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買い物②

「刀剣美術館に行かれてきたところですかな?」


 初老の店員が言った。


「そうだ。」

「冒険者様には当店の方が面白ぅございましょう?」


 上品な笑みを崩さずに言う。

 まぁ、正直そのとおりだ。武器は使ってこそだと思う。

 装飾や意匠に凝っているという点ではこの店の品物も刀剣美術館のものも同じではあるが、実際に使う物であるかという点でまったく異なる。そういう意味で、この店の武器を見る方がよっぽど面白い。


「そうだな。ちょっと高そうだけど。」

「ふぁはは、品物の質を考えていただければ適正か、少し安いくらいのものですぞ?」


 楽しそうに笑う。

 含みも何もないというようなあっけらかんとした笑い方だ。


「お客様は普段何をお使いで?」

「俺は剣だな。こっちは…」


 鎖鉄球(ベルクス)、って言って伝わるのだろうか。

 フィネも同じことを思ったのか、ズボンのサイドポケットから取り出して見せる。


「これ。」

「なるほどベルクスですか。珍しいものをお使いで。」

「へぇ、知ってるんだ?」

「えぇ、これでも武器商ですから、古今東西の武具に精通していなくては。」


 店員が前屈みになってフィネの手のベルクスをまじまじと見る。


「…などと(さか)しら顔で言いましたが、この辺ではたまに使い手がいらっしゃるんですよ。ベスチェは湖を挟んで隣国ですから。さぁこちらへどうぞ。」

「ベスチェ?」


 そういやフィネはベスチェ出身だったな。


「ええ、ベスチェにはベルクス使いの方が多いんですよ。ほら、獣人は身体能力が高いでしょう? 力が強くて、しかも手先が器用なんです。金属の鎖なんで相当重いと思うんですがね、鞭のように使ってますよ。まぁそういう方がお使いのものは鎖の部分にも突起を付けて刺々(とげとげ)しい外見になるので、あまり見目よろしくないということで当店では扱っておりませんが。」


 歩きながら話す店員に従い奥へ進むと、ベルクスが2組置いてあった。

 フィネが今使っているものは鍛冶師に即興で作らせたと言っていたが、ちゃんと商品としても売ってるもんなんだな。


「すご、売ってんだ。」

「みたいだな。」

「特注して用意しています。貴族のご子息しか購入されませんがね。ふぁはは。」


 店員の言葉を流して品物を見る。

 一組は金色の鎖に洒落(しゃれ)た紋様の(おもり)が付けられている派手なものだ。これも他のものと同様に実用品だとすると、まさか純金ってことはないだろう。黄銅(しんちゅう)製か、表面だけ色付けされているってとこだ。

 もう一組は磨かれた銀色の鎖の先に真っ黒な角分銅だ。金色の鎖よりもかなり長い。分銅の隣には鎌も置かれている。鎖にはつながっていないが、根本に環が付いているから分銅と交換できるのだろう。

 どちらも作り手の(こだわ)りが感じられる。


「持ってみてもいい?」

「えぇどうぞ。」


 フィネがそれぞれのベルクスを持って重さや感触を確かめ始める。

 今使っているベルクスは代用品のようなものだし、鎖に錆びも出始めているから買い換え時なのかもしれない。

 ここで買うのはいささか高価すぎる気もするが。


「イズミ、これ作れる?」

「それはここで話していいのか?」


 ちらっと店員を見るが表情は変わっていない。

 金色の鎖を受け取って自分でも確かめると、思ったより細かく作り込まれていることがわかった。鎖にまで丁寧に紋様が刻んである。

 そして思ったとおり純金ではないようだ。軽すぎる。


「お客様は鍛冶仕事もなさるんですか?」


 店員が聞いてくる。


「まぁな。しかしこいつは無理だ。似たようなもんならできるけど…こんな細かい作り込みは実物を見ながらじゃないと。」

「じゃあ買うか。」

「そうだな、買うしか…って買うのか!?」

「うん。おいちゃん、これいくら?」

「店頭価格では金貨60枚です。」

「うはー! やっぱ高いね。」

「もちろん、お値引きはいたしますが……もしお時間がございましたら、こちらの店頭用のものではなく新品を作製いたします。無料で錆止めを施すこともできますが、お色が少々くすんでしまうのが難点で、いかがいたしますか?」

「やってちょーだい。何日くらいかかりそう?」

「3日ほどございますれば。」

「すぐじゃん。あと鎖の長さ倍にしてよ。」

「かしこまりました。(おもり)の大きさも変更可能ですが。」

「それはそのままで。」

「はい。それではお値段の方ですが、金貨40枚でいかがでしょう。」


 3分の2!?

 一気に値段を下げてきたな。


「いきなり下げたね。不信なくらい。それだと仕入値(しいれね)切らない?」

「ふぁっははは! ご心配ありがとうございます。しかしその指輪をお持ちの方に商売っ気を出すことはできませんので。」

「へぇ、この指輪ってそんなにすごいんだ?」

「おや…?」


 店員が(あご)に手を当てる。


「試されたのかと思いましたが、ご存知(ぞんじ)なかったので?」

「うん、割引に期待はしてたけどそんなにだとは思わなかったし。ね、イズミ。」

「そうだな。セルテンもそれ以上のことは言ってなかったしなぁ。」

「いえいえ、セルテン様の知人というだけですごいことなのですよ。とりわけこの町では。」

「そうなのか?」

「商人の頂点におられる方ですから。」


 セルテンってそんなすごかったのか。


「しかしそうですな、ご存知なかったのなら、知らない顔して金貨45枚に訂正させていただけませんか? 実は本当に仕入値を申し上げてしまって。」


 ふぁははと笑う店員。

 毒気がないからつられて笑ってしまいそうになる。


「いーよ。その代わりおまけ付けてよ。良い情報、なんかない?」

「おまけが情報とは、なかなか妙のある聞き方をなさいますな。ふむ…」


 しばし考え込む。

 ただ考える振りをしているだけなのかもしれないが。


「考えといてよ。今は手持ちないから、金貨は受け取りの時にしか渡せないしさ。前金て要る?」

「いえ、前金は不要ですが…承知しました。きっとご満足いただける情報をご準備しましょう。」

「よろしくね。イズミ、他にも見たいものある?」

「ぐるっと一周したいな。種類問わず見るだけで面白そうだし。」

「オッケー。」


 そのまま一通り武器を見て回り、店をあとにした。


 次はホルン見物だ。

 流石に近くまで飛んで行くのはまずいだろうから、港の端にある展望台に移動した。

 ほどほどに観光客もいるようだ。

 空いている隙間に二人で並んで立ち、手すりに体重を預けてホルンを眺めた。

 ほとんど動きはないが、ゆーったりと、生き物だとわかるくらいには動いているようだ。


「あれって何食べて生きてんのかな?」

「さぁ……? 少なくとも魚じゃなさそうだな。」

「だね。」


 会話が弾まないが、案外と落ち着いた気分だ。

 無理して話さなきゃならないってわけでもないし、フィネも同じことを感じているだろう。

 それに、たまにはこんな風にゆっくりと時間が流れるときがあってもいいよな。



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