冒険者登録
朝日の光で目を覚ました。
上からベッドが軋む音が聞こえる。
フィネも起きているらしい。
ベッドから出ようとすると、フィネが上段から飛び降りて音もなく着地した。
朝から元気だ。
「おはよう、フィネ。」
「おはよ。起きてたんだ。」
「今起きたとこだよ。」
「ふぁぁ~ぁ」
フィネが大口を開けて身体を伸ばす。
「よっく寝たぁ!」
「みたいだな。」
「ん、イズミはよく寝れなかったの?」
「まぁまぁ寝れたよ。しかしフィネは無防備すぎやしないか?俺たち昨日会ったばかりだろ。」
フィネがストレッチを始める。日課なのだろう。
俺は毎朝、剣の稽古をしていたのだが、宿に泊まる時はできなくなるな。
街中で剣を振るわけにもいかない。
「あれは演技だよ、イズミくん。わたしが気をきかせてユリアナと二人で話せるようにしてあげたのだ。」
「えぇぇ…起きてたのかよ。」
「そのとおりさ。さらにユリアナが帰った後、わたしに変な事しようとしないかのテストも兼ねていたのだよ。」
話し方が昨日と違う気がする。
「で、テストは合格か?」
「ああ、わたしが見込んだとおりの男で安心したよ。」
「そりゃどーも。」
なかなか意地が悪いやつなのかもしれない。
昨日、ユリアナが『誰とでも仲良くしているように見えますけど、いつも一人なんです』って言っていたのを思い出す。
気さくに見えて、人を信用するのには慎重なのかもしれないな。
「朝飯はどうする?」
ストレッチを終えてジャケットを羽織るフィネに聞く。
「下で食べれるよ。パンは無料、銭貨5枚で日替わりの卵料理、銀貨1枚でベーコンとかハム付いて野菜増量だね。」
「ここって銭貨10枚で銀貨1枚?」
「うん。」
銭貨は金貨や銀貨と違って他国では使用できない銅製の硬貨だ。
金銀よりかなり価値が低い上、比較的錆びやすいので使っていると劣化するという問題があるが、小銭として発行・流通している国が多い。
そういった側面から、使う銅の量を減らすため中央に穴が開いている。
しかしそうか、銭貨があるなら革袋は全部で3つ欲しくなるな。
と、考えているうちに出発する準備が出来上がる。
「じゃー行こっか。」
「ああ。」
階下に降りると、すでに結構な数の客が朝食をとっていた。
適当なテーブルにつく。
「アタシは銀にするけど、イズミはどうする?」
「俺も銀貨1枚の方。」
これ以上財布が重くなるのはごめんだ。
「おけ、イリーネ!銀2つ!」
「はいよー!」
今返事をした女性がユリアナの姉だな。年齢的に。
「今のがユリアナのお姉ちゃん。似てないでしょ。」
にやっと笑みをこぼしながらフィネが言った。
赤みがかった栗毛はユリアナのダークブラウンと比べると随分と明るい。
身長も肩幅もあって頼りになる姐さんといった感じだ。知らなければ姉妹だなんて気づかないだろう。
「髪の色まで違うしな。」
「あー、いいよねあの色。アタシ地味だから羨ましいよ。」
そういえば話し方が戻っている。
というか、朝だけ違和感があったというのが正しいか。
もしかして起きてたってのは嘘か?
鎌をかけてみようか。
「なぁ、ところでなんで狼がいいんだ?」
昨日ユリアナが言っていた。
フィネは自分を動物に例えるなら狼だと言っていたと。
「狼…がいい?何が?」
フィネが首を傾げる。
「昨日、ユリアナが言ってたやつ。聞いてたんだろ?」
「え?……あー、あー、そのことね。」
目線が上に行く。
「そう。気になってて。熊じゃだめなのか?」
「ええとね、あ!そうだね。熊の牙より狼の牙の方が鋭いからだよ!」
ミスリード成功。昨日売却した熊の牙・爪と狼の牙・爪のイメージになったようだ。
「牙?爪じゃなくて?」
「あれ、爪だっけ。ちょっとほら、アタシベッドの上にいたから細かいとこまでは聞こえてなくて。」
「本当は寝ていたということがわかった。ユリアナと話したのは『フィネを動物に例えると何に似ているか?』だよ。」
「なっ…」
今朝『意地が悪いやつ』と思ったのは撤回しよう。
フィネは嘘が付けないタイプみたいだ。
「おはようございます!」
冒険者ギルドの窓口に立つと、ユリアナが満面の笑みで迎えてくれた。
「おはよー!」
「おはようユリアナ。おいしい朝ご飯だったよ。」
「ありがとうございます。母もよろこびます。」
朝食を作っていたのはお母さんだったのか。
「本日は冒険者登録ということでよろしいですか?」
「ああ、頼む。」
「ジョブ指南の御希望はございますか?」
「俺は不要。フィネは?」
「いらない。」
冒険者に限らず全ての人はジョブを持っている。
しかし、成長に伴って他のジョブの才能が花開くことが多いため、貴族や冒険者、専門職を志す者なんかはジョブチェンジの儀式を行う。
ジョブチェンジでは、才能のあるジョブの中から自分が好きなものを選択することができる。
その儀式の一つがジョブ指南だ。
「ではお二人ともジョブカードはお持ちですね。」
フィネと二人で頷く。
ジョブカードは、ジョブチェンジの際に作られる白いカードだ。
持ち主が『オープン』と唱えると文字が浮かび上がり、レベルやスキルが表示される。
文字は基本的には持ち主にしか見えないが、本人の意思により他人が見えるようにすることも可能だ。
「それではこちらにご記入をお願いしますね。」
茶色い紙が2枚差し出される。
魔力を感じるからなんらかの魔法がかけられている可能性があるな。
羽ペンは普通だが、インクからも魔力を感じた。
フィネは何の疑問も感じなかったようだ。すぐに書き始める。
俺も倣うことにした。
まずはジョブカードを取り出し『オープン』と唱える。
【イズミ】
武装支配者
レベル30
ステータス
筋力 300
防護 195
敏捷 220
魔力 X
天運 245
スキル
天賦の才
達人鍛冶
お、レベルが上がっている。
この間見たときは29だったので、ベーゼアルラウネの経験値は結構なものだったようだ。
ちなみに魔力のXは表示バグだ。1000を超えるとこうなるそうで、珍しいことではあるが、世の中にはそれなりに例があるらしい。
インクに羽ペンを付け、用紙に記入していく。
名 前 イズミ
ジョブ 武装支配者
レベル 30
「…あれ、これだけ?」
驚くほど書くことが少ない。
「冒険者名簿への登録に必要なのはそれだけです。確認も必要なので、ジョブカードの名前とジョブとレベルだけ見えるようにしていただけますか?」
「楽でいいじゃん。『オープン。』」
そう言ってフィネはジョブカードを差し出した。
じゃあ俺も。名前とジョブとレベルをユリアナに表示…
『オープン。』
よし、これでユリアナにも見えるようになったはず。
「あら、お二人とも上位職なんですね。素敵です。」
「そうなのか?」
フィネを見る。
「アタシは獣拳。イズミは?」
「武装支配者。」
「知らなっ!」
「俺も獣拳は初めて聞いたよ。」
ジョブは基本職と上位職に分かれる。
基本職は剣士、魔術師、鍛冶師とかで、大部分の人が生まれながらに就いているジョブ。
全部そらんじることはできないが、10種類だ。
上位職は成長に伴って才能が開花し、ジョブチェンジのときに選択肢となるもので、基本職よりも遥かに種類が多い。
例えば剣聖、大魔導、勇者とかだ。
珍しいものだとそのジョブに就いている者が少なすぎて、どんなジョブだか認知されないこともある。
俺やフィネがそうだ。
ちなみに、上位職は人口の数パーセントしかいない。が、冒険者はその7割以上が上位職だと言われる。…と、知り合いが言っていた。
「ふふ、やっぱりどちらもジョブ名鑑に載っていませんね。」
「…はい、確認できました。それでは…『ヒンリッヒタン。』」
ユリアナが何か唱えると茶色い紙が二つに分かれた。大きな紙と小さな紙片に。
やはり魔法がかかっていたようだ。
そのうちの小さい方を前に出す。
「こちらをジョブカードに重ね合わせてください。冒険者情報がジョブカードに登録されますので。」
二人で小さい紙片をジョブカードに乗せると、紙片が溶けるように消えた。
ジョブカードを見る。
【イズミ】
冒険者ランク G
武装支配者
レベル30
ステータス
筋力 300
防護 195
敏捷 220
魔力 X
天運 245
スキル
天賦の才
達人鍛冶
「おお、ランクが追加されたな。」
「Gって一番下だっけ?」
「はい。G、F、E、D、C、B、A、Sと上がって行きます。ランクは依頼達成の実績によります。達成報告の都度、今のようにジョブカードを更新する形になりますので覚えておいてください。」
「わかった。」
「依頼は壁の掲示板に張り出しますので、受注するときは依頼書を持ってきてください。なお、受注できるのは自分のランクより2つ上の依頼までです。」
ユリアナが別の茶色い紙をカウンター下から取り出した。
「冒険者名簿への登録は以上です。最初の依頼はこちらがおすすめです。ちょっと簡単すぎるんですが、みなさんにおすすめすることになっていますので。いかがですか?」
【モフワの討伐】
場所 北の街道脇の草原
内容 白モフワを討伐し、毛を回収する。
報酬 400gにつき銀貨1枚(上限なし)
「受けます。」
「うっそ。イズミ本気?」
「本気だ。簡単なものから順々にやっていこうぜ。」
「ええぇぇ…まぁいいか。昨日稼ぎまくったし。」
「ところでモフワってなんだ?」
フィネに知らないのかよという顔をされる。
代わりにユリアナが身振りを付けて説明してくれた。
「このくらいの大きさの白い毛玉みたいな魔物です。中心に核があるので破壊して、毛を回収してください。1匹に1本だけ、大人の指くらいの針を持っていて、身の危険を感じると飛ばしてきますので注意です。目的が毛なので、なるべく傷つけずに核だけを破壊すると効率が良くなりますよ。」
大きさは人の頭より2周りほど小さいくらいか。
指くらいの針は刺さり所が悪ければ大怪我になるな。
「ステイナドラーじゃ有名な雑魚魔物だよ。ちなみにこの服はモフワ製。」
「服の材料になるのか。」
「そそ。じゃあユリアナ、いってくるね。」
「いってらっしゃい。」
初依頼。今日が冒険者生活の一歩目になる。
よし、簡単でも油断せず、確実に達成しよう。
俺の夢のはじまりだ。




