんなのんびりとした食事をしている中にも、一人だけ心を落ち着かせていない者がいた。
バーベラ が連れてきた例のお店の女の子である。
「ね、ねえあんた達。なんか左右から兵隊さんが迫ってくるんだけど、本当に合戦中にピクニックするわけ!?」
状況が不明過ぎて、今まで声を出せずにいたが、とうとう生命の危機を感じて訴え出た。
「大丈夫安心して。 それよりこのサンドイッチを食べてごらん。 美味しいよ」
バーベラは彼女を抱き寄せると、その口にそっとサンドイッチを当てた、バーベラの柔らかくもどこか情熱的なハグと、甘い囁きに促されて女の子は思わずサンドイッチを口にする。
「あ、本当だ美味しい」
「ね?」
バーベラは今まで何人もの女性を虜にしてきたその笑みを彼女に向けた。彼女もまたうっとりとした気分で先ほどまでの緊張がほぐれたようだった。
しかし、差し迫る兵士たちの下品な雄叫びで現実を思い出す。
「いや、美味しいけども美味しいけどもさ! 危機がそこに来てるから!」
彼女の言うように、危機が間近に迫っている。
ミカデウスの兵士たちはムテ騎士団+アルファを見て、各々下卑た欲望を語り合っている。
「美人ぞろいじゃねえか! 俺はあの気の強そうな女がいい!」
「あの男みたいな恰好の奴、よく見るとエルフじゃねえか! いいよなエルフの女ってのは」
「俺はそいつが抱いてる子が好みだ。他に小さいのが二人もいるが、お前がもらうか?」
「ふへへへ、俺小さい子好き。 俺がもらう」
「ありゃ賢者じゃねえか? 賢い女はいくついやらしい言葉を知ってるか楽しみだなおい!」
聞くに耐えない下世話な言葉たち。しかし、そんなものなどムテ騎士団にとってはハエの羽音程にも感じないどうでもいい言葉たちだ。
そしてあと数メートルまでの距離に来たところで、アストリアが首にかけている鎖を外しそれを鞭のように振るって、ミカデウスの兵達の顔面に叩きつけた。
兵士たちはあまりの力にその場で倒れて気を失ってしまった。 その顔は無残にも血まみれで歯が何本も欠けてボロボロになっていた。
「お前らなー!!食事中は静かにしろー!!!」
その言葉と矛盾している程の大声で叫ぶアストリア。その大声は進車する兵士たちの耳をつんざいた。
その一方で反対側からハンバンド兵が迫っていた。彼らはムテ騎士団を手籠めにするつもりはないが、それでもミカデウスが目の前に迫っている以上、真っ直ぐ進軍し続けるしかなかった。 たとえ目の前に民間人がいようとも。
「ちょっと、土が入るから来ないで」
ただし、魔法使いの雷を食らっては足を止めざるを得ない。マァチは杖から雷を出してハンバンド兵達を感電させた。
「ね、大丈夫って言ったろ? 僕らには危機なんてものは存在しないのさ」
「え、ええ」
バーベラに優しく声をかけてもらったものの、女の子は安心どころかただただ困惑するしかなかった。そして彼女だけでなく、それを目撃した両軍の兵士ともに困惑していた。
しかしながら目撃したのは前方の隊だけ。後方から来る隊はその事実を知らないのでどんどんと迫ってくる。
止まるわけにもいかないので、前方の隊は何も解決策を見いだせないまま、ムテ騎士団の近くを避けて進んでいく。
だが、避けたつもりが思わず近づいてしまった兵には、もれなく鎖や雷のプレゼントがお見舞いされたため、徐々に彼女たちを避ける範囲が広がっていった。
やがて戦場はピクニックシートを中心に大きな穴が開いた状態となり、一体何と戦っているのかわからなくなっていった。
それを見ていたハンバンドの師団長は、なんとかせねばと策を講じる。
「あんな戦い方じゃろくに前に進めん。弓矢部隊であの者たちを排除させよ」
「しかし、あの中心だけを狙うのは難しいかと。どうしても仲間の犠牲が出ます」
師団長は副団長の助言も聞かずに、弓矢部隊に合図を出す。
「放てー!」
号令と共に弓矢を一斉に放つ部隊。副団長の予想通り、ミカデウス兵だけでなく、仲間のハンバンド兵にも矢が刺さった。
そもそもこの弓矢は、相手が自陣に入ってきた時の反撃に使う近距離仕様のものであるため、この作戦自体が無茶なのである。で、肝心のムテ騎士団はというと。
「おっと、ひと雨来そうだな」
矢が上空から落ちてきていることに気付いたデーツは、ムテの剣を抜いて上空に向かって大きく一振りをした。
すると、剣から放たれる風圧によって、すべての矢は勢いを無くしてシートの周りに散らばった。
「落とし物だな。返してやれ」
デーツが指パッチンをする前に、バーベラが落ちた矢を拾って、それを弓矢部隊全員のケツに刺してから戻った。
「ただいま。 みんな泣いて喜んでくれたよ」
「善行は気持ちがいいもんだな」
弓矢での作戦は無意味だと両陣営が悟ったころには、ムテ騎士団は食事を終えていた。
「もういい。私帰りたい。お願い帰して」
女の子がこの戦況のカオスに耐えかねて泣きじゃくり始めた。
「門限か? 厳しい家庭だな」
「こんな中途半端な門限があるか!もう嫌なのよ!こんな所もあんたたちも!」
「どうするムテ騎士団よ。もう帰るか?」
デーツは団員に聞く。
「やだローナちゃん遊びたい」
「そうだ!! 私も遊ぶぞ!!」
ローナとアストリアは帰るつもりはないようだ。
「マァチは?」
「デザートも持ってきた。せっかくだからここで食べよう」
「どういうせっかくよ! 周り倒れた人間ばかりなんだけど!」
女の子の言う通り、周りはアストリアとマァチが倒した兵の他に、戦場で倒れた兵士であふれかえっている。
それでもまだピクニック気分に浸れるムテ騎士団に、彼女はただただ正気を疑うしかなかった。
「仕方ない。 バーベラ、そのお嬢さんをお家まで送ってやれ」
「もちろんだとも」
バーベラは女の子をお姫様抱っこする。
「ごめんよ。ちょっと刺激が強かったかな」
「まあ、あなたとの時間はすごくよかったけど・・・・・・」
「あ、もし暇ならついでにガルガレオスに戻ってタナカの様子を見てきてくれ。 様子だけでいいんだ」
「え? まあ団長の命令なら聞くけどさ」
そう言うとバーベラは女の子を背負って高速で走って行った。




