語らい③
『かんぱーい!!』
――カーン!
フィネ、ユリアナ、俺のカップがぶつかり合う。
今日の一杯目はエールだ。
蓋のない樽のような見た目のカップを鷲掴みにしてあおる。
「くっはー! 染みるわ。体に。染み渡る。」
フィネがひときわ美味そうに飲む。
「お酒飲むの、この間フィネちゃんと飲んで以来です。」
「ギルドで送別会とかなかったのか?」
「なかったですねぇ。休日合わせて同僚とお昼ご飯行ったくらいで。」
「くひひ、ユリアナがいなくなるって聞いたら冒険者の男どもは泣いてたっしょ。」
「泣くほどでは…泣いてた方もいましたけど、そこまで惜しまれてませんよ。」
いたのか、泣いたやつ。
「確かにオーベルンの冒険者からしたら損失だな。俺らとしゃ嬉しい限りだが。」
「あら、うふふ。」
ユリアナが笑う脇でフィネが全員分のおかわりを頼んだ。
フィネのカップはもう空っぽだ。
「何年かこっちに勤務するのか?」
「とりあえず1年です。私の仕事ぶりが悪くなければ1年ずつ延長ですね。支部長…じゃなくて今はロトバイルの副部長になったゲオルグさんに呼び戻されれば今度はロトバイルに異動になります。」
「ヒゲ?」
「ええ、息のかかった人を派遣しておくと何かと便利なのよねきっと。」
「ユリアナを利用するなんて気に食わねーな。」
フィネが目を座らせて言う。
反面、ユリアナはにっこりとして
「んーん、利用してるのはお互い様よ。お給金は増えたし、一人暮らしもしてみたかったし、何よりこうして2人に会えたしね。」
と言った。
利用か。
「ちょっと意外だな。ユリアナがそういうことを言うとは思わなかった。」
「あらぁ、そうですか?」
「イズミ知らなかったのかよ。ユリアナは元からこうだぜ。だからアタシと気が合うんだし。」
「なるほど、それは合点がいくな。」
「それはアタシに喧嘩売ってるの?」
「いやいや、そういうわけじゃなくてな。」
「まーいーけど。でもイズミ、ユリアナと付き合うなら尻に敷かれる覚悟が必要だってわかったでしょ?」
「ちょっ! フィネちゃん何言ってるの!?」
ユリアナが身を乗り出して言った。
ただの冗談だろうに。
「そ、そんなことより、二人ともこの町でも目標は何かあるんですか?」
「目標か…。オーベルンで依頼受けられなくなるから移動しただけだしな…」
特に目的があってこの町に来たわけでもない。
友達を一人くらい増やしたいところではあるが、それは運と巡り合わせによることだし。
「当面はランクアップかな。」
「それは急務ですね。二人の実力から言って、Fは低すぎますから。」
「実際さ、イズミみたいな大型のレッサードラゴンを一人で倒せるのってどのくらいのランクにいるの?」
「Aですね。現実的にはBからCランクパーティが挑むと思いますけど、単独討伐となるとA以上の人になると思います。」
「クロクロもやれんのかな?」
フィネが俺を見る。
「やれるんじゃないか?なんとなく攻撃特化っぽいし。」
「あー。」
「Aランクの方なんですか?」
「うん。新しい友達で変な話し方するやつなんだ。」
「今日はギルドからの依頼で湖の調査に行ったみたいだよ。」
ユリアナが一瞬、目を上に向ける。
「なんか聞いたような。詳しくは知りませんけど、季節外れのお花が咲いてるとか。」
「花?」
「ええ、遠目に見ても色がわかるくらいたくさん咲いてるって。そんな季節じゃないので、異常事態かも? って同僚たちが話してました。」
「咲いてたね。青と紫の花。イズミ気付かなかった?」
「…?」
湖って言うと古城に行ったときか?
全然覚えがないが。
「ほら、さっき丘からホルン見たとき、左の方にあった島、青かったじゃん。」
「今日の話か! …ん、そんなこと言ってたっけ?」
「言ってないけど。そんな気にしなかったし。」
「そうかよ。」
軽く笑って話が終わる。
「そういえば、ユリアナは見たか、ホルンってでかい生き物。」
「まだですね。ステイナドラーと言えばホルンですし、一度見てみたいですねぇ。」
有名なのか。
いや、そりゃそうか。
あんな目立つ生き物、ほかの町でも話題にはなるだろう。
「ほかにも観光地たくさんありますし、こっちにいる間は退屈しなさそうです。ふふ。」
「休み決まったら言ってよ。一緒に遊ぼうぜ。」
「ええ、よろしくね、フィネちゃん。」
「とりあえず今日は塔行こう、塔。あの一番高いの。」
「塔のことですか?」
ユリアナがこちらを見る。
「ああ、一番上まで行きたいんだと。」
「あら、行けるといいわね。」
ユリアナがにっこりと笑ってフィネに言った。
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塔の裏にまで来ると人通りはなかった。
頭の中で飛翔風の発動準備をする。
「こんなところで何かあるんですか?」
ほろ酔いのユリアナが言う。
「いーからいーから。」
「塔に上るんだよ。」
フィネが適当に返すので代わりに答える。
そうだ、いきなり飛ぶと舌を噛むかもしれないな。
「ユリアナ、口閉じて。」
「ほぇ。」
「いいから。」
軽く口に触れるとキュッと唇が締まった。
「飛翔風。」
強烈な風とともに体が浮き上がる。
3人分の風結界の制御となると大変だが、上に真っ直ぐ低速で飛ぶだけならそこまで面倒もない。
10数秒で塔の上部に届いた。
尖塔がないのは下から見てもわかっていたが、ちゃんと屋上があるようだ。
風向きを変えて屋上に降り立つ。
「よっと。」
ユリアナを抱き留めて下ろす。
なんなく着地したフィネは屋上に端に駆け寄って景色を見始める。
「さすがに高いな。街を一望どころか、湖の向こう岸の街まで見えるじゃないか。」
「……。」
隣のユリアナから返事がない。と思ったら変なポーズで固まっていた。
「どうした?」
顔の前で手を振ってみる。
「へぁ…どうした? じゃないですよ!」
「ん?」
「なんですかさっきの!」
「ああ、魔法だよ。飛ぶ魔法。」
「それもですけど! その…口を…それにお姫様抱っこって!」
「ああ、すまん。うまく着地できないかもと思って。子供扱いしたとかじゃあないんだけど。」
「…そういうことじゃないんですけど。」
ユリアナが口を尖らせて小さく言った。
それなら何に怒ったのだろうか。
「ねぇイズミ。」
「うぉっ!」
いつのまにか近くにフィネがいた。
「アタシ湖の方は見終わったからさ、二人でロマンチックに見なよ。アタシは残り3方角じっくり制覇するから。」
そう言って別の端に駆けて行った。




