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本部長秘書からの依頼⑧

『ユリアナ!?』


 フィネと声が重なった。

 そう、そこにはユリアナが立っていた。

 照れ臭そうな笑顔でティーカップを置いてくれる。


「なんでここに!?」

「うふふ、人事交流で配属換えになったんです。」

「いつからいるんだ?」

「昨日です。アメリーさん…本部長さんの秘書さんから開口一番にイズミ・アドルフィンコンビを知ってるかって聞かれまして、友達ですよーって言ったら今日は来客対応メインのお仕事になりました。」


 そう言って苦笑する。いつものユリアナだ。

 しかしアメリーも(したた)かだな。

 ユリアナに頼まれれば俺たちも無碍(むげ)にはできない。

 それを狙っているのだとすれば、アメリーの話にはもっと警戒しなければならない。


「秘書さんはしばらく来ないので私とお話しませんか? 私たちに気を使って時間ずらして来るみたいです。」

「そりゃもちろん構わないが…」


 フィネを見る。


「アタシもオッケー。てかユリアナどこ泊まってるの?」

「この建物に寮があるのでそこに。門限がないので街に飲みに出ることもできますよ。」

「じゃー行こうぜ。今日。」

「えらく急だな。」

「別にいいでしょ? 今日はぐうたらする日だし。」

「もちろん異論はない。」

「決まり。ユリアナ、この街にエルって子がいてね、案内役頼んでるんだけどさ、その子から良さげな店結構聞いてるんだ。何食べたい?」

「そうですねぇ…カルスルエと言えばやっぱりお魚ですね。」

「じゃあデル・ヤーンだね。こっからだとちょい歩くけど。」


 聞いたことのない店だ。

 いつのまにエルから聞いていたのだろう。


「待ち合わせはどこがいいですか?」

「またギルド来るよ。日没頃には終われる?」

「夕方の鐘が鳴れば帰れるそうです。それ以降は夜勤の人が対応だそうで。」

「わかった。」


 職員数が多いから夜勤と分けられるわけか。

 オーベルンよりは働きやすそうだ。

 あくまで勤務時間だけの話だが。


「それじゃあ改めて、アドルフィンさん、イズミさん。お二人が達成した依頼のお話を聞かせてくれませんか? みなさん絶賛してましたよ?」

「絶賛? なんでだ?」

「放置依頼を解決してくれるからですね。解放者って呼ばれてるみたいです。」

「それはなんか嫌だな。」

「アタシも嫌。」


 俺たちとしては楽そうなやつを選んでたつもりなんだが…そんなことになっているのか。

 それからしばし、なんとか博士のキメラとかガルガンガニの話をしていると、部屋の奥側の扉からノックが鳴った。

 本部長秘書(アメリー)だろう。

 ユリアナがサッと立ち上がった。


「失礼します。」


 ゴージャスなブロンドの髪はユリアナと並んでも引けていない。

 以前会ったときと同じ笑みを浮かべて優雅に一礼すると、ユリアナに手で合図をする。

 ユリアナが目礼して部屋を出ていった。


「彼女とは友人だそうで、驚きました。」

「それは俺もだ。だが世間話をしている余裕はないぞ。」

「あら、お急ぎのご用が?」


 用事なんてないし、クロイツの会議が終わらんと結局ギルド内で待つことにはなるんだが、それでもこの場は早く切り上げたいところだ。

 ユリアナを退席させたとはいえ、依然警戒は必要だろう。

 それに…フィネが不機嫌になるしな。


「まぁな。」

「それは残念です。では早速本題に。このたびは奴隷狩り捕獲にご協力いただきましてありがとうございました。」

「そのつもりはなかったよ。」

「だとしても助かりました。実行犯を押さえたのでしばらくは大丈夫でしょうし、もしかしたら元締めまで辿れるかもしれません。」


 実行犯、か。つまり俺たちが捕まえたのは下っ端で、元締めが別にいるってわけだな。

 うん、まぁそりゃあそうか。

 たかだか数人で、(さら)うところから運んで売り捌くまでの全行程をこなせるはずもない。


「それで、依頼を受けてなくても報酬が出るってのか?」

「ええ、実績もお付けします。こちらを。」


 アメリーが紙片をテーブルに置いた。

 『実績』だ。用意がいい。


「どうも。」


 手に取ると紙片は4枚あった。

 2枚は無地で、いつもの実績だ。

 もう2枚には…『英雄実績2』とかかれている。

 1枚ずつフィネに渡しながら聞く。


「英雄?」

「はい。冒険者ランクAからSになるときに必要なものです。Aかつ英雄実績が10を超えている方が、ギルドで審査の上でSランクに昇格となります。今からご自身のギルドカードに登録しておけば、Aランクになったときに表示されるようになりますわ。」

「へぇ…」

「Sランクになれば大きな信用と便宜を得られます。ですので今回の報酬の部分はそちらですね。」


 (かね)よりも貴重なものってことか。

 もらっておいて損はないだろう。


「いただくよ。それじゃあ。」


 席を立つ。

 俺たちの目的は達した。

 次の話が始まる前に動かないと。


「ありがとうございました。」


 背中に声をかけられたので手を挙げて応える。

 呼び止められるかと思ったのだがあっさりしてるな。

 フィネは終始無言だったが、部屋を出るなり言った。


「上出来。」

「そりゃどーも。」

「おっ、クロクロがいるね。向こうのはじっこ。」


 目を凝らしてみるが、まったく判別できない。


「相変わらずよく見えるな。」

「まーね。行こ。」

「おう。」


 フィネに合わせて歩いて窓口の前を素通りし、クロイツのところまで行く。

 途中から俺にもわかるようにはなったが、改めて考えても向こう側からは絶対に見えないし、どれがクロイツかの判断もできなかっただろう。

 クロイツも俺たちに気付いたようなので、ひとまず手だけで挨拶する。

 するとクロイツもこちらに向かって歩き始めた。


「やっほー、クロクロ。」

「…うむ。これを。」


 まだクロクロという呼び方に慣れてない様子だが、それは口に出さずに手を出した。

 フィネが受けとる。

 風石だろう。


「え、2つも!?」

「ああ、これで貸し借りなしだ、と言いたいところだが…まだ不足だろうな。何かあったら手助けしてやろう。我のできる範囲に限るが。」

「へー! クロクロめっちゃいい奴じゃん。」


 フィネがクロイツの腕をぱたぱたと叩きながら言う。

 それにも少し照れたように一歩(あと)ずさった。

 そういえばクロイツは先に来ていたが、アメリーとはもう話したのだろうか。


「そっちも奴隷狩り捕獲の報酬をもらったのか?」

「英雄実績なら頂戴した。得難いものだしな。」


 やはり英雄実績は貴重なものらしい。


「そっちも、ってことはアメリー殿とは話したのだな。湖の調査も受けたのか?」

「…いや、その話は聞いていないな。」


 聞いていたとしても受けてはいないと思う。


「そうか……今回は状態異常対策しっかりするから、お互い受けたんなら同行でもいいかと思ったんだが。」

「悪いな。」

「構わないさ。だがほかのメンバーはもう湖に向かっていて、我も合流しなければならないからもう行かせていただく。」

「ああ、気を付けてな。」

「お互い様だ。それじゃあな。」

「じゃーな!」


 フィネが元気よく言った。


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