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本部長秘書からの依頼⑥

「お疲れさん!」


 俺たちを迎えに来たダズがにぃっと笑って言った。

 ヤーンに乗り込んでからフィネが返事をする。


「ホント疲れた。」

「お? 手ぶらだから収穫なしかと思ったが、なんかあったのか?」

「……」


 フィネが答えないので代わりに喋る。


「鎧はあったんだが、魔物じゃなかったんだよ。依頼は空振り。」

「そうかい。そりゃ残念だが、まぁそんなこともあるわな! オレも全然魚取れなかったしよ。」


 そう言ってガハハと笑うダズ。

 漁がうまくいかなくても笑い飛ばせるってのはすごいな。

 彼は芯から明るいみたいだ。


「帰りも頼むな。」

「おう、任せとけ!」


 疲れた表情のフィネに遠慮したのか、ダズも城に向かうときほど話しかけては来なかった。

 特にすることもないので、ぼーっと湖面を眺める。

 赤い剣か。どんな風にしようか。

 すでになんとなくイメージがある。

 長剣だ。

 地面に突き立てたら腰の高さまで刃になるくらいの長さで、少し幅があったほうがいいな。

 (つば)もグリップも赤くすると、やりすぎか。

 鍔だけ赤くして、グリップは銀色…いや、黒もいいな。

 赤をかっこよく見せたいから、剣身(ブレード)に浮彫りのような装飾を付けよう。

 フィネが壊したステンドグラスを囲ってた枠をモデルにするか。

 フレィアは城に思い入れがあるようだし、その方が喜ぶだろ。


「お! 見えたぜ、あいつがホルンだよ。」


 ダズが言った。

 湖の中央を見る。


「うーわ、本当だ。生き物。」


 島のように見える身体はやはり島にしか見えないが、今は頭部がはっきりと見える。

 まるで首を伸ばした亀のように生えた頭は水牛に似ている。

 そして名前のとおり巨大な角(ホルン)が目立っている。

 その角は極太で、(ひたい)の上から横向き出たあと、頭の横に出た耳のあたりで急激に上に向かっている。

 (あご)からは長い(ひげ)

