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アザールの墓①

 フィネと宿を出ると、エルが通りの向かえの壁によっかかって待っていた。

 俺たちに気付くとパタパタと駆け寄ってくる。


「おはようございます!」

「はよ。」

「おはよう、エル。」


 数日ぶりに会うエルは少し雰囲気が変わっていた。

 前よりも清潔感がある。

 …ああ、服が新しくなったのか。


「新しい服か?」

「はい! セルテン様が贈ってくださいました。」

「へぇ。」

「かわいいじゃん。」


 フィネがエルを撫でまわす。

 セルテンのすることにどういう意図があるかまではわからないが、これも『偽善』の一つなのだろうか。あるいは商売の一環なのか。

 気にしてもしょうがないことだが、少し勘ぐってしまう。


「今日はどうされるんですか?」


 エルはまったく抵抗せず、撫でられるままにして言った。

 今日の予定はフィネとも打合せ済みだ。

 まずはナナホシをフレィアに見せるところから。


「ああ、ちょっとやりたいことがあって、それなりに広くて、人気(ひとけ)のない場所ってないかな。他人に見られる心配しなくて良いところ。」

「広くて人気(ひとけ)のないところですか。」

「ああ、やっぱ町の外になるかな。それなら行き方だけ教えてくれればいいんだけど。」

「だったらアザールの墓っていう森の手前の岩場でしょうか…」

「墓? 森?」

「不死身のアザールさんという方が亡くなったと言われている森です。」

「不死身なのに死んだの?」

「えーと、遺体は見つかってないんですけど、冒険者さんですので…」


 なるほど。

 魔物がいる場所で死ねば魔物に食い荒らされて骨も残らないことがある。

 町に戻らなきゃ死んだと判断されるのが普通だろう。


「危険な森なのか?」

「いえ、冒険者さんにとってはそれほどでも。魔物はいますが、お二人ならまったく問題ないかと思いますので現地までご案内しますよ。」

「ふーん…?」


 フィネは腑に落ちない表情だ。

 俺も同感だ。

 不死身なんて二つ名が付くようなやつが死んだなら相当危険なのかと思ったが。


「聞いた話では行く意味がない場所と言われています。まず冒険者ギルドからの依頼が滅多に出ない。素材狩りをするにしても、相手するのが面倒な割に素材の価値が低い魔物が多い。だそうで。」

「だから人が寄り付かない、と。」

「はい。森の外の見通しのいいところなら、森から魔物が出てきてもすぐわかりますし。」


 ますます不死身のアザールが死んだ理由がわからなくなったが、エルもそこまではわからないだろう。全部噂を聞いた程度って感じだし。


「じゃあそこで頼む。早速行こう。」

「はいっ!」





 城門を出て北に向かってしばらく歩く。

 道中退屈しないようにか、エルはずっと話をしてくれた。

 観光案内で慣れているのを踏まえても、エルは話が上手い。

 特に国の歴史などのストーリーのある話が得意だ。

 口調、声色、声の強弱の付け方、どれを取っても並みの講談師より遥かに上手(うわて)だと思う。

 役者になれば人気(にんき)が出そうだし、商人になっても大成しそうだ。


「そうそう、アザールの墓なんですが、アンデットとなったアザールさんが森を徘徊しているって噂もあるんですよ?」


 エルがいたずらっぽく笑って言った。

 かわいらしい仕草。話の中身はともかくとして。


「デマっしょ。不自然すぎ。」


 フィネが一蹴する。

 ふむ、魔物が出る森だから農夫なんかは近づかないだろう。

 冒険者ならグールやらスケルトンやらは倒してしまうだろうし、噂になんかならない。

 目撃者が発生しえない噂話だ。


「さすがに冒険者さんは怖がったりしませんよね。観光に来た方は結構怖がるんですよ、この手の話。意外と作り込まれた設定もありますし。」

「作り込まれた設定って、嘘だって言ってるようなものじゃないか。」

「ぼくは信じてませんから。亡霊より生きてる人の方が怖いくらいです。」

「あ、それ同感。アタシも魔物より商人のが怖いわ。昔っからしてやられてばっか…」

「わかる。」


 俺も同意する。

 セルテンは友好的だからいいが、商会を作っているような商人や行商人はあまり相手をしたくない。

 やつらは本当にたちが悪く、俺も何度か足元を掬われている。

 怖いと言っても過言ではない。


「ふふふ、セルテン商会にコネクションのある方とは思えない言葉ですね。」

「あれはおっちゃんが勝手にイズミを気に入ってるだけだしね。」

「そういえばフィネ、セルテンさんは結構若く見えるんだけど、あれでもおっちゃんなのか?」

「顔じゃなく態度がね。」

「ああ…」


 妙に納得してしまう。

 外見は20代だと思うのだが、あの落ち着きっぷりは確かに年多く見えるな…。





 そんなふうな他愛のない話をしながら歩いていると、向かう先に森が見えた。

 魔物に遭遇することもなく、すんなり来ることができた。


「…変な森。」


 フィネが呟いた。

 目を凝らしても森だということしかわからない。


「ま、森には入らないからいっか。」


 続けて言う。小声だから独り言なのだろう。

 特に変なところは見つからないと思っていたが、さらに森に近づくと理由がわかった。

 森の前は荒地なのだが、草地を挟むでもなくいきなり森になっている。

 まるで森と荒地との境界に線を引いたようだ。

 …が、フィネの言うとおり森に入るわけではないから、森が不審でもそう気にする必要はない。マジでフィネが言ったとおりだ。ここから繋げる言葉がない。


「あ、ごめんなさい。ちょっとずれちゃったみたいですね。あっちの岩場です。」


 エルがそう言って進路を変えた。

 ここまでは森に近付いてきていたが、真横に移動を始める。

 向かう先には確かに岩場があった。


「さっきまでは見えなかったよな、あの岩場?」

「だね。」

「町から来ると、岩場の前のすっごく緩やかな丘に隠れて見えないんです。だからちょっと場所がずれちゃいました。すみません。」

「それは構わないよ。見えないのにいきなり行けなんて無理なことは言わない。」

「てか見えてないのにだいたい目星付けられるだけすごいよ、エルは。」


 またフィネがエルの頭を撫でる。


「ところで、ぼくは見えないところで待っていた方がいいですか?」

「ああ、いや問題ないよ。」


 見えないところで魔物に襲われたら(こと)だ。

 ハルミゥクとは一度会っているし気にする必要もない。

 エルにも一緒にいてもらおう。


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