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アザールの墓③

――ピクッ


 鼻がひくついた。

 なんの臭いもしないが、空気に違和感がある。

 しかし周りに魔物の気配はない。もちろん人の気配もだ。

 そういう警戒を怠ったりはしない。


 それでも本能的に呼吸を止める。

 嫌な予感には従った方がいい。

 アタシはそうやって生き残ってきた。


「イズミ。飛ぶ魔法で高く飛んで。一人でいいから。」

「ん、一人で? なんでだ?」


 吐ける息には限りがある。

 声は小さく、言葉は少なく。


「嫌な予感がする。急ぎで。」

「わかった。」


 まずはこの場を離れるのが大事。

 地上よりも空の方が数段、安全だと思う。

 そしてイズミが詠唱を始めようと大きく息を吸い、そのまま静かに倒れた。

 ほぼ同時にエルも倒れる。

 …毒か。

 においのしない毒は最悪だ。


「イズミ様!?」


 ハルミゥクが声を上げた。

 精霊には影響がないみたい。

 でもアテにはならない。


 早くここを離れないと。

 どのくらいの範囲に及んでいるかわからないけど、風上、つまりあの森から流れてきているのは間違いない。

 呼吸を止めたままじゃ大した距離は移動できない。

 でも風向きに対して直角に移動すれば毒のある範囲を抜けられるかもしれない。


 相棒(イズミ)を肩に担ぐ。

 ジョブの力補正があるから重いってほどじゃないけど、息ができないのが深刻。

 あまり距離は稼げない。

 それでも駆け出す。

 無呼吸のまま。


「え!? アドルフィンさん!?」

「うぇ、ハルミゥク、これ何が起こってんの?」

「わかりませんよ、とりあえずフレィアさんは…」


 背中のイズミから呼吸を感じる。

 少なくとも即死性のものではないのか。

 ちょっとは希望が見える。

 でも…エルは見捨てるしかない。

 非情だけど、そんなの今さらだ。


 たくさんの人を裏切り、見殺しにし、犠牲にしてきた。

 アタシが生き延びるにはそれしかなかった。

 だから死ぬと思ったら逃げた。

 無関係な人間を見殺しにもした。

 走馬灯も何度も見た。

 それでもアタシは生き残っている。

 せっかくお(にぃ)が屋敷から逃がしてくれたんだ。

 何が何でも生き延びる。それが、アタシが最も優先することだ。


 イズミを連れてきたのも、その方が生存確率が上がるから。

 無色無臭の毒だ。もしこれが何者かの攻撃なら、アタシ一人では対処できない。

 エルを見捨てたのも同じ理由。

 二人も抱えて走ればそれだけ移動可能距離が短くなる。

 生存確率が下がる。

 アタシは元々、そういう奴だ。


 イズミはアタシを軽蔑するだろうな。

 そのせいでお別れになるかもしれないけど。

 それでも、今打てる最善の手はこれしかない。


 どのくらい移動できたんだろ。

 視界が歪んできた。

 もうこれ以上は無理。


 でも、最後にひと踏ん張り。


(…狼化!)


 『解放(ゲネ)』を発動。

 心臓の鼓動が激しくなり、身体中の血の流れが速くなるのを感じる。

 こんなことをすれば酸素を一気に失い、完全に意識を飛ばしちゃうけど。


「……ォ、ラッ!!」


 イズミを思いっきり投げた。少しでも遠くに移動させるために。

 イズミの体が低い放物線を描いて飛んでいく、はず。

 酸欠でもう目が見えないけど。


 毒の正体はわからない。

 なぜ毒に当てられたのかもわからない。

 自然発生なのか、誰かが風上から撒いたのか。

 人の仕業なら死ぬ可能性が高い。最低でも金と荷物は持って行かれる。

 だけどもし自然毒なら、毒の範囲外に出られていればアタシは助かる。

 一旦意識を失うけど、息さえできれば数分で目覚めるはず。

 イズミも吸った毒が致死量に達していなければ、すぐに目覚める可能性がある。

 そしたらエルを助けに行く目もあると思う。


 最悪なら3人とも死ぬ。

 でも最高で3人とも生き残れる。

 賭けとしては悪くない方だ。


 それに勝つ自信ならある。

 だって今日は走馬灯を見ていないんだから。



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