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セルテン商会第二秘書

「では、フェルーゼンのロトバイル進出も同様の対応でよろしいでしょうか。」

「ダリスはなんと言っていた?」

「御指示を仰ぎたい、と。」

「対応に迷った場合でも自分の考えは言うようにと言ったんだがな。ボック、お前に報告がきた時点で意見までしっかり聞いておいてくれ。」

「は。」

「フェルーゼンにはカルロス商会と同等の品を贈っておけば足りるだろう。ただし同じ物は贈るなよ。価値が同じでまったく違うものを選ぶように伝えろ。」

「かしこまりました。」


――コンコン


 ノック音。

 ラインハルト様との協議中だと言うのに、一体誰だ。


「入れ。」


 ラインハルト様は入室を促す。

 あとにしろと言う場合でも、一度顔を見てからにするのはこのお方の美点だとは思う。

 しかし(いささ)か邪魔をされた感じは否めない。


「失礼します。」


 入ってきたのはアーゾだった。

 ただの定期報告か。


「アーゾか。定期報告だな?」


 ラインハルト様が聞く。


「はい。」

「ならすぐ終わるな。ボック、ちょっと待っててくれ。」

「畏まりました。」


 大事な協議を中断してでも報告を聞くとは。

 最近のラインハルト様はこの件にご執心になられているが、たかが定期報告で…


「それでアーゾ、ここ三日の動向は?」

「はい。まずは冒険者ギルドで放置されていたDランク依頼のガルガンガニの討伐を成し遂げたそうです。装甲が硬すぎて討伐が難しい魔物なんだそうですが、一撃で甲羅を消し飛ばしたとのことです。」

「ほっほぅ! それはすごい!」


 これはイズミという冒険者の話だ。

 ラインハルト様はお若い時分に冒険者をされていたこともあって、冒険者への投資がお好きだ。

 というのを踏まえても……イズミへの入れ込みようは異常に思える。

 以前命を救われたとおっしゃっていたが、それにしてもだ。


「昨日はグランドトレントの討伐に向かったそうです。エルは孤児院におりましたのでエルからの話はありませんが、冒険者ギルドのアナンダから『昨日のうちに討伐報告があった』と聞いておりますので、なんなく達成できたのかと。」

「うむ。」

「本日はブラウンアントの討伐に向かったそうで、面倒で放置されている依頼ばかり請けることから、ギルド内では解放者と呼ばれ始めたようです。」

「解放者? ふむ…解放、なのか? ピンと来ないというか、あまりセンスのない呼び方だな。」

「面倒な依頼は必ず面倒な客が発注しているので、ギルド職員の心身の負担から解放しているからと。」

「…なるほどな。それなら言いたいことはわかる。しかし人が良いのは相変わらずだな。エル君も(なつ)いていることだろう。」

「はい。案内に出るのが楽しみだそうで。日数を増やしたいとも言われています。」

「日数?」

「長時間の外出は10日に3日までという決まりごとがありまして。」

「孤児院のルールか。何か理由があるのか?」

「日数で制限でもしないと、孤児院ではなくただの宿になってしまいます。働いてお金を得ることは大事ですけど、大人になるまでに身に着けてほしいことも結構ありますし…」

「納得はできるが、エル君はしっかりしていると思うぞ。」

「そうは言ってもまだ12歳ですから。」

「うーむ、孤児院内のことはお前たちに任せるがな。もう少し融通を利かせても良いのではないか?」

「ええ、院内でもその方向で話が進んでいます。」

「そうかそうか。しかし、ガルガンガニを一撃か。それにグランドトレント。ふははは、流石はイズミ殿だ。」


 ラインハルト様が上機嫌に笑う。

 イズミの活躍を聞くとご自分のことのようにお喜びになるが、普通に考えばFランクの冒険者程度にそんなことができるはずがない。

 本人の力ではなく強力な魔道具……魔法剣とかそういうものを持っているのだろう。


「さて、今日の報告はこんなところか?」

「はい…」

「何かまだ言いたそうだな。遠慮なく言いなさい。」

「…エルの報告なのですが、少々信憑性に欠けると言いますか…一撃で強力な魔物の装甲を消し飛ばすなど、Aランクでもないと不可能なのではないかと。」

「だろうな。普通ならな。だがイズミ殿は別格だ。そのくらいやってのけるさ。」

「そう、ですか…」

「明日からの報告も頼むぞ。エルくんとギルドの両方から話を聞くのは君にしかできないからな。」

「はい…。」


 どこか納得がいっていないような素振(そぶ)りのままアーゾが退室する。

 気持ちは大いにわかるが。


 さて、協議を再開しようと思いラインハルト様の前に出る。


「ボック、そのうちに手続き的にか、政治的に困る事態も起こるだろう。そういうときサッと食事に誘えるよう、昼、夕、夜の時間ごとにすぐ抑えられる店を各2店舗以上見繕っておいてくれ。」

「…と、言いますと?」

「イズミ殿が困ったときに素早く手助けができれば、私への信頼も高まるだろう? そのときは問題を直接解決できる者への紹介の前に、私が直接話を聞くという意味だ。うまい飯を食いながらな。」

「…は。」


 意味がわからない。

 ラインハルト様は今やステイナドラー商人組合長だぞ。

 一介の冒険者と直接お会いになること自体が勿体ないというのに、こちらからセッティングの準備までするとは。

 しかもFランク風情と!


 …あの冒険者が調子づかせるわけにはいかない。

 今こそ、客として屋敷に置いている冒険者どもに働いてもらうときだろう。


 ラインハルト様!

 必要なときに主をお諌めするのも秘書の務めですぞ!

 このボック、真の忠義よりラインハルト様を正しき姿にお戻し差し上げましょう!



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