あらためて冒険者生活を②
「あのぅ、討伐依頼を受けた冒険者様を案内しています。ガルガンガニの居場所はわかりますか?」
目的地周辺に着くと、エルが農夫に話しかけた。
態度はおずおずとしているが、ためらいがまったくない。
「ガルガ……ああ、あれか。カニの魔物。」
「そうです。」
「もう二月も放置されてるからみんな諦めてたよ。討伐が難しいって話だし、別に無理してやらんでもいいぞ? 野菜は食われるが、別に襲ってくるわけでもないしなぁ。」
「いえ、この方々なら倒せると思います。その魔物はどこにいますか?」
「あっちさね。ちょっと行きゃあ、あとは見ればわかるよ。あのでかいカニは目立つからなぁ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
農夫が差した方に少し歩く。
軽い登り坂で、それが終わるとさっきまでと同じような勾配の下り坂になった。
「あ。あれだね。」
フィネがいち早く気付く。
見れば小屋くらいの大きさのカニが畑の真ん中に陣取っている。
深い紺色の殻はごつごつして硬そうなのが感じ取れた。
妙なことにその畑にも普通に作付がされており、カニを囲うように雑草が残されていた。
襲ってこないというのは本当らしい。
だが攻撃すれば反撃はしてくるだろう。
「念のためエルはここで待っててくれ。」
「承知しました。」
スキル【武具収納】を発動してハルミゥクが宿ったランス、『イイズナ』を取り出す。
大きいので手の中ではなく目の前に出現させると、地面に突き立った。
「ハルミゥク、いるか?」
『はぇ…? あ、はーい!』
槍から蒸気が上がるかのようにハルミゥクが現れた。
すぐに目の高さまで下りてくる。
『呼ばれて飛び出て…じゃなくって、先に実体化しなきゃですね。』
フィネとエルがビクッとした。
「おおっ、出てきた!」
「フィネさん、こんにちは。えっと、こちらの可愛らしい方は?」
「エルだよ。付き添いだけど、とりあえず気にしないで。」
「はぁい。よろしくエルさん。」
「あ、よ、よろしくお願いします…」
「さ…て、イズミ様、また呼んでくれてありがとうございます。」
「様?」
フィネが首を傾げた。
「はい。私はイズミ様のモノになったのです。」
ハルミゥクが身体をくねらせながら言う。
「ご主人様のお名前には様をつけないと、お・し・お・き・されちゃいますよねぇ。」
「イズミ…?」
「いや、そんな強要はしていないぞ。ハルミゥクが自発的に言ってるだけだ。」
「あ、でもでも、お仕置きされるのもまた…」
「さん付けでも呼び捨てでも俺は構わないぞ。」
「それで、今日はどうされたんですか? 戦闘中ではないみたいですけど。」
そう言いながら周りを見渡す。
こいつ俺の話あんまり聞かないな…。
「あ! あれですね! あのカニ!」
「…そうだ。装甲がかなり硬いらしいんだが。」
「へー! おいしいんですか?」
「…いや、それはわからない…ってか食べられるのか?」
フィネに聞いてみる。
「味薄そうだよね、あんまり動かないやつって。」
「そうなんですか? 前にカニは高級食材って言ってた人がいましたけど。」
「そうか? 水辺が近けれりゃどこでも食べれるイメージあるけど。」
「アタシも。」
「あれ~? …まぁそれはいいです。イズミさん!」
「なんだ?」
「イイズナは槍ですよ、槍! 多少硬かろうが貫くのは大得意でしょ!」
「かなり硬いらしいが。」
「まだ私とイイズナを信じてくれてないんですね! だったら本気の私を見せてあげます! さぁ! 武霊解放してください!」
「どうやって?」
「え……んー、なんとなくわかりません?」
地面に突き立った『イイズナ』を引っこ抜いてみる。
…すると、さっきまではなかった感覚が備わったように感じる。
なんとなくスキルの使い方がわかった。
解放できる武器を持ったからか?
試しにやってみよう。
「武霊解放!」
――ファァァ…
『イイズナ』が金色に輝いた。
そして形状が変わっていく。
より長く、より太く。
さらに、槍の末端から植物が生え始めた。
蔦だ。
石突の代わりに付けた輪っかから2本の蔦が螺旋を作りながら伸びていき、地面に触れた。
根を張ったようにも感じる。
なんにせよ、植物とは思えない速さだ。
形状変化が終わった槍を構える。
――ビッ!
元々大きかったが、今は攻城兵器のような大きさになっている。
形が変わっても持った感じに変化がない。
不思議なことに重さが変わっていないようだ。
「すっご。イズミ、それよく持てるね。」
「重さは変わってないぞ。あれ、ハルミゥクはどこだ?」
さっきまで浮いていたところにハルミゥクがいない。
『イイズナの中ですよー。』
ハルミゥクの声がした。
頭に直接響くような感じだ。
「お、今のフィネは聞こえたか?」
「んーん全然。」
「ハルミゥクはイイズナの中にいるそうだ。」
「あー、そゆことね。じゃあさ、なんで地面と紐で繋がってるのか聞いてみてよ。せっかくでかいのに攻撃範囲狭すぎっよ…ぶふっ」
フィネが言葉の途中で吹き出した。
笑いを堪えきれなかったようで、腹を抱えて震えている。
…まぁ、俺も同感ではあるが。
蔦で地面と繋がれていてはほとんど移動することができない。
「ハルミゥク、この蔦はなんなんだ?」
『大地の力を供給してますから!』
「そうか。しかしちょっと攻撃範囲狭すぎないか?」
『……いくらでも伸びるから安心してください。』
「ほぅ、伸びるのか。」
フィネにも伝わるように復唱する。
『はぁ…イズミ様は私のことどんな風に思ってるんですか? 攻撃届かないところで武霊解放してなんて言いませんし、そんな役に立たない武器になるわけないじゃないですか。』
正論だ。
素直に謝っておこう。
「それは、すまんな。」
『質問に答えてくださいー! 私のこと、どぉ思ってるんですかぁ?』
台詞の後半が猫なで声になった。
姿は見えないが、なんとなく身体をくねくねと動かすハルミゥクