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アザールの墓④

――ッ!!


 衝撃で目が覚めた。

 背中に痛み。

 何が起こった?


 寝返りを打つように体を転がす。

 地面だ。

 倒れてしまったらしい。

 一瞬寝ていたような感覚もある。

 意識を失って倒れたのか?

 倒れた、というよりはベッドの上の段から落ちたような衝撃の大きさだったが。

 慌てて首を上げる。


「フィネ?」


 誰もいない。

 さっきフレィアと契約したところだったはずで、周りにはフィネとエルがいるはずだが。


 跳ねるように立ち上がる。

 武具収納を発動……イイズナかナナホシを取り出そうと思うが、見つけらない。

 収納した覚えもないし当然か。

 とりあえずツキノワを取り出して周りを見渡す。

 遠目にカルスルエの(トゥルム)が見える。ということは転移魔法の類いじゃあないってことか?

 状況がまったくわからない。


「フィネ!!」


 大声で呼ぶ。


「イズミ様~!」


 返事が聞こえたが、しかし声の主はハルミゥクだった。

 宙に浮いたまま、小走りくらいの早さで向かってきている。

 俺からもハルミゥクに近づいて合流する。


「何があった!?」

「突然イズミ様が倒れて、フィネさんがイズミ様を運んで行ったんです!」


 どういうことだ?

 フィネはここにいない。

 突然倒れた?

 何者かから攻撃を受けたのか?


「あっ!フィネさんも倒れてます!」


 ハルミゥクの視線を追う。

 …いた。


「フィネ!」


 駆け寄って抱き上げる。

 頭から狼の耳が生えており、髪も真っ白だ。

 変身魔法が解けたのか。


「フィネ!」


 体を揺すると顔をしかめた。

 生きているのは間違いなさそうだ。

 そのまま少し待つとフィネは薄く目を開けた。


「…イズミ?」

「おう俺だ。大丈夫か?」

「うん…」


 フィネが起き上がろうとするので上半身を支えると、ふらつくこともなく立ち上がった。

 回復魔法は不要のようだな。


「イズミこそ大丈夫? ハルミィクもいるね。エルは?」

「俺は打ち身だけだ。」


 そう答えてハルミゥクを見る。


「エルさんはフレィアさんに任せました。お二人とも無事ならすぐ戻りましょう。」

「そだね。でも毒の範囲がわからないからフレィアを呼んで来てくれない?」

「わかりました。」


 動き始めたハルミゥクの背を見ながらフィネに聞く。


「毒? 俺はイマイチ状況がつかめてないんだが…」

「イズミが息吸って倒れたから、空気毒だと思う。イズミが大丈夫そうなのは吸った量が少なかったからかな…」

「フィネは大丈夫なのか?」

「うん、アタシは吸ってないから。さっき意識なかったのは酸欠。」


 倒れた俺をフィネが運んだ、とさっきハルミゥクが言っていた。

 息をしないまま俺を担いで移動したってことか。

 フィネが近くにいなかったのは、おそらく俺を少しでも遠くまで移動させようとして放り投げたのだろう。

 だいたい理解できた。


「助かったよ、フィネ。しかしよく気付いたよな。」

「無臭に近かったけど、感覚的にわかったんだよねー。野生の勘ってやつ?」

「フィネは命の恩人だな。」

「まーね! でも…」

「うん?」

「エルはだめかも。二人運ぶ余裕はなかった。」


 そうだ、次はあの場に残してきたエルが問題になる。

 俺の比ではなく多くの毒を吸ってしまっているだろう。


「…生きてさえいれば解毒はできるんだが。」

「魔法で? 即死毒じゃなかったし、だったら安心だけど…あれ、でも回復はヒールしか使えないって言ってなかったっけ?」

「詠唱に時間がかかるんだけど、超強力な異常回復付きのやつがあるんだ。」

「最強じゃん。初級と最強の二択とかやべーね。」

「中間のが欲しいよな。覚えらんなかったけど。」

「あーね。でもそれなら、風魔法で毒吹っ飛ばして回復魔法で解毒してすぐ町に帰ればなんとかなりそ?」

「だな。とりあえずは…」


「イズミ様~!」


 少し遠くからハルミゥクの声が聞こえた。


「お、もう戻ってきた。思ったより早いね。」

「ちゃんとフレィアもいるな。」


 二人並んで飛んでくる。小走りくらいの速度だ。

 念のためこちらからは近づかず、二人が来るのを待った。


「フレィア、エルは?」

「なんか連れてかれたよ! ハルミゥクが行ったあと人間が3人来て、あの子供を担いで森に入ってった!」

「森に担いで行った…?」


 ってことは人為的なものだったのか。

 感知できない毒で意識を奪って、どこかへ連れて行く…?

 なんのためにだ。


――奴隷狩りってご存知ですか?


 ふいに、ギルドで聞いたアメリーの言葉が頭の中で再生された。

 腕に鳥肌が立つ。


「イズミ、行こう!」


 フィネが言った。

 返事の代わりに飛翔風(ゲイルオン)の詠唱を始める。

 もしも奴隷にするのが目的なら殺される可能性は低い。

 フィネが察知した毒というのも、おそらくは強制的に人を眠らせる類のものだろう。

 ならまだ間に合う。


飛翔風(ゲイルオン)!」


 フィネの手を掴んで魔法を発動し、一気に飛び上がる。

 上空からハルミゥクとフレィアが来た方向に目を走らせると、すぐに『イイズナ』と『ナナホシ』が見えた。

 直線的にそこまで飛んで行き、魔法は解かないまま、呼吸もしないままに武器を回収してもう一度飛行する。今度は水平移動だ。森の前まで最高速で。


「…っと。」


 森の前で急停止して着地する。

 フィネもバランスを崩さずにうまく下りた。

 ハルミゥクとフレィアは置いて来てしまったが、まぁ後で合流すればいいだろう。


 さて、魔法で移動できるのはここまでだ。木や枝をかわしながら飛ぶようなことはできないから、森の中は走るしかない。

 しかしどっちに進めばいい?


「フィネ、気配とかわからないか?」

「……」


 森の中を睨みつけるフィネ。

 薄暗い森だ。

 見上げてみると空を覆うように葉が繁っている。

 そのせいか低木や草はあまり育っておらず、割合見通しは良い。


「全然ダメ。『イイズナ』のとこに足跡もなかったし。闇雲に探すとまた毒食らうかもだし…」


 同感だ。

 ある程度目星をつけて動かないと。

 しかしこの葉の繁りようじゃ空から探すことも難しいだろう。


「…あ。」

「ん?」

「なんかある。変なの。小屋…?」


 フィネが目を凝らして一点を見つめている。

 フィネでそれなら俺の視力では絶対に見えないだろう。


「とりあえずそこ行くか?」

「うん。箱みたいな何かに蔦が繁ってる。」

「わかった。先行してくれ。」

「了解。」


 フィネに続いて森を進む。

 足元が悪い。日が差さないからぬかるんでいる。樹木の太い根も段差を作っていて走りにくい。

 それに枝をかわさないとならない。小さい細い木も地味に邪魔だし、これはかなり面倒だ。

 走ると言うより、飛び跳ねるように進んで行く。

 本気で足を動かしているのだが、それでもフィネの背は離れていく。

 速度と器用さではもうまったく敵わないな。


 少し先でフィネが止まった。

 俺もそこまで行って止まる。


「お待たせ。」

「イズミ、やっぱり小屋だね。雑なカモフラージュ。」


 フィネの指の先を見ると、確かに小屋があった。

 ここまで来ればはっきりわかる。

 地面に枯葉を積み、小屋自体に蔦をかけてあるが、本気で隠す気はなさそうだ。

 森の外から見てわからなければいいって程度のものなのか。


「一気に突入するか?」

「アタシはそれがいいと思う。小屋の中はわからないけど、周りには人も魔物も気配がしないし。」

「わかった。」


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