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アザールの墓⑤

 ちょっとすると男が戻ってきた。

 逃げたわけではなかったらしい。


 見捨ててごめん、と泣きながらエルを抱き締めるフィネと、何が起きたかわからないままでいるエルを背にして男に対峙する。

 エルと共に縛られてはいたが、こいつが敵ではないとは言いきれないのだから。


「すまない。助かった。」


 男が言う。


「…ああ、事のついでだ。そう気にしないでくれ。」

「そういうわけにもいかん。礼はさせてくれ。だがそれは一度置いておいて、状況を整理したい。ここはどこだ?」

「アザールの墓、でわかるか?」

「ああ、我は森の前で意識を失ったからな。ふむ、人が寄り付かんから格好の隠し場所になるってわけか。」


 隠す、というのは(さら)った人をという意味だろう。

 この口ぶりならエルと同じ被害者と思っていいのかもしれない。


「エルを(さら)ったやつらはどうしたんだ?」


 おや、エルの名を聞いていたのか。

 口は拘束されていなかったから会話はできたのだろう。


 この小屋は壁で2部屋に区切っただけの簡単な造りだった。

 そして入ってすぐの部屋には誰もいなかったから、小屋内にはエルとこの男しかいないということだ。


「いないみたいだが、何か知らないか?」

「その子を床に落としてまた出ていった。どこに行ったかはわからん。そのとき話しかけたが無視されたよ。」

「落として…?」


 背後からフィネの声。


「エル、怪我は? 痛いところはない?」

「大丈夫…です。」


 傷はなさそうだ。

 回復魔法をかけるほどではないか。


「とりあえずカルスルエに移動しないか? また眠り薬を使われたら厄介だ。」


 男が言った。

 それには俺も同感だ。


「そうだな。エル、立てるか?」

「はい。」


 見るとフィネが支えているが、自分だけでも大丈夫そうに見える。


「名乗るのが遅れた。我が名はクロス・クロイツ。Aランクの冒険者だ。」

「Aランクが捕まってたのか。」

「状態異常耐性はなくてな。」

「それは俺たちも同じだが…小屋から出るとき気を付けないとまた眠らされそうだな。」

「だな。」

「俺はイズミ、そっちはアドルフィンとエル、ああエルは知ってたか?」

「さっき聞いたところだ。アンタは冒険者なのか?」

「俺とアドルフィンがFランクだ。エルは観光案内。」

「観光? こんなところに?」

「道案内してもらってるだけだよ。」


 そういえば観光地には一度も行ってないな。

 依頼が早く終わった日にはどこか行ってみてもいいかもしれない。

 今はそんな場合でもないが。


「イズミ。エル自分で歩けるって。」


 フィネが言った。


「なら行くか。小屋の周りにまた眠り薬?…を使われてたらまずいかな?」

「んー、森の中は風吹いてないから大丈夫だとは思うけどね。一応これ使って。」


 ポイッと、フィネが何かを投げたので受け取る。


「これは?」

風石(フーセキ)。水に反応して空気が出てくるの。口に入れると口閉じてても息吸える。吐くのは鼻からね。」

「そんな石があったのか。」

「有効な手段だな。」


 クロイツが言った。


「代金は我が持とう。助けてくれた礼だ。」

「ホント?」

「保証する。」


 聞いたこともない石だが、そんなに高いものなのだろうか。

 …と思ってるのが顔に出ていたらしく、フィネが俺を見て言う。


「金貨で5枚。」

「高っ!」

「ね。でも隠れるときとか水中逃げるときとか超便利。」


 なるほど。フィネには必須の道具だったわけか。


「使い方ね。歩くだけなら舌の上。大きく動くときとか苦しいときは舐めて転がして。絶対口は開けない。意識しないと鼻から息吸っちゃうから気を付けて。」

「オーケー、わかった。」

「もしアタシらが倒れたら担いで飛ぶ魔法よろしく。その風石(フーセキ)は一回使って残量ちょっと少ないからさ、小屋出るときと森出るときに使お。」

「わかっ…」


 一回使って…?

 つまりこれはフィネが一回口に…


「もし魔物が出たら我に任せよ。殲滅なら得意だ。」

「お、頼もしー。じゃあエル、行くよ。」

「はい。足手まといにならないようにがんばります!」

「きついときはちゃんと言ってよ?」

「はい。」

「よし、イズミも準備いいね。…イズミ?」


 っ!


「あ、ああ、大丈夫。行こう。」


 風石(フーセキ)を口に入れてドアを開けた。

 入口の部屋を通過し、そのまま四人で外に出る。


「ファイアアロー!」


 声と共に炎の矢が俺たちを襲った。

 不意打ちか。


「っ。」


 口を開かずスキル【創剣】を発動、『イイズナ』を鉄で作ってすぐさま【鍛冶】で大盾(タワーシールド)に変形させる。

 それをそのまま地面に突き立てた。


――ザッ!


 【創剣】では防具は作れないから武器から変形させる必要があるが、重量もサイズもある『イイズナ』ならなんにでも変形が可能だな。

 一度精密にデザインしているから【創剣】で作るのも楽だし。


――ボァッ


 炎がたち消える風のような音が鳴った。

 敵はパッと見で6人。

 さて、反撃を…


「ウィンド・ショット!!」


 横からクロイツの声。

 何かが連続して発射され、敵の男たちがうめき声を上げて倒れていく。

 名前から察するに風魔法か。

 クロイツを見ると敵を指差していたが、人差し指だけでなく親指もピンと立てた独特のポーズだ。


「フィネ、隠れているやつはいないか?」


 敵が姿を現したのなら呼吸をしても問題ないだろうと思い、声を出して聞く。


「いるよ。もう1人。」

「どの辺だ?」


――ジャラ…


 振り返るとフィネが鎖鉄球(ベルクス)を取り出していた。

 次の言葉は発さずに腕を振る。


――シャラシャラシャラ…


 流れるような金属音とともに鎖が伸びる。

 小屋の前の小さな空き地を越えて木々の間に入り込み、奥で鈍い音が鳴った。


「やったか?」

「動かなくなったから気絶したんじゃない?」

「やるな、アドルフィン。イズミの盾も、良いスキルだ。」


 クロイツはそう言って敵の元に歩き出した。

 倒れているやつらは盗賊のような恰好をしている。

 服は結構ボロけていて、髭も伸び放題だ。

 胸を抑えながら苦しそうに転がっているやつの肩鎧に至っては錆びてしまっている。


「エル、怪我はないよな?」

「はい。守っていただいてありがとうございます。」

「当たり前だって。むしろさっき守れなくて悪かった。」

「いえそんな…」

「イズミ! アドルフィン!」


 クロイツが呼ぶ。


「どうした?」

「全員意識を失っただけで生きている。我は人殺しはしない主義なのだが、拘束するにもロープがない。貴公らは持ってないか?」


 ロープは持ち歩いていない。

 代わりの物なら用意できるが。


「なんとかする。ちょっと待ってくれ。」

「わかった。我は奥のヤツを連れてくる。」

「ああ。」


 【創剣】で剣を1本作り、【鍛冶】で手枷7つに変形させる。

 即興だし、手枷の正しい造りなんてわからないから、鉄の輪っか2つを鎖で繋いだだけのものだ。


「半分貸して、アタシも手伝う。」

「ありがたいけど無理だ。鍵付けてないから、俺の【鍛冶】を発動して装着させなきゃ。」

「うわ、外すときどうすんのそれ。」

「破壊するしかないから、番兵に引き渡すときに縄に換えてもらおう。」

「てかどうやって運ぶかも問題だよね。」

「だな。足枷も着けて動けなくして一回町に戻るか?」


 スキル【鍛冶】で順に手枷を付けながら話す。


「うーん、もっかいここ来るの面倒(めんど)いよね。でも場所わかんないだろうし。」

「番兵さんですよね。ぼくが案内してきましょうか?」

「それはだめ。アタシたち一緒でも危ない目に遇ったんだし。」

「もう大丈夫だと思いますよ。」

「いいや、俺もフィネに賛成だ。ほかに仲間がいてまた眠らされる可能性もあるんだ。」

「う…わかりました。」


――ドサッ


 クロイツが担いで来た者を地面に下ろした。

 少年だ。

 ほかの奴らよりもさらにみすぼらしい格好をしている。


「おわ、アンタたち手錠なんて持ち歩いてるのか。」


 クロイツが怖い物でも見るような目で俺たちを見る。


「小屋の中にあったんだよ。」


 さらっと嘘を言う。

 だが人攫(ひとさら)いの連中の小屋だ。

 そんなものがあってもおかしくはないから、クロイツもすぐに納得したようだった。


「さて、こいつらは小屋の中に置いていく感じでいいかな?」


 続けて少年にも手枷を付け、クロイツに声をかけた。


「そうだな…とりあえず一人連れて行くか。」

「賛成。担ぐのは途中で代わるよ。」

「イズミ、安心せよ。」

「え?」

「我は次元袋を所持している。」

「え?」

「知らぬのか? 次元袋と言って、外見の容積を遥かに超えて物質を収納できる袋があるのだ。こいつは貴重品だからな、肌に身に着けていたおかげで奪われずに済んだ。」


 そう言ってクロイツは懐から次元袋を取り出した。

 大きさは俺の持っているものと同じくらいだ。


「次元袋って、生き物を入れても大丈夫なのか?」

「問題ないぞ。残り容量的に2人なら入るかもしれないが、まぁ一人で十分であろう。」

「…それなら俺も持っている。全員連れて行こう。」

「ほぉ、貴公も所持者か。しかし全員は無理だろう。我のは高品質のものだから容量が大きいが、普通のものは中身空っぽにしたところで3人も入るまい。」

「試してみよう。」


 キメラの討伐証明部位はばかでかかったが全部収納できたから、人の5人くらいは余裕で入るはずだ。

 セルテンからもらった次元袋を取り出して賊の頭から被せていく。

 しかしこれって…例えば袋の中で意識を取り戻したら…いや、なんか怖いから考えないことにしよう。

 ま、こいつらは人攫いだしな。


「さて、それじゃあカルスルエに戻るか。」


 何やら驚いた表情のクロイツに向かって言った。



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