ブサイクだけじゃなくて、ヘタレやったんかいっ!
砂浜から帰宅したカケルは、机の上に置いたかまぼこを見ていた。
優馬に食べさせるはずだったかまぼこは、食べられることなく今ここにある。
目を閉じカケルはあの時のことを思い返す。
砂浜でお腹が空き帰ろうとした所でかまぼこを優馬に差し出した。
何の疑いも持たない優馬の手が伸びた時に、罪の意識が生まれたのだ。
(本当にそれでいいのか、お前は他人の容姿を奪って不幸にしてまで幸せになりたいのか、本当にそれで罪の意識もない人生を送っていけるのか?)
カケルを責め抉ろうとする声が次々に襲い、
優馬の手がかまぼこに触れる、
まさにギリギリの直前でカケルはかまぼこを砂浜の上に落としたのだった。
あっ、と優馬は驚いた顔でその様子を見ていた。
「ごめん、落としちゃったね。汚いからもう食べられないや」
と、砂を被ったかまぼこを拾い上げてカケルは苦笑いをしていた。
優馬は残念そうにしながらも
少し訝るような顔だった。
ゆっくりと目を開けてかまぼこを見つめる。
砂浜に落として砂だらけだったそれは水で洗い流してある。
一度は優馬にかまぼこを食べさせようと決意したが、
いざその場面になるとできなかった。
優馬の美貌を奪うことができたらバラ色の人生になるのかもしれない。
けれど引き換えに恩人を不幸にした罪を背負い続けて生きて行くのは、
聞こえてきた声の言うように耐えられそうにないと痛感したのだ。
「これでよかったんだ」
ぽつりとつぶやく。
カケルはかまぼこを手にとりゆっくりと口の中に入れた。
味は普通のかまぼこと変わらず美味しかった。
咀嚼しながら「これでよかったんだ」
と何度も何度も自分を納得させるように繰り返す。
自分勝手な欲望のせいで大切な存在を不幸にしてしまうくらいなら、
カケル一人が全ての不幸を背負えばいい。問題はない。
これまでの人生と一緒のことだ。誰も悲しまない。
苦しまない。
カケル以外は・・・涙腺が緩んでしまいそうになったがこらえる。
一度タガが外れると止まらないと思ったから。
かまぼこを全て食べ終えると、顔にむずむずとどこか違和感を感じた。なんだろう。
誰かにかまぼこをあげることなく、自分で食べて処分したのだから、
カケルの容貌に変化が起こるはずはないのだが・・。
不安になって家にある鏡の前に立つ。
そこにはいつもと変わらない醜いカケルの顔があった。
「気のせいか・・・」
ブサイクなままの自分の顔に一人安堵するようにそうつぶやいた。
醜い己の外見に安心するというのもどこか自虐的でおかしく苦笑いする。
カケルはこの時微妙に顔の形が変化していることに気がつくことができなかった。
それはあまりにも些細で見逃してもしかたない程度のものだったからだ。