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おどれっ、裏切り者やったんかいっ!

小屋で昼食をとり、しばらく一服してからカケルは森に食料を採りに来ていた。

食べられそうな木の実を見つけると採集していく。


そういえばこの森で老婆をあったのは一週間ほど前のことかと、カケルは思った。

あれから短い間にいろんなことがあったなと、感慨深くなる。


失恋、迷い、決意し、欲望による策略、失敗断念。


かまぼこをもらってからの数日間、

カケルが生きてきた中でとても中身の濃い時間だった。


感情の振り幅が大きく、翻弄された毎日だったと思う。


老婆にかまぼこを渡されたことがはじまりでありターニングポイント、

カケルに人生を転換させる選択権を与えられた出来事だったのだろう。


かまぼこを使っていれば今頃カケルの人生は

180度変わったものになっていたかもしれない。


しかしカケルはかまぼこを使わず、これまで通りの道を選んだのだ。

森の奥へ歩を進めると、老婆が座っていた切り株があった。


もちろん老婆はいない。今頃どうしているだろうか、

一週間もたっているから宿泊した村を出て旅を続けているのかもしれない。


そんなことをぼんやりと考えていた時だった。


森の奥から、声と数頭の馬の存在を感じとった。

カケルは足を止めて、後ろに下がった。大きな大木の陰に隠れる。

自分はいつもこんなことをしているなと嘆息した。


優馬がミサといた時もそうだった。

あの時は親密な雰囲気だったので仕方ないが、

森に誰かがいてもカケル以外の普通の馬だったら隠れたりしないかもしれない。


堂々と歩いて行くだろうか。

しかしカケルの場合は、もし森にいるのがいつも暴行してくるオス馬達だったら、

見つかると痛い目を見ることになる恐れがあるので、こうやって用心してしまうのだ。


自分自身にそう言い訳をしながら、カケルは木の陰から、馬たちのいる方に目をこらす。

案の定というか離れた場所にいたのは、暴力をふるうオス馬達だった。


彼らに見つかる前に隠れられたことにホッと胸を撫で下ろす。


なにやら話をしていて笑い声が時々こちらに聞こえてきた。

来た道を回れ右して引き返そうとした所で、カケルは足を止めた。


オス馬達以外にも、カケルのよく知っている声が聞こえてきたからだ。

もう一度彼らの方を見るとオス馬達でよく見えなかったが、その奥に優馬の姿があった。


どうして彼らと優馬が?素朴な疑問が浮かぶ。

優馬が普段彼らと一緒に過ごしている所を見たことはなかったからだ。


いつも優しく性格がいい優馬は、

粗野な不良といっていいオス馬達とは気が合わないから当然で、


カケルのことを助けてくれる優馬とはどちらかといえば対立する位置にいると思ったのだ。

だと言うに今彼らは楽しそうに談笑している。


「優馬、今度はどんな風にいじめてやる?」

「そうだなあ」


オス馬が優馬にたずねている。

「カケルの母親をけなしてやったし、失恋した気分も味あわせてやったしな」

カケルは耳を疑う。何の話をしているんだ?体が硬直し微動だにできなかった。


ここから見る優馬の顔はいつもの爽やかな笑顔ではなく、

意地の悪そうな歪んだ笑みだった。


一度もあんな表情は見たことはなく自分の目を疑いそうになる。

「しかしまあ、俺たちがいたぶってやった時に優馬が助けた時の、あいつの顔、いつみても

笑えるよな」


オス馬の言葉に優馬と他の馬が笑う。


「すげえ嬉しそうに笑うんだぜ、あれは完全に優馬のこと信じ切ってるよな」

「馬鹿なヤツ、全部優馬が取り仕切ってやってることだって知らずによ」


おめでたいやつだ、と爆笑の渦が起こった。

「助けてやる時、僕も笑いそうになるのをこらえて必死だったよ、ククク」

思い出したように優馬が笑っている。カケルは血の気が引いていくのを感じていた。


体中の血が全部足元に溜まって、頭にぼんやりと膜がかかったようだった。

自分は今何を見ているのだろう。


これは現実なのか、それとも夢を見ているのではないか?

あの優しかった優馬が・・。目に映るものも、聞こえてくる声も、ムワッとする森の香りも

全て生々しく、夢などではないことを突きつけられた。


優馬の言うことが本当なら、オス馬達がいたぶるようにしむけたのも、

母親をけなそうとしたのも、全て彼が仕組んだことだったのか。


さも味方であるかのように善人を装って

助けるフリをいて内心では笑っていたのか。


優馬だけはカケルを助けてくれる唯一の存在だと信じていたのに・・・。

裏切られていたなんて。


いや、最初から何もかも騙されていたのだ。

彼らの言うように疑いもなく信じたカケルが愚かなことなのか。


カケルの中で大事にしていた何かが音を立てて

壊れる音をたしかに聞いた気がした。胸の奥を鋭い痛みが襲う。


「新しいアイデアが浮かぶまではこの調子でいたぶっていこう」

優馬が笑いでまだ目に涙を浮かべたまま言う。


「味方がいなくなって孤立したら壊れちまうからな。

自殺でもされたらお前らも困るだろう」


「あんな誰からも好かれないヤツいなくなっても

誰も困らないしそれはそれでいいんじゃねえの。

遊ぶおもちゃがなくなって退屈になるだけで」


「ブサイクを見なくてすむから目が汚れなくてせいせいするかもな逆に」

優馬の問いにオス馬達がそう答えるとまた爆笑が起こった。


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