 束になって垂れ下がり、水面に触れているようだ。

 これは流石に信じるしかない。


「あれとは戦いたくないな。虫が熊に挑むようなもんだ。」

「温厚なんでしょ? 心配ないって。」

「イズミの兄さんは発想がすげぇな。普通ホルンと戦おうなんて思いつきもしないって。」

「それもそうか。変なことを言った。」

「別に責めてるわけじゃないさ。面白いって思っただけだ。」


 おそらく、こいつはこの世で一番でかい生き物なんじゃないだろうか。

 世の中知らないことが多いな。

 こうやって聖アロンから出てこなければ絶対に見ることはできなかっただろうし、冒険者生活は本当に楽しい。

 良い友達もできたし。

 ホルンを眺めながらしみじみと想う。


「おーし、港に入るぞ! 揺れるから気ぃつけてな!」

「「わかった。」」


 ダズがヤーンの帆を巧みに操って速度と向きを調整する。

 揺れると言われたが案外揺れずに埠頭に寄せ、ロープを木杭(ボラード)に回した。


「よし、到着だ。下りていいぜ。」


 フィネがひょいと埠頭に渡り、俺も(なら)った。


「どうもね、ダズ。」

「助かったよ。」

「おう、またな!」

「ああ。」


 湖港を後にしてギルドに向かう。


「イズミ、なんて報告する?」

「リビングメイルがいるって言ったやつの勘違い、でいいんじゃないか? 白い鎧なんて珍しいし、疾風(はやて)の鎧を見せれば納得するだろ。」

「それでいっか。あの女にお願いされても鎧はあげちゃだめだからね。」

「当然だって。鎧は…どうする気だった?」


 魔道具は高価で取引されるが、こういった珍しいものはオークションに出すのが主流だ。

 ここは商業の町だからどこかではやっているのだろうが、アテはない。


「セルテン商会でいいじゃん。」

「なるほど。」

「てかミスリルの棒も売り忘れてたし。」

「そういえばそうだったな。【武具収納】しっぱなしだとどうにも忘れちまう…」

「でも明日以降でいっかなと思う。アタシ疲れた。」

「それは構わないが…ミスリルの棒さ、フレィアの武器に使ってもいいかな?」

「おお、そだね。そこは賛成。」

「どうもな。」

「武器と言えばお願いがあるんだけど。」

「なんだ?」

「アタシの鎖鉄球(ベルクス)、爆裂盾に【鍛冶】使ってもう1本作ってくれない? 着弾した時に爆発するように。」


 それは面白そうだ。

 しかし、それをするとなると、盾の中のどこかに彫られてる魔方陣をどうするかが問題になるな。

 まぁ、現物見ながら考えるしかないか。


「やってみる。できるかはやってみないとわからないぞ?」

「いい、いい。もしできたらでいいし、できなかったらできなかったでお金にはなるしね。フレィアの武器はいつ作るの?」

「夜の間にイメージ仕上げて、明日の朝に作業するわ。」

「りょーかい。」





 ギルドに着いてすぐ登録窓口に行き、アメリーを呼び出した。

 昨日と同じ応接室に入るよう案内されると、部屋の中にアメリーがすでに待っていた。

 音もなく立ち上がって頭を下げる。


「おかえりなさいませ。イズミ様、アドルフィン様。」

「頭を上げてくれ。達成の報告はできないわけだし。」

「…それはどのような意味でしょうか?」

「リビングメイルはいなかった。」


 刹那(せつな)、アメリーが鋭いまなざしを見せるが、すぐに柔らかい表情に戻った。


「まずはお掛けください。」

「ああ。」


 ソファに座る。


「詳しくお聞かせ願えますか?」

「白い鎧ならあった。こいつだ。」


 次元袋から疾風(はやて)の鎧の兜だけを取り出してテーブルに置く。


「首から下の鎧も必要なら見せる。だがこいつはただの鎧だ。リビングメイルなんかじゃない。」


 アメリーは兜を見つめ、すぐに言った。


「腕鎧だけでも見せていただいても?」


――ゴト。


 無言で取り出してテーブルに置いた。


「…大変なご足労をおかけしました。アルトフェルス城の中に入るのにはご苦労ありませんでしたか?」

「草くらいかな。あと入口わかりにくいな。」

「どちらからお入りになったので?」

「横の入口。あれが正面口なんだろ?」

「はい。」


 アメリーが少し目を伏せる。


「こちらの鎧兜はどちらに?」

「城主の間だよ。最上階の。」

「承知いたしました。情報の真偽も確かめずに動いてもらって申し訳ございませんでした。」

「いや…いいよ。」


 良くはない。

 思わずいいよと言ってしまったが、タダ働きを承諾すればフィネに怒られる。


「それでは、ジョブカードをお貸しいただけますか? 報酬はお出しできませんが、依頼としては達成扱いにします。実績も3倍ではなく、5倍にしますので。」

「いいのか?」

「はい。無理にお願いしたことですし、報酬をお出しできない分の補填としてはむしろ足りないくらいとは思いますが、わたくしの権限では5倍が限界ですので。」

「いいよ、それでいい。」


 ジョブカードをテーブルに置く。

 フィネも同時に置いてくれた。


「実績を作成して参ります。こちらでお待ちください。」

「ああ。」


 アメリーが部屋を出ていく。

 俺はフィネを見て言った。


「これでいいか?」

「いーよ。文句なし。」

「良かった。」


 数分でアメリーが戻ってきた。

 思ったよりは早い。


「お待たせしました。ジョブカードと、こちら実績です。」


 それぞれ受け取って実績をカードに乗せて反映させる。

 5倍とはいえ、まだランクは上がらないようだ。


「ところでイズミ様、アドルフィン様、奴隷狩りってご存知ですか?」

「俺は知らないけど、フィネは?」

「知ってる。」


 知らないのは俺だけか。


「ステイナドラーじゃあ奴隷は違法だろ? 他国向けに人が攫われるのか?」

「いえ…この国ではかつて公的な制度で、内実が奴隷制だったものがあったんです。」

「ほぅ?」

「それはもう廃止されているのですが、代わりに違法奴隷を持つ者が現れました。そのために奴隷商が手だれの冒険者を使って人攫いを行っていまして、最近ではこの辺でも奴隷狩りが行われるようになっています。」

「待って。」


 フィネが口を開く。


「それが何?」

「はい…本当に不躾(ぶしつけ)なお願いなのですが、奴隷狩りの調査にご協力願えませんでしょうか。」

(いや)。」


 明確な拒否を示してフィネが立つ。

 即決か。

 空気を読んで俺も立つことにする。


「お待ちください。お話だけでも聞いていただけませんか?」

「無理。」


 城でフレィアに脅かされたこともあって、かなり機嫌が悪そうだ。

 フレィアは許してもアメリーへの反感は(ぬぐ)えないのだろう。

 ちょっと可哀想な気もするが、聞いてやろうと言えばまた美人に弱いと言われるしな。

 片手でごめんという意思表示だけして俺も部屋を出た。



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