第三話 ガルガレオスの生活 その3「壁掃除」
デーツが城の外へと案内する。ただ外と言っても、城の四方でそれぞれの趣が異なっている。
まずは南側の正面入り口。昨日の合戦の舞台になったところで、周りは岩山に囲まれた盆地となっている。
続いて城の裏、つまり北側。そこは切り立った崖になっており、その遥か下に大きなため池がある。生活用水はここから組み上げられている。そしてタナカの潜入ルートでもあった。
西側はジェットコースターのコースがはみ出ているために、管理が行き届いていたが、東側は蔦で壁が覆い尽くされていた。タナカが連れられて来たのはこの東側だった。
「見ての通り、しばらく触ってなかったから蔦やら枝やらが城壁にへばりついている」
城の高さが65メートル。それを囲っている城壁はその半分の30メートル程。敷地は大体1キロ平方メートル。つまりこれだけの仕事量は……
「面倒くさ!」
「だからみんなやらなかった。で、やらなかったことをお前に押し付けると」
「あーはいはいやりますよ」
「できる範囲でいい。道具は庭にあったものならなんでも使ってくれ。じゃああとは任せて我はピクニックに行く」
デーツはその場を離れようとする。
「おい待てよ」
「やり方ぐらい自分で考えろ。ただ壁の邪魔な植物取るだけだぞ」
「いや、そういう意味でなくて」
「まさかピクニックについて行きたいのか? 団員限定だからダメでーす」
「そうでもなくって! ああ、さっきからなんか会話がズレるな。
俺が言いたいのは、俺を放置して遠くに行っていいのかってことだ! こんなに逃げる隙を与えられる捕虜なんか初めて見たぞ」
デーツはその言葉を聞きながら、壁の蔦を弄っていた。
「まあ、逃げたきゃ逃げてもいい。ただ、もう一度見つけ出す自信はあるがな。
で、見つけ次第こうすると」
デーツが蔦を思いっきり引っ張ると、その垂直一帯の蔦が全部ちぎれてしまった。
「我々の拷問が生優しいものじゃないと知ってるだろう?」
「ああ、わかってるよ」
タナカは西側から少しはみ出して見えるコースターのコースを見ながら、あの日のモロダシを思い出していた。
「ちなみにジェットコースターはまだ序の口だぞ」
「序……」
「最も、お前なら拷問がなくてもこの仕事をやり遂げるだろうが」
「はあ?」
「というわけで今度こそ行ってくる」
そう言ってデーツはピクニックの準備をしに城内へと戻った。
タナカの方も道具を取りに、中庭へと戻る。そして、道具を運びながら先程デーツが言った言葉を考えていた。なぜ彼女は、自分ならこの仕事をやり遂げられるのかと言ったのかを。
全ての道具の準備を終えて城の入り口に出た時、タイガーマーク2号を出して、出発しようとしていたムテ騎士団と、それからおまけに店の女の子と鉢合わせた。
「団員限定って聞いたのだが」
「団員限定だから、団員が連れて行く人を選べるのさ」
バーベラがお店の女の子の方に手をまわしながら言う。当の女の子の方は、初めて見るヘリコプターに圧巻されていたが。
「じゃあタナカ、後は任せたぞ。特にノルマは決めないが、あまり手を抜くなよ。あと出たゴミはまとめて樽の中に入れろ。それから腹が減ったら自生してる果実を食えよ、あ、キノコは基本毒キノコだから食うなよ」
「はいはい」
他の団員がタイガーマーク2号に乗り込む中、デーツは振り返ってタナカに色々と言う。ようやく言い終えて、乗り込もうとした瞬間に再度振り返る。
「今あるものを使え」
そう言い残してようやくデーツも乗り込み、飛びだって行った。
「今あるもの使えって、また手凶穿のことか?」
デーツの小言が鬱陶しかったので、彼女の言った言葉を深く考えずに、タナカはとりあえず作業しに向かった。
一方、楽しいピクニックへ向けて空の旅を満喫するムテ騎士団御一行。機内に流れる音楽は、ローナの鼻歌である。
操縦席には、ローナをアシストするためにマァチが座っており、その下には彼女お手製のサンドイッチや料理が入ったバスケットが。それをこっそり盗もうと、アストリアが近づく。
「うおー! 盗むぞー!」
と大声で泥棒宣言するアストリア。もちろん、そんな声にマァチが気づかないわけもなく、彼女は杖でアストリアの手を叩いた。
「痛っー! なんで盗もうとしたのがわかった!」
「むしろアスティはなんでわからないと思ったの?」
「足音立てなかったからな!!!」
馬鹿には付き合いきれないと、マァチは前方の窓を見ることにした。
その後ろの席では、初めてのヘリコプターに戸惑い震えている店の女の子をバーベラが優しく抱いて、落ち着かせていた。その一方で、彼女は団長への気配りを忘れない。
「なんだか上の空だけど、どうしたの?」
「ん? いやータナカに他に言い忘れたことなかったかなと思ってな」
「あれだけ言ったのにかい?」
「困ったな、歳だ」
「でも、いくつになろうとあなたは美しいままさ」
「ははは、でも美貌と知能のどっちか差し出せって言われたら美貌の方を差し出すな我は」
その時機内アナウンス、もといローナの声が響く。
「人は老いてどっちも失うから、若いうちに死んだ方が楽かもね。私みたいに」
このゴーストジョークに一同大爆笑。一気に場が賑やかになる。そして続け様にこう言った。
「そうそう、飛んでいく時に森の方でモンスターの群れが見えたけど、この時期って確か繁殖期だったよね。
タナカ君、出くわしたらまずいんじゃない?」
「そうそう、思い出した。それを言おうとしてたのだ」
デーツが手のひらをポンと叩いて、ようやく出てきた答えに安堵し、またみんなで笑い合う。
「あ、ヤッベ。これ一番言っとくべきやつだった」
その一言で、一瞬にして静まり返る機内。
「でも、まあいっか。大丈夫だろう」
何がいいのかはわからないが、デーツのくだした大丈夫という評価にみんなで安堵しまた笑い合う。
楽しい楽しいピクニックに向けて一行は、空を行く。
そしてその下でモンスターの一行が、森を行く。




