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愛しのミサちゃん奪われちった、あんたらも失恋したんだね、わかるようんうん

かまぼこをもらったカケルは、森の方に引き返し、帰路につこうとしていた。

夕暮れ前の時間に差し掛かったからか、森の中は少しひんやりと薄暗い。


歩きながらカケルはかまぼこを見て考えていた。

さっきも思った通り、このかまぼこを使うことはないだろう。


己の欲望のために誰かを不幸にすることはカケルにはとてもできない。

せっかく老婆からもらったものだったが、おそらく処分するか、

自分で食べるかすることになるだろう。


他の食べ物と同じだといっていたから自分で食べても、

他人の容姿を奪うわけではないので問題ないだろう。


かまぼこをどうするか思案していたカケルは、森の中、歩いていく視界の先に、自分以外の馬の影があるのに気がついた。ピタリと足を止める。


まだ距離があったが、目を凝らすと馬が二人立っているのがわかった。


そこにいたのはイケメン馬の優馬と、カケルが想いを寄せるメス馬のミサだった。


カケルは反射的に木の陰に隠れてることになった。

こんな所で何をしているんだろう、と疑問に思っていると、

ミサが優馬の方に寄り添おうとしていた。


応えるようにミサの頭を優しく撫でている。

その光景を見た瞬間、カケルの胸の鼓動が高くはねた。

二人は恋人のようにぴったりとひっつき見つめ合っている。


本来は見てはいけないものなのだろうが、目を離すことができなかった。

ミサが甘えるように顔をあげると、瞳を閉じその唇に優馬が口づけした。


その瞬間カケルの中で何かが音を立てて崩れてくのをたしかに聞いた。

森の中にあった、風で葉擦れる音、鳥の鳴き声が遠ざかった。


血の気が失せ、足元がふらつきそうになったがなんとか耐えた。

音を立ててはこちらに気づかれてしまう。


口づけを交わした後、二人は笑いあい、自分たちの住む村の方に消えていった。

カケルはしばらく呆然自失として動けなかった。

気がつくと日が暮れて森の中は一層闇を濃くなっている。


優馬達がいなくなってどれくらいの時間が立ったのかわからない。帰らなければ、

と重い足を引きずるように、歩き出した。




次の日、村では優馬とミサが付き合い出し公認のカップルになったと、

他の者達に知れ渡っていた。


昼下がりの草原、木の陰で仲良さそうに寄り添い合う優馬とミサに、

オス馬や牝馬達が、ある者は羨望をある者は嫉妬の目を向けていた。


カケルもその中で優馬達を見守っていた。


ミサに想いを寄せていたオス馬はカケルの他にも数え切れないほどいたし、

優馬に恋するメス馬もたくさんいたから当然の結果なのだろう。

皆がそれぞれの恋に破れたのだ。カケルも・・・。


異性として憧れていたミサに恋人ができたのは正直ショックだったが、

優馬のことを羨ましいと思うことはあっても嫉妬を抱くことはなかった。


むしろ美男美女だから付き合って当然だよなと腑に落ちた。

ミサはあれだけ美しい容姿なのだ、自分に見合う相手を選ぶことに違和感はない。


他の馬達だってその点は納得しているだろう。仮にミサがパッとしない相手を選んだ場合、

周りは釣り合ってないと批判の声をあげるだろうし、

あり得ないが醜いカケルが相手だったら暴動が起きるかもしれない。


カケルの命が危険にさらされることになるのは容易に想像がつく。


傷ついた恋心を引きずり、心の中で優馬たちに祝福を告げ

ひっそりとその場を後にしようとした所、「おい」と声をかけられた。


振り返ると毎回カケルをいたぶっているオス馬達の面々がそこにあった。

「ブサイク、ちょっと顔かせよ」


カケルに手を出す時、彼らの顔には馬鹿にするような、嘲る笑いが浮かんでいたが、

今日は笑いの色が薄く、どこか不機嫌そうに見えた。


抵抗しようとすると取り囲まれ口を塞がれた。有無を言わさずといった感じで、

わいわいと賑わう草原からカケルが連れ去られていく。






周りを岩で囲まれ草の茂らない地面の禿げた場所に、

カケルは投げ出されるといきなり暴行をくわえられた。


抵抗しようとしたが、いつになく荒々しい蹴りがとんできて身を守ることしかできなかった。

逃げ出すこともできない。


殴る蹴るが一段落した頃、オス馬達の激しく呼吸する音を、

全身打撲で痛みに呻くカケルは聞いていた。


「カケル、お前ミサに惚れてたんだろう」

「なんで・・・」


オス馬の言葉に、動揺しなんで知っているのかと問い返そうとしたが、

口の中に血が広がり、声にならなかった。


カケルはミサのことが好きな事を誰にも話したことはない。

それ以前に、話をするような友人なんていなかったのだが。


こんな醜く魅力のないカケルと友達になろうとする者なんていなかった。

もしかしたらいたぶられているカケルを気の毒がり、

助けたいと思う者もいたかもしれないが、

下手に助けると今度は自分が標的されるかもしれないのだから、

迂闊なことはできないのはよくわかった。


唯一助けてくれる優馬は例外であり、特に親しくしてるわけではない。

だからただ一人心に想いを秘めるだけだったのに。


「ミサを見つめる姿見てたらまるわかりだ」

はん、と鼻を鳴らすとカケルの顔を踏みつけた。


そんな、ただ遠目から眺めているだけでバレていただなんてと愕然とする。

だとしたら他の馬にも、ミサにもカケルの想いが知られているのではないか、

と思い当たり急速に羞恥心が襲ってきた。


「まさかお前みたいな醜いヤツがミサと付き合えるだなんて思ってたんじゃあねえだろうな」

「そんなこと・・・思うわけないじゃないか」


自虐的だが、ミサがカケルを好きになるなんてありえない、と首を振る。

美女とブサイクの組み合わせなんて奇跡以外の何物でもない。


「いいや、こいつ絶対自分の身分わきまえてないぜ」

「頭の中でミサと交際する妄想して、もしかすれば現実でもって考えてたろう」

「こりゃ、お仕置きが必要だな」


カケルの言う事など置き去りにしてオス馬達が勝手にそう結論づけると、暴行が再開された。


「ブサイクがっ、お前なんてミサはおろか、恋人だって一生できないんだよ!!」

「好きになってくれるヤツなんて絶対いないわ、思い知りやがれっ」


蹴り倒され朦朧とする意識の中、カケルは自分の未来には、

カケルを愛してくれる人は現れない、と吐き捨てるオス馬達の言葉を聞いていた。


カケルの存在と未来を否定され悔しくなかったといえば嘘になる。

けれど彼らの言うことは真実味があり否定できない自分がいた。情けないことに。


それにしてもなぜこれほどまでにカケルのことを目の敵のようして

暴言を吐きいたぶる必要があるのだろうか、と考えて「ああ、そうか」と思い当たった。


彼らもカケルと同様、ミサのことが好きだったのだ。


どれくらいの好意をもっていたかは知らないが、

優馬に奪われてカケルにどうにもならない苛立ちをぶつけたくなるくらいには。


暴行することが許されるかはともかく。同情できる部分はあったが、

理不尽に暴力を受ける身としてはたまったものではなかった。


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