本部長秘書からの依頼⑦
「じゃあね、エル。ちゃんと休んでね?」
「体の調子がちょっとでもおかしいと思ったら言ってくれよ。」
街に戻ってまずはエルを孤児院に送り届けた。
シスターにもさっき顛末を伝えたところだ。
「はい。わざわざ院までありがとうございます。次回はまた3日後でよろしいですか?」
「エルの調子が良かったらね。体調変だったら無理しないでよ?」
「わかりました。お二人はいつもお優しいですね。」
「…普通だよ。」
言って孤児院をあとにする。
エルは目鼻立ちが整っているからか、笑顔を向けられると少々照れるな。
「もういいのか?」
外で待っていたクロイツが言った。
「別に別れを告げたってわけじゃないからな。」
「それじゃあ衛兵詰所に行くとするか。」
「ああ。」
「ねー、クロクロ。」
フィネが言った。
フレンドリーだ。
そういえばクロイツに対しては素っ気ない態度を取っていなかったことに気づく。
「…それは我のことか?」
「そう我のことよ。詰所前で次元袋からあいつら出すからさ、衛兵に説明すんの任せていい? アタシもう帰りたい。」
「構わないが、どうせあとで呼び出されるぞ、事情聴取だって言って。あいつらギルド経由するからな、事情聴取終わるまで依頼受けられなくなるし、今話してった方が楽なんじゃないか?」
「んげ」
フィネが舌を出して嫌そうにする。
「じゃーイズミよろしく。」
「はいはい…」
そして詰所で番兵に声を掛け、出てきた班長格の人に人攫いを引き渡した。
そのまま事情聴取になったが、内容は簡単なものだった。
一通り説明したら終わり。
なぜあんな人気のない場所に行ったのかなんて質問を警戒していたが、そういうのも特になく済んだ。
詰所を出ると、クロイツはギルドに生存報告してから風石を買いに行くと言っていた。
明日渡すからギルドで会おうとのことだ。
縛られて身動きが取れなかったせいで体がバッキバキだろうに、律儀なやつだ。
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次の日はゆっくり起きて宿を出た。
フィネと今日は街でゆっくりしようと話したが、クロイツがギルドで会おうと言っていたのがあるのでまずギルドに向かう。
「クロイツには親しげだよな? 」
「うん? だって面白そうじゃん。変な話し方してるし。直感だけど悪人じゃない感じしたしね。にしし。」
「逆に俺は警戒したが、確かに悪いやつじゃあなさそうだ。Aランクだから実力もあるんだろうし。」
「見えない矢かなんか飛ばしてたよね。」
「風魔法みたいだったな。」
「うん。」
フィネと話ながらゆっくり歩く。
さすがにもう宿からギルドの道には慣れ、考えなくても着けるくらいになっている。
大通り沿いには色々な店が並んでいるが、セルテン商会の旗もちょこちょこと見られた。
そういえばセルテン商会の店で買い物をしていなかったな。
せっかく指輪をもらったし、今日は買い物をしてもいいかもしれない。
「でもさ、下手すると死ぬような展開だったのにイズミ全然気にしてないよね。」
「結果的になんとかなったしな。」
「アタシとおんなじタイプかよ。」
でも考えてみれば…
「…フィネのおかげで命拾いしたわけだ。ありがとうな。」
「お、おう。いいってことよ。」
ちなみにハルミゥクとフレィアは無事だった。
宿で『イイズナ』と『ナナホシ』を取り出すと普通に出てきて、ちょっと怒られたあと、彼女たちが宿っている武器から一定距離離れると強制的に武器に戻ってしまうと教えてくれた。
それは俺が武具収納で武器をしまっていても関係ないらしい。
「昼は水百合亭いこーよ。」
「エルに最初に連れてってもらったあそこか。」
「今日は魚にしてみたいと思って。」
「俺はメニュー見てからって感じかな。」
そうこう話しているうちにギルドに着いた。
中に入って周りを見渡すが、クロイツは見当たらない。
「いないよな?」
「いないね。」
「どうする? 待つか?」
「待つかぁ。」
近くのハイテーブルに肘をかける。
ほかの町のギルドならもう人の動きはほとんどなくなるような時間にも関わらず人が多く出入りしていた。
明らかに冒険者じゃない服装の者は依頼を出しに来ているのだろう。
「あの、イズミ様とアドルフィン様ですね…?」
「うん?」
声を掛けられた。
見るとギルドの職員のようだ。
初めて見る人だな。
「そーだけど?」
「クロス・クロイツ様とお待ち合わせですよね。」
「…ああ、そうだ。」
クロイツから伝言でも頼まれているのか?
それとも…
「クロス・クロイツ様は今2階でブラッドリーレインコートの皆様と協議中です。」
「ブラッ…なんだって?」
「ブラッドリーレインコート、Bランクの冒険者チームです。」
「つまりはしばらく下りて来ないって話か?」
「はい、加えて、昨日のことで本部長秘書がお話ししたいと。」
「それはパス。」
フィネが即答する。
「報酬をお支払いします。」
「…?」
なんの報酬だ?
「あの女に会うだけで報酬? 言ってる意味がよくわかんないってか怪しすぎるんだけど。」
「いえいえ、昨日の奴隷狩り捕獲の報酬です。特別依頼を請けられていたんですよね?」
…奴隷狩り。
そういえばそんな話をしていた。フィネが不機嫌すぎて内容まで聞かなかったが、そうか、あの人攫いは奴隷狩りで、偶然俺たちが捕まえたってことか。
「依頼を受けたわけじゃないんだがな。」
「そうなんですか? てっきりそうなのかと。」
「いや違う。そもそも話を聞いていないんだ。」
「そうですか。しかし報酬は出ると思いますので、本部長秘書にお会いいただけませんか?」
「それなら窓口でよくない?」
「申し訳ございませんが、彼女の直轄案件ですので。」
「………」
俺もフィネも黙る。
正直俺はどっちでもいいのだが、フィネが嫌そうだ。
目で「どうする?」と聞いてみると、フィネが口を開いた
「もらうものをもらうだけ。追加の依頼なんて絶対受けないからね。」
「申し伝えます。それではこちらへ。」
職員のあとに付いて行く。
着いたところはこの間と同じ部屋だった。
「イズミ、わかってるよね。何も受けないし話も聞かないからね。」
「了解。」
そんなに嫌うこともないとは思うのだが…と口に出したりはできないが。
――コンコン
俺たちが入ってきたドアからノックが聞こえた。
「お茶をお持ちしました。」
女性が扉を開けながら言った。
座ったまま首を向ける。
ダークブラウンの巻き髪の女性だ。
懐かしさを感じるような仕草で扉を閉め、振り向いてこちらを見る。
『…ユリアナ!?』
フィネと声が重なった。




