本部長秘書からの依頼③
「近くで見ると古城だな。」
遠くから見た印象とは大分違う。
よく見ると漆喰が剥がれているし、壁の石積みが露わになっているところもある。
色のくすみもあるし、ところどころに苔まで生えているようだ。
「んー、どうゆう…ああ、遠くからだときれいだったって?」
「今ので伝わったのか?」
「まーね。 石でできた建物ってあんま変化しないよねー。」
「みたいだな。」
しかし城というからもっと大きいものを想像していたが、それほどではなかった。
上部に数本立っている尖塔を取っ払えば、セルテン商会本部の建物の中にすっぽり収まりそうな大きさだ。
「じゃ、入口探そ。」
「…裏口はないのか。」
「みたいだね。窓からは入れるけど絶対ほこりと蜘蛛の巣まみれになるし。」
「それはなるべく避けたいな。」
「ね。アタシ右、イズミは左から回ってあっち側で合流しよ。」
「了解。」
言われたとおり左から回る。
庭園の藪は建物の周りにまでは入ってきていないが、代わりに雑草が伸び放題なので歩くのにもなかなか気を使う。
そして城の真横まで出ると、大きな扉が見えた。
これが正面のようだ。道の跡のようなものが扉から庭に延びており、防壁の外まで繋がっていそうに感じる。
扉は開けずに進み、フィネと合流する。
湖と反対側のここが正面っぽく見えるのだが、やはり扉はなかった。
代わりに城の前に噴水がある。
もちろん枯れているが。
「やほ。こっち勝手口みたいなのあったよ。」
「こっちはちゃんとした入口があったぞ。」
「じゃ、そっちにしよっか。」
フィネが俺の横を抜け、今俺が歩いて来た方に進み出した。
俺も追うように戻る。
「変な造りだよね。」
「要塞だって言ってたし、そのせいじゃないか?」
「かもねー。ってか開くかな、この扉?」
扉は金属製で、錆びて赤黒くなっている。
銅製の金具も緑色だ。
手始めに押してみると、重いが動きそうだ。
――ギギギ…
少しずつ扉が開いて行く。
閂でもかかっていたらどうしようかと思ったが、第一関門突破だ。
城内が見えた。
3階まで吹き抜けの大きなエントランスだ。
城というとエントランス正面に階段があることが多いが、この城にはないようだ。
ただし2階と3階にはしっかりバルコニーがある。
もし城攻めなら、バルコニーから矢の雨が降ってくることだろう。
内装も質素で、戦いのための城であったということがエントランスの造りからも伝わってくる。
「てかこんな状態でさ、誰がリビングメイル見つけたってんだろうね。」
「……だな。わからんな。ほこりまみれになって窓から入ったのかも知らんが。」
「あーね……ま、ここまで来ちゃったんだし探すしかないか。」
「おう。二手に分かれるか?」
「うーん…うん、そうしよう。イズミが先に見つけたらやっちゃって。こっちにいたら大声出すから。」
「了解。」
左右の扉に分かれる。
その先は廊下になっていた。
癖で扉を閉める。別に閉める必要はないのだが。
――ガタン。
すぐ手前の部屋の中から音がした。
早速当たりか。
慎重に戸を開ける。
「………あれ、何もいないな。」
戸の後ろに隠れてもいない。
いや、リビングメイルのサイズ的に確認するまでもないのだが。
しかし案外狭い部屋だ。
ベッドとクローゼット、鏡台、収納とひと通り揃ってはいるが、歩くスペースがほとんどない。着替えするのも大変そうだ。
「あ、これか。」
ぬいぐるみが床に落ちていた。
その上の鏡台には不自然にほこりが乗っていないところがある。
さっきエントランスのドアを閉めたときの振動で落としてしまったのか。
「悪かったな。」
ぬいぐるみを拾い上げて鏡台に乗せる。
――…とぅ
おそらくだが、この部屋は使用人にあてがわれたものだろう。
一部屋一部屋がこんなに狭いんじゃあいちいち入る必要もなさそうだ。
探すべきは兵の待機部屋とか、城主の部屋とか、あとは武器庫とかかね。相手は鎧だし。
廊下の途中で階段を見つけたから上がってみるが、二階までしか上がれなかった。
三階に上がる階段は別の場所にあるようだ。
軽く二階を探索してみる。
寝室、サロンのような部屋、誰かの肖像画がかかっているだけの空き部屋…
リビングメイルは見つからないし、特に目立つ物もない。
廊下の端に階段を見つけたので三階へ。
上がってすぐの扉を開けてみると、下の階とは段違いに広い部屋だった。
壁にくすんだ黄金色の装飾があるし、蔦のような模様の壁紙が張られている。
この部屋は隣の部屋と繋がっているようで、廊下からの入口とは別に扉が付いていた。
開けてみるとそのさらに次の隣室に行けそうなので、廊下ではなく部屋を進むことにした。
閑散とした部屋だ。
壺か像が置かれそうな台が数台あるが、そこに置かれていたものは流石に持ち出されたってことか。
――ャァァァ…
声が響いてきた。
フィネだ。
「お、見つけたか。」
声が遠いのでこことは反対側のエリアだろう。
小走りで向かう。
――たあぁぁぁぁ!
また声。
さっきよりもはっきりと聞こえた。
近い。たぶん同じ階だ。
呼び声というより叫び声のようだ。
何か問題発生か?
リビングメイルから逃げるくらい、フィネなら簡単だと思うのだが…。
「急ぐか。」
速度を上げて声の方へ。
廊下の角の先から足音が近づいてくる。
角まで出て止まるとフィネがすぐ近くまで来ていた。
「フィネ!」
「―ッズミ!!」
――ドフッ。
フィネが飛びついてくる。
「むりむりむりむり!!」
俺の胸のあたりの服を掴んで首を大きく振っている。
「もうやだ! そこの壁ぶっこわして魔法で脱出しよ!」
「え?」
「ハルミゥクの槍で更地に変えよ! それか火ぃ点けて全部燃やそう! 依頼失敗でもいいから!」
「ちょっ、おいおい。落ち着けよ。」
抱きしめるのも違和感があると思って上げていた両手を下げ、右手をフィネの頭に乗せた。
「なにがあったんだよ。」
フィネが勢いよく顔を俺に向けた。
涙目だ。
そして大声で言った。
「お化け!!」




