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本部長秘書からの依頼④

「なにがあったんだよ。」


 フィネが勢いよく顔を俺に向けた。

 涙目だ。

 そして大声で言った。


「お化け!!」


 本気で言っているのが表情でわかる。


「お化け? ゴーストか?」

「魔物のゴーストじゃなくてガチのお化けだよ!」

「ガチのお化けって、何かされたのか?」

「うー…」


 また視線を落として肩を震わせる。


「引き返せ~。」


 頭の上から声が聞こえた。


「うわっ! また!」


 フィネの身体が跳ねる。

 見上げると、女性が浮いていた。

 にやにやしながら俺たちを見下ろしている。

 フィネの言うとおり魔物じゃあなさそうだ。

 だがお化け…というよりは、たぶん精霊じゃないだろうか。

 どことなくハルミゥクと気配が似ている。


「フィネにも見えるのか?」

「え…見えない見えない! なに!? 怖いこと言わないでよ!」

「そうか。じゃあ精霊だな。」

「ばれた!?」


 女性が言った。


「当たりか。フィネ、大丈夫だ。こいつは精霊だよ。」

「…え?」

「あーしが見えるの?」

「ああ。俺にだけな。実体化してくれると助かる。」

「ふーん…いいよ。」


 精霊が目の高さまで下りてきて言った。


「あ、見えた! 本当にお化けじゃないの?」

「れっきとした精霊だよ? 怖がらせたのはわざとだけど。」

「……」


 フィネが精霊を睨む。


「声は初めから二人とも聞けたのはなんでだ?」

「じゃなきゃ怖がらせらんないから、人間にも聞こえるように発声してたの。」

「そんなこともできるのか。」

「実体化のことまで知ってるのにそんなに詳しくはないんだね。あーたは何者なの?」

「俺はイズミ。こっちはアドルフィン。冒険者だ。」


 フィネがとうとう俺から離れた。

 パンパンと服を叩いてほこりを落とす。


「あーしはフレィア。ここで暮らしてる。」


 燃えるような赤い長髪に赤い瞳。

 服も赤を基調としていて、袖に入った金の刺繍がよく生えている。

 肩は露出され、プリーツスカートから脚も露わにしている。

 全体的に露出が多く、首も手首も隠しているハルミゥクとは対照的だ。


「火の精霊か?」

「へぇ、よくわかったね。」


 この見た目で火の精霊でなければなんだと言うのだ。


――ジャラジャラジャラ…ブォン!


「ぅわっとぉ!!」


 声と共にフレィアが横にずれると、さっきまで実体があった場所を鎖が貫いた。

 フィネが鎖鉄球(ベルクス)を放ったのだ。


「いきなりなにすんの!?」

「…さっきまでのはてめぇの仕業か。」


 フィネが、俺が今まで聞いたことのない低い声で言った。


「そーそー。アドルフィンちゃん? すっごい反応良かったよん。」

「ふざけんな。アタシがどんだけ怖かったと思ってんだよ。」

「あはは、そりゃごめんだわ。」


 あっけらかんと笑うフレィア。


「一体何をされたんだ?」

「…言いたくない。」

「ちょっと驚かせただけだよ。お兄さんにしたみたいに。」

「俺に?」

「ほら、くまちゃん。」


 熊…のぬいぐるみか。

 なるほどな。


「ああ、あれはお前が落としたのか。」

「お前じゃなくてフレィア。」

「悪い、フレィアが。」

「素直だね、君。くまちゃんにも優しかったし。」


 優しかった?

 拾って鏡台に戻したことのことか?


「でも全然驚いてくれないからつまんなくて。アドルフィンちゃんは最高だったよ?」

「それ以上イズミに話したら殺す。」

「ちょっ、そんなに怒らないでよ。」


 カルスルエに来て一番の殺気を放つ。

 精霊って物理攻撃通るんだろうか?

