アザールの墓②
「それじゃあ始めるか。」
武具収納を発動して『イイズナ』を取り出す。
「わ。」
エルが小さく驚きの声を上げた。
巨大な槍が何もないところから現れたらこういう反応になるのが普通だろう。
「イズミはね、ジョブスキルでいつでもどこでも武器を出せるし消せるんだよ。」
フィネがエルの傍で解説してくれる。
正確ではないが、冒険者ではないエルへの説明としては十分だ。
――ザッ。
『イイズナ』を地面に突き立てる。
次に『ナナホシ』も出さなきゃだからずっと持ってはいられない。
「ハルミゥク。」
『はーい! こんにちはイズミ様!』
元気な声と共にハルミゥクが出現した。
『よいしょっと』
「!?」
「ぅわ…っと。いつも急に見えるようになるからびっくりするね。」
フィネが言った。
エルは言葉もなく驚いている。
急に見えるようになっているのは俺も同じではあるのだが。
「ガルガンガニのときは紹介ってしてなかったよな。大地の精霊のハルミゥクだ。普段見えないのはこの槍に宿ってるからなんだ。」
「こんにちは、エルさん! フィネさんも。」
ハルミゥクが愛想よく笑って見せる。
「こんにちは…。このあいだも思いましたけど、すっごい美人さんですね。」
「あらぁ…あらあら、エルさんは良い子ですね。おだてても何も出ませんよ?」
ハルミゥクがにまっとしてエルに近づいて行くと、フィネがエルを後ろから抱きしめた。
舌を出して威嚇している。
「そんなに邪険にしないでくださいよぅ。」
「そのキャラがエルに伝染ったらヤだし。」
「えええ、私ってそんな扱いなんですか…?」
悲しげな目で俺をチラチラ見るハルミゥクを横目に、マントをはたいてみる。
「フレィア、聞こえるか?」
…ちょっと待ってみるが、返事はない。
もう一度。
「フレィア?」
…だめか。
「ハルミゥク、フレィアってこのマントに宿ってるんだよな?」
「ですね。ですけど、んー、直接声かけてみますね。」
「直接?」
『フレィアさーん、イズミ様がお呼びですよー!』
『んぁぇ…』
お、声が聞こえた。
しかし次の反応がない。
『フレィアさーん!?』
『んあぃあい』
「ハルミゥク、これ、もしかして寝てるのか?」
「寝てますねぇ。全然起きる気なさそうです。まぁ、魔力不足だったみたいですし、それにイズミ様の魔力もらいながら寝るのって心地好いですしね。」
「俺の魔力?」
「はい。イズミ様の持ち物に宿ると魔力の繋がりができますから。」
「そうなのか。」
「結構な量をいただくので常人ならフレィアさんと一緒に寝込んでたかもですけど、イズミ様の魔力量ならなんの問題もありませんよね」
「まぁ…」
先に教えて欲しかった気はするが。
――スッ
フィネが片手で俺のマントを握って静かに言う。
「フレィア、起きろよ。」
『んはいっ!!』
蒸気のようにフレィアの姿が浮いてきた。
一瞬、淡く光を纏ったかと思うとフィネの視線がフレィアに向かった。
すぐに実体化したらしい。
「なんだ、すぐ起きれんじゃん」
「なななな何用か!?」
動揺している。
フィネを怖がっているみたいだ。
当のフィネはもうマントから離れてエルを抱きしめに戻ったので本題に入ることにする。
「フレィア、お前の剣ができた。」
武具収納を使って『ナナホシ』を取り出す。
先にぐぐっとハルミゥクが寄ってきた。
「面白い素材ですね。大地には無い何かを感じます。」
「ああ、隕石から採れた金属を使ってる」
「あー、空から降ってくるあれですか。」
「知ってるんだな。」
「何度か見ましたから。地面まで燃え尽きずに残ってるのって珍しいって聞きましたよ?」
「らしいな……って誰から聞いたんだ?」
「風の精霊の…えと、風の精霊の………んーと…」
「もしかして名前忘れたの?」
フィネが聞いた。
「はい~。忘れちゃいましたね。顔は出てくるんですけど。」
薄情な精霊だ。
「てかイズミ、その剣改造した?」
フィネがエルの後ろから動かずに言う。
「ちょっとな。」
「商会のおっちゃんが見たら…その見た目なら逆に喜ぶか。」
「そう願うよ。」
「面白いデザインですよね。ちょっと使いにくそうですが。はいフレィアさん。」
ハルミゥクが剣を取ってフレィアに渡す。
「どうだ?」
「………」
フレィアは黙ってナナホシを見ている。
「イズミ様、名前はもう付けたんですか?」
「『ナナホシ』だ。」
「てんとうむし!? 奇抜ですね。」
「かもな。」
「アタシは結構好きだよ、てんとうむし。無害だしかわいいし。」
「俺もだ。」
「ほぇ~…お二人ともなんというか…あ、フレィアさん、感想は?」
「…ヤバい。」
やっと口を開いたかと思ったら辛口な感想だ。
ハルミゥクのときのように鍛冶でなんとかできないだろうか。
今回は材料もあるし、大抵の直しならできると思うが…。
「ヤバいかっこいいいいい!!」
違った。
「うわああぁぁぁ! めっちゃ好みなんですけど! なにこれ、マジヤバい。好きすぎ。いやマジで。ハルミゥク! この人! いや! この神はなんなの!?」
喜び方がハルミゥクより激しい。
『ナナホシ』がフレィアの手の中でくるくる回っている。
「イズミ様はイズミ様ですよ。一緒にいたくなっちゃいますでしょ?」
「うんうん! なんなら加護も………まではいかないけど! この子が朽ち果てるまで宿っちゃうよ!」
「とりあえず良かったよ、気に入ってくれて。」
「うん! じゃあはい、ナナホシちゃん持って、手ぇ出して手!」
言ってフレィアが手の平をこちらに向けた。
その手にそっと自分の手を合わせると、フレィアが何か唱え出した。
『我は焔。闇を照らしその手を温める。激しくは全てを喰らい、また幻の如く仄かなるもの。それ命と同じ。強く輝き風に消えゆく。貴公もまた同じ。我、貴公と共に燃え、共に消えんことをここに約せん。』
俺とフレィアの手、それに『ナナホシ』が光った。
ハルミゥクの金色の光とは違って赤い。
数秒かけて静かに消えていった。
「イヒヒ、今日からよろしく、イズミ様。」
「ああ…ハルミゥクにも言ったが、別に様付けじゃなくていいんだぞ?」
「え、そう?」
フレィアがハルミゥクを見る。
「私としては礼儀は大切だと思いますけどね?」
「あーしは別に…でも合わせるか。あーしもイズミ様って呼ぶね、イズミ様。」
「ああ…」
フィネの視線が少々気になるが、まぁいいか。




