表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

下手な三文芝居なんかするんじゃねーっこのカスが!

風の流れている草原。

カケルはもはやルーチンワークいってもいいくらいに

常態化したいたぶりをオス馬達から受けていた。


やられていることは前から同じであったが、

唯一違うのはカケルの心の中だった。


彼らの蛮行を束ねているのはあの優馬。


オス馬達の蹴りの嵐を受けながらも彼の顔が脳裏にちらつく。


「やめろ!」


今しがた想像していた顔を持つ本人の御出座しだった。

優馬がやってくると、オス馬達が動きを止める。


カケルと彼らのとの間に入り制止する素振りを見せる。

いつものようにつまらなそうに去っていこうとするオス馬たち、

心配そうな顔を作ってカケルを覗き込む優馬。


もうカケルが何もかも真実を知っているとも知らずに優馬は善人を演じている。

オス馬達も優馬も全ておかしくて滑稽に見えた。

笑ってしまいそうになるくらいに。


実際に乾いた笑いが漏れる。

「ははは・・・・もういいよ」

「カケル?」


つぶやくカケルに優馬が首をかしげる。

「君たちがやっていることはわかっているんだ、何もかも」

虚をつかれたような顔をする優馬に、カケルは続けた。


「優馬が、僕をいたぶるようにいつも指示していたんだろう?

もうバレているんだから助ける演技なんてしなくてもいいよ」


君を信じた僕がが馬鹿だったんだ、そう告げる。

優馬の顔からすうっーと感情の色が消えた。


無表情のままカケルを見つめた後、

「バレちまったか・・」

と面白くなさそうに顔を歪めた。


「おい、こいつもう全部わかってるみたいだぜ」

優馬がオス馬達に呼びかける。


「マジで!?なんでバレたんだろう」

「バレるような素振りを見せたつもりはなんだけどな」


戻ってきたオス馬達が首を捻っている。

「あーあ、せっかく面白かった遊びももう終わりか」


バレてしまったからか、優馬はもう完全に善人の仮面を外している。

これが優馬の本性か。


この間の森でわかっていたこととはいえ正直ショックだった。

「まあ、これからはこいつらと一緒になっていたぶるだけだけどな」

優馬は立ち上がると、カケルに蹴りを入れた。


そのケリは他のオス馬達のどのケリよりも痛いと感じた。

優馬から初めて暴行を受けたことで体だけでなく心にもダメージを負ったからだろう。


「大人しく騙されいればまだましだったかもしれないのによ、馬鹿だねこいつ」

優馬に習うように他の馬達も暴行を再開した。

意識がとびそうになる中でカケルは思った。


こんなことになるのなら、かまぼこを優馬に食べさせるべきだった。

優馬の本性を知っていたらカケルはためらいなく食べさせていただろう。


だがあの時そんなことを知らなかったのだ。

まさか、優馬が首謀者だったなんて。


思い悩みギリギリの所で決断するしかなかった。

もう何もかも手遅れだ。カケルにはもう食べてしまってかまぼこがないのだから。





小屋の近くにある小さな湖のほとりでカケルは体に負った傷を水で洗っていた。

血がにじむ箇所が痛み顔をしかめる。


太陽は西に傾き、風もなく波立たない湖面を赤く染め上げていた。

カケルは優馬達に、真実を知っていることを暴露した。


それによって優馬の態度が豹変しいたぶられることになった。

これからは、同じことが続いていくのだろう。


告発したことで、嘘であったとしても味方を失いカケルは一人孤独になってしまった。

でもこれでよかったのだ。


後悔なんてない。


偽りの善意に騙され続けてピエロのように愚かな生き方をするよりは、

一人きりになったとしてもその方がいいと思えた。


でもなぜ何故だろう。涙が溢れてくるのは。

涙腺が決壊し流れ出すともう止まらなかった。


どうして、なんでこんな事になってしまったんだろう。

どこが間違っていたんだろう。


騙されているとも知らず優馬のことを信じてしまったこと?

醜く何の魅力もないくせに、身の程をわきまえず味方を望んでしまったこと?


最初から何も望まず、一人孤独でいればよかったのにそうはしなかったこと?


それ以前に・・・


生まれてきたことが、

醜く生まれてきたことが間違っていたというのだろうか。


いや、と歯を食いしばる。それだけは認めてはいけない。


醜さを生まれてきたことを否定することは、

母親のエルマを否定することだからだ。


母は口には出さなかったが、

自分の醜さを息子であるカケルに受け継がせてしまったことに負い目、

罪の意識を持っていたと思う。


そんなことを感じる必要はないよ、醜さなんて関係なく

、僕は幸せな人生を歩んで見せる、

と胸を張って言いたかったけど現実的にはとても困難なことだった。


僕は大丈夫だよって、家を出ていく必要なんてないから、

と母親に安心してもらうことができず悔しかった。


静寂の包む夕暮れの湖の畔でカケルの嗚咽だけが続く。

カケルはこの時気づいていなかった。


湖から少し離れた場所にある木の陰で老婆が、

カケルの様子を見守っていたことに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