 いや、さっきベルクスをかわしたってことは実体化中は攻撃が当たるってことかもしれない。


「お詫びにこの城の秘宝をあげるよ。たくさん楽しませてくれたお礼も含みで。」

「…秘宝?」


 フィネの耳がぴくっと動いた。

 顔はフレィアを睨んだままだ。


「城主の間に封印されてる赫石(かくせき)って宝石。」

「封印?」

「そー。壁に埋め込んであるから忘れられちゃったみたいで、最後の城代が持っていかなかったのよ。」

「勝手に持って行っていいのか、それ?」

「あーしが昔の城主に授けたんだからいーの。」


 さらっとすごいことを言う。

 城主が移り変わって忘れ去られるのはわかるが、それには何十年という歳月がかかる話だろう。

 一体どれだけの間ここにいるのか。

 精霊に寿命なんてないんだろうが…。


「じゃ、もらう。ついでにリビングメイルの居場所も教えて。」

「リビングメイル…ってなに?」

「鎧の姿の魔物。アタシたちそれ探しに来たんだよ。」

「…いないよ? 魔物なんていたら人間が寄りつかないからあーしが魔物除けしているし。」

「…マヂ?」

「マジマジ。」


 どうやら空振りだったようだ。

 しかしギルドにここにリビングメイルがいると報告したやつはなんなのか。


「フレィア、俺たち以外に最近誰か来たか?」

「ちょっと前に来たよ。武装した二人組。」


 もしかしたら。


「どんな風に(おど)かしたんだ?」

「えーっとね、鎧着てる方にはまず石ぶつけて、弓持ってる方からは矢筒の矢を全部取ってばらまいた。あとは肖像画の前であーしの笑い声聞かせたり、急にドア閉めてみたり。でも怖くないぞって強がってたよ。」

「ほうほう。」

「最後にあーしが鎧を着て歩き出したらダッシュで逃げてった。」


 それだ。


「フィネ。」

「無駄足……宝石に価値が無かったらここぶっ壊して更地にしよう。ハルミゥクのあの大技で。」

「なっ!」

「はは、フィネ、あまりぶっそうなことを言うなって。それ最初に疑われるの俺たちになるし。」


 ていうかダズが証言したら有罪確定だろう。


「城壊すなんてやめてー! 独り寂しいあーしの唯一の娯楽なんだから!」

「ぶっ壊さなくてもその楽しみはなくなるっての。」

「え?」

「アタシたちがギルドに言う。精霊が(おど)かしてくるって。誰も来なくしてやる。」

「わー! ごめんなさい! 許して!」


 フレィアが慌て出す。


「娯楽がないならほかの土地に行けばいいんじゃないか? 近くに大きな町もできてるぞ。」


 大昔の感覚だとカルスルエはまだできていないかもしれないと思ってこういう言い回しにする。


「うー、長距離移動するだけの魔力がなくなっちゃってるのよ。人間いなくなったから誰も火を焚いてくれなくて魔力貯めらんないし。」

「火があればいいのか?」

「そうだけど、でも焚火くらいじゃまるで足りないからね?」

「どのくらいほしいんだ?」

「城の屋上のかがり火で十日も燃やし続けてくれれば。」

「それは流石に難しいな…」


 魔法で火付けはできても、ここを離れれば炎の維持はできなくなる。

 できてせいぜい一両日だろう。


「いいじゃん、見捨てようよ。」

「待って待って! アドルフィンちゃんごめんて! どうしたら許してくれる?」

「……宝石以外に金目のものを寄越せ。」

「ぶっ! 賊かよ。」


 思わず吹き出す。

 よっぽど怒ってるみたいだ。


「う…美術品と調度品は全部持って行かれたんよね。」


 フレィアが腕を組んだまま空中で逆さまになって考え込む。

 不思議なことにスカートがめくれていない。


「あ! …魔道具はどう? 爆裂盾と疾風(はやて)の鎧。」



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