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いたぶられるブサイクに、颯爽とイケメン登場!

「おらっこのノロマのカケル!早く走れ」


太陽が照らし見渡す限り視界を遮るものがないただっ広い草原。少年馬のカケルは

同級生である数頭のオス馬達に取り囲まれ、罵声を浴びせられながら

急かすように走らされていた。


合いの手を打つように足で体を蹴られカケルは痛みに顔をしかめる。

「やめてくれよ、なんでっなんでこんなことするんだ」


息を切らしながら抗議するが、オス馬達はカケルを追うのをやめない。

「うるせぇっ、どうしようもないブサイク馬が!」

蹴りが一発とんできてカケルを捉える。


「ブサイクで足も遅い、いいとこなしのお前のためにこうして俺たちが鍛えてやってるんだろうが、感謝しろ」

オス馬の言葉に、他の馬から嘲るような笑いが起こる。


たしかにオス馬が言うようにカケルは馬として醜い容貌だった。


村の中のどの馬と比較してもカケルがブサイクであることは、水面に映る自分の顔を見た時からカケル自身客観的にわかっていた。


でも生まれた時からなのだからどうすることもできない。顔だけではなく

馬なのに走るのも苦手で誰よりも遅い。


顔も醜く、足も遅いカケルは良いところがないからか、

格好の標的としてオス馬達に馬鹿にされいじめられるのが日常だった。


「あっ・・!」

カケルは体力の限界が近づき、足がもつれた拍子に転んでしまい草の生える地面に倒れた。

オス馬達も足を止めてカケルを囲い見下ろしてくる。


「ほんとにどんくさいやつだな」

「うう・・・」


疲労感、蹴られた箇所の痛みに包まれながら、首を起こそうとすると少し離れた場所にある木の側で、数頭のメス馬達がこちらを見ているのに気づいた。


強張った表情でひそひそと話している。その中には村で一番の美貌を持つミサがいた。

人気があり彼女に恋するオス馬は多い。


カケルも密かに思いを寄せる美女馬・・。

そんなミサにカケルのこんな情けない状況を見られ羞恥心が襲い顔が熱くなる。


「おら、早く立てよブサイク」

ほうぼうからオス馬達が足で蹴ってきて、カケルは身を守るように体を縮こませた。


「こんなだから、こいつの母ちゃんもこいつを見限って出ていったのかもな」

オス馬がカケルの母のことを口にしたことで、ビクリとカケルは体を震わした。


今カケルには家に帰っても迎えてくれる家族はいない。

父親はカケルが生まれる前に亡くなったらしい。

唯一カケルは一緒に母親と暮らしていたが・・・。


ある日を境にカケルを残して家を出ていってしまったのだ。


「そりゃ、息子がブサイクで足も遅いし何をやらせてもだめ、周りからは馬鹿にされてりゃ、見捨てたくなるわな」

他のオス馬があざ笑うように鼻を鳴らす。


「でも知ってるか?こいつの母ちゃん、こいつそっくりでブサイクなんだぜ?」

「子は親に似てブサイクってか?恐るべし遺伝子、ぎゃははっは」

バカにした笑い声が降ってくる。


彼らの言うように確かにカケルの母はカケルと同様、容姿は優れている方ではなかった。

その遺伝子をカケルが受け継いだから、カケルもブサイクに生まれたのも事実。


だからといって母がバカにされてもいいのかといえば話は別だった。



自分が馬鹿にされるのはまだいい。でも母親までけなされるのは許せなかった。

頭に血が上り体の奥深くから抑えきれない衝動が生まれる。

よろけながらも立ち上がるとオス馬達に突っかかっていった。


「母さんを悪く言うなっ!」

「おっと」


カケルの体当たりをなんなくオス馬達はひらりとかわした。カケルが抵抗してくるとは思ってなかったようで、最初驚いた様子だったがオス馬達はすぐにカケルを包囲し一斉に蹴りを仕掛けてくる。全身に打撃を食らったカケルは再度草の上に倒れ伏した。


「ブサイクが、俺たちにたてつこうなんて百年早いんだよっボケ!」


止めを刺しにかかるように、オス馬達の足が降ってくる。

カケルは成すすべなく身を守るように体を丸めた。

止まない攻撃に、痛みは増し痛み以上に意識が朦朧とし始めた。


このままオス馬達に殺されるのではないか、と恐怖した時だった。


「おいっやめろ!」


オス馬達の蛮行を制するように、よく通る大きな声が草原に響き渡った。

カケルを蹴る足を止め、皆が一斉にそちらを振り返る。


薄らぐ視界の中、カケルも顔を向けると目鼻立ちの整った端正な顔の馬が一頭、こちらにやってくるところだった。


「ちっ優馬かよ」

舌打ちしオス馬達がそう呼ぶ優馬が、カケル達の前で立ち止まるとオス馬達は道を開けるように後ずさった。


「大丈夫かい」

優馬は倒れているカケルの方に跪くと、心配そうに顔を覗き込んできた。


「あーあ、なんか白けちまった。いこうぜ」

オス馬の一頭が気の抜けたように言い歩きだすと、他の連中もそれに続き

去っていった。


「優馬・・・なんで」

かすれた声でそうたずねると、優馬が視線で示すようにする。


彼の見た方に目を向けると、離れた木の側で見守っていたメス馬達から

「きゃあああ、優馬くんかっこいい!」

と黄色い声が上がっている。


「カケルが襲われてるって彼女たちが知らせてくれたんだ」

ああ、そういうことかとカケルは頷いた。


優馬は村一番の容姿を持ったオス馬だった。

同性のカケルからみても美しいとため息がでるほどの美貌を持っていて

いつも羨望の眼差しで見ている。


容姿だけではなく足も早くて、どんなことでも卒なくこなした。当然メス馬達からも

好意を寄せられモテていた。


ブサイクでこれといった取り柄のないカケルとは対極にいるような存在といっていいだろう。

優馬に手を借りてカケルはよろけながらもなんとか立ち上がる。


「優馬・・・いつもありがとう」

優馬はいつもカケルがこうやってオス馬達にからかわれ暴力を振るわれている時

やってきて助けてくれる。


カケルが持っていないものを何もかも持ち合わせている優馬を羨ましいと思うことはあっても、

妬ましく思ったことは一度もない。


むしろいつも助けてくれて感謝してもしきれないくらいだった。

「気にするなよ。当然のことしただけだからさ。」

少し困ったように、でも爽やかに笑って言う。


「一人を集団でいたぶるなんて卑怯な真似が許せなかっただけだから」

容姿端麗で何でもできるだけでなく、性格も完璧だなんて、なんていいやつなんだと

正義感溢れる優馬の言葉にカケルは熱いものがこみ上げ、目が潤んだ。

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