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冒険者ギルドへの報告②

「報告お疲れ様でした。」


 窓口に戻るとさっきの女性――ユリアナが対応してくれた。

 歳は俺とそんなに変わらないだろう。

 ダークブラウンの巻き髪がつややかだ。


「ほっとんどイズミが話したからアタシは疲れてないけどね。」


 フィネがカラカラと笑いながら答えた。

 カウンターにアルル蝋と瓶を置く。


「素材売却ですよね。ベーゼアルラウネの雫とアルル蝋以外にもございますか?」

「んーん、それだけ。」

「いや待ってくれ。」


 自分の背負い鞄からイエローベアの爪と牙、リトルウルヴズ4頭分の爪と牙を取り出す。


「これも頼む。」

「承知しました。雫は大きさを図るので、少々お時間をいただきますね。」

「オッケー!」


 二人で窓口を離れてハイテーブルへ。


「んっふっふ~、楽しみねイズミ。」


 フィネは上機嫌な様子だ。


「あれでごまかせたと思うか?」


 小声で聞いてみる。


「大丈夫だよ。証拠あるしね。」

「アルル蝋は討伐された証拠にはなるが、誰がやったかは不明なままだろう。」

「そうだけど逆にさ、アタシたちが討伐したって方が疑わしいよ?普通に考えたら討伐者不明の方を信じると思う。」

「そういうもんか…」


「それよりも。冒険者登録は明日にしない?」

「いいけど。」

「ユリアナの帰りが遅くなっちゃうから。」

「む…もしかしてギルド職員って、客がいる限り対応する仕事なのか?」

「そうだね。今日依頼を報告する見込みの人全員が帰ってきたら閉める感じ。他の人帰り始めてるし、さっき隣のカウンターにいたのが最後だったんじゃない?」


 終業時間の定めがないのか。ブラックだな…。

 にしても隣のカウンターに人がいたのには全然気付かなかったな。

 少し気が抜けているのかもしれない。


「アドルフィンさーん!」


 ユリアナから声がかかった。

 窓口に行く。


「ごめんなさい!冒険者登録もでしたよね。」


 ユリアナが手を合わせて言った。


「ああ、明日でいいよ。」

「雫の確認中に並行しておけば…あれ、いいんですか?」

「うんオッケー。それよりいくらになった?」

「わかりましたっ。それじゃあこちらが明細です。ご確認ください。」


「うひゃぁぁ、金貨25枚だってよイズミぃ!」


 フィネは合計だけを見てはしゃいでいる。

 金貨25枚…良馬1頭買ってもおつりがくる額だ。


「明細見ないのかよ。」

「いい、いい。ユリアナこういうところ正確で誠実だからね、信頼していいのよ。」

「ありがとうございます。でも一応確認してくださいね?」


 ユリアナが笑顔で言った。

 明細書をカウンターから取り上げる。

 羊皮紙に手書きだ。


 合計 G25

 アルル蝋 G10

 ベーゼアルラウネの雫 計S1,320(詳細補記)

 熊種の爪 S20(@10×2)

 熊種の牙 S30(@15×2)

 狼の爪(小) S24(@3×8)

 狼の牙(小) S40(@5×8)


 Gは金貨、Sは銀貨という意味だろう。

 銀貨100枚で金貨1枚になる。

 雫については下の方に細かく書いてあって、S50からS120までが…15個だ。


「ユリアナさん、合計すると金貨24枚と銀貨34枚ですが…」

「重要な御報告をいただいた分、色を付けさせていただきました。」


 そういえばそんなことを話していたな。

 銀貨66枚の上乗せか。随分と気前がいい。


「よく瞬時に計算できるね…やっぱイズミって頭いいわ。」

「ただの足し算だろ。」

「あ、熊と狼の分引くといくら?」

「ん?」

「熊と狼の素材は山分けから抜かなきゃでしょ。」

「そのくらいいいぞ?」

「だめ。そこは約束してないもん。えっと、20()す30()す24()す40だから、50()す64で…」

「114だ。差し引きで金貨23枚と銀貨86枚。」

「はや!」

「山分けすると金貨11枚と銀貨93枚。」

「こまかっ!」


 確かに銀貨93枚は面倒だ。


「あ、でもアタシが7枚渡せばいいだけか。ユリアナ、これでオッケーだし、金貨24と銀100で用意してくれる?」

「はい、こちらです。」


 ユリアナがカウンターの下から盆に乗せた硬貨を出した。

 両替は予想済だったらしく、すでに銀貨100枚が用意されている。

 おまけに革袋まで添えてあった。


 フィネが金貨を積んで高さを合わせ、半分ずつに分けた。

 そしてポケットから銀貨を取り出し、俺の側に7枚置く。


「で、アタシが金貨12枚もらうね。イズミ、合ってる?」

「ああ、合ってるが、フィネも計算早いじゃないか。」

「数字は無理だけどお金ならね、にしし。」


 残った硬貨を革袋に入れる。

 銀貨107枚は思った以上にじゃらじゃらした。


「それじゃあアドルフィンさん、ベーゼアルラウネの発見地点を教えていただけますか?」


 ユリアナがカウンター下から別の紙を取り出す。

 大判の紙だ。細く巻かれていたそれを広げると、森の地図が描かれていた。

 俺が見てもさっぱりわからない。


「ほいほい。入口って、あ、これか。じゃあこう行って、こうだから…」


 フィネが道を辿(たど)りはじめた。

 時間がかかると判断したのか、ユリアナがこちらを見る。


「ところでイズミさん、宿はお決まりですか?」

「宿?まったく未定ですね。」

「それなら…」

「安心してユリアナ。ちゃんと連れてくから。」


 フィネが目は地図を見たまま、左手をパタパタさせながら言った。


「ふふ、お願いしますね。」


 ギルドと提携している宿屋でもあるのだろうか。


「ユリアナん()は宿屋なんだ。アタシも泊まってるからイズミもそうしよ?」

「ああ、そういうことか。了解。」

「ありがとうございます。私もギルドを閉めたら帰りますので。」

「あ!ユリアナ、ここだよ。」

「はい、ここですね?」


 フィネが指し示した位置にユリアナが羽ペンで丸印を付けた。

 直接書き込んでいいのだろうか。


「よっし、じゃあ宿行こっか。ユリアナまたね!」

「もう暗いから気をつけてくださいね。」

「はーい。」


 フィネが入口に向かって歩き出した。


「イズミさんもお気を付けて。」

「あ、はい。ありがとうございました。」


 俺もユリアナに言って歩き出した。





「ってかイズミさ、なんでユリアナにだけ敬語なの?」


 外に出るなりフィネが言う。


「あ…そういえばなんでだろうな。」


 俺の居た聖アロンでもそうだったが、冒険者は師や王侯貴族相手でもなければ敬語は使用しないのが常識だ。


「ま、ユリアナ美人だもんね。」

「ん……いや、下心はないぞ?」

「あぁ、スタイルもいいもんね、そっちか。」

「どっちでもない!なんか自然と敬語が出たってだけだよ。」

「ちなみに独身で、彼氏もいないよ?」

「詳しいんだな。」

「お、やっぱ興味あり?」

「そういう意味じゃないって。」


 そんなような無駄話をしながら歩いた。



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