クロス・クロイツ③
我が名はクロス・クロイツ。
黒の宿命を持つ者だ。
地球からこの世界に転生して冒険者として活動している。
ジョブはこの世界でも珍しいマジックガンナーで、【魔弾の射手】という魔力弾を放つスキルを有している。
魔弾は扱いが難しい。指先で特定の図形や文字を中空に描くと、魔力の弾丸を放つことができるのだが、図形の組合せで効果がまったく異なってくる。
さらにサブスキルで魔弾に属性と物性を付与することも可能だ。
始めは扱いに戸惑ったものだ。
しかし我は数に愛されていた。そして図形への理解は誰よりも深い。
すぐにスキルの扱いに慣れ、自在に図形を描いて様々な魔弾を使いこなしていった。
「………ツ。」
さらに我は日本出身ゆえ、魔弾の射手として最強便利な記号を持っていた。
――漢字だ。
本来、属性付与は各属性を表す紋章のような図形を魔方陣内に描きこむ必要がある。
だが、偶然出会った我とは別のマジックガンナーから、複雑な属性図形を使わずとも、図形内に文字を加えることで属性や特殊効果を加えられることを教わった。
これにピンと来て漢字を使ったところ、属性図形として機能したのだ。
例えば火の属性を魔弾に与える場合だ。この世界の文字では火を表すのに5文字を要する。
あの紋章のような図形を描くよりは遥かに簡単だが、5文字は結構な幅を取る。
しかし漢字ならたった一文字だ。
この差はかなり大きい。
「…ロイツ。」
仮に『岩の刃』を放つとすると、この世界では11文字もの書き込みが必要だ。この文字数を図形内に納めるのは難しいし、書くのに時間もかかる。それを漢字に置きかえれば、『石刃』の二文字で済む。
漢字の活用により自由度を増した魔弾は、どんな魔術師よりも速く強い攻撃ができた。
速さがあれば魔法職のように守ってもらう必要もなく、ソロで思うように活動ができる。
マジックガンナーは稀少なジョブだが、その中でも抜きんでた存在となることがきた。
だから我は誰よりも早くランクAまで登り詰めることができたのだ。
「クロイツ!!」
「っ!?」
ハッとする。
そうだここは戦場だった。
ギルドの依頼で、湖にいくつかある島の中で一番大きなマイノ島に上陸し、調査箇所である花畑に入ったところ、尾に花が咲いている蛇の魔物、ブルージャネークに囲まれたのだ。
ギルドの予想どおり異常事態だが、まさか花が全部魔物だとまでは考えなかった。
完全に包囲されている。まだ襲い掛かっては来ないが、シャーシャーと威嚇音を上げながら徐々に囲いを狭めてきている。かなりまずい状態だ。
「しっかりしろ! ぼーっとしてたら死ぬぞ!」
「すまん、もう大丈夫だ。」
妙な白昼夢を見ていた。
…いや、走馬灯に近いものか。
しかしここで死ぬ気は毛頭ない。
「我が蹴散らす。取りこぼしは頼むぞ。」
「おう!」
仲間から威勢の良い返事が上がる。
普段はパーティなど組まないが、こいつらは例外だ。
前衛職の3人組。
緊急時に何度か共に戦ったことがあり、気付けば連携も取れるようになっていた。
だからこういう特殊な依頼のときは組んで動くことがよくある。
「クロイツが焼き払う! オレたちは死に損ないを潰すぞ!」
「おおお!」
そして我を守るように立ち位置を定めた。
焼くなんて一言も言っていないのに我が何をするか伝わっている。
優秀なやつらだ。
円と線を組合せて魔弾を全方位に撃ち出す陣を描く。そして書き込む文字は火、千、打上。
千発の火球を頭上に打ち上げて周囲に降らせる陣だ。
高速発動と範囲制圧を極めた我が必殺の魔弾――火雨。
――ゴォォォ…
雨のように降り注ぐ炎が地を埋めて火の海を作った。
魔物たちが呻き声すら上げずに燃えていく。
「ゾイド! ベントス! 飛び出してくるぞ!」
仲間の一人、リッケルが大声を上げた。
刹那、燃える蛇の中から数匹…いや十数匹の別の蛇が飛び出した。
跳んだ方向はバラバラ。俺たちを狙ってではなく、ただ熱さから逃げたいだけのようだ。
リッケルたちが各々の武器で魔物に止めを刺していく。
その間に我は魔力の回復だ。
マジックポーションを取り出して一気にあおる。
今消費した魔力とほぼ同等の魔力が湧き出るのを感じた。
「おいおい全滅かよぉ。」
背後から声。
バッと振り向くと、燃える蛇たちを踏みつけて立っている者がいた。
「いつからそこに?」
心臓の鼓動が激しくなっていく。
我はそれを止めるように胸を押さえ、声を絞り出した。
浅黒い肌に凛々しい顔立ち、長い黒髪、ゆったりした服、革のサンダル。
男のようでも女のようでもある。
彼か、彼女かは女のような高い声で応えた。
「今さっきだよ。」
「そのサンダルで火の海を渡ってきたのか? 熱かっただろう。」
「大したこたねぇよ。暑いのには慣れてる。」
さっき声を聞くまではまるで気配を感じなかった。
何者だろうか。
待てよ…!?
そうだこいつは、さっき確かに「全滅かよ」と言った。
魔物側の発言だ。だったら敵である可能性が高い。
肌の色から魔族だと判断できる。が、魔族にとっても魔物は敵のはずだ。
同じ『魔』の字が付いているが意味合いは異なる。
魔族も獣人と同様に人間側の存在だと思っていたが…。
「何しにここへ?」
「いやいやいやいや、そりゃあこっちの台詞だぜぇぇ。せっかく人気のないとこ選んだのによ。そっちこそ何しにこんな」
「おいクロイツ、そいつぁ一体誰だ?」
「わから…」
――パァン!
俺の隣に着たゾイドからの問いに答えきる前にその体が飛んでいった。
短い滞空時間を経て、少し遠くの地面に落ち、ドサッと転がった。
「話を遮るんじゃねーよ。しつけがなってねーな、人間。」
すぐ目の前に魔族がいた。
一瞬で距離を詰められたらしいが、動きがまったく見えなかった。
ゾイドを殴ったのか蹴ったのかすらもわからない。
早鐘のように鳴らす心臓とは対照的に、背筋が凍りついたように冷えた。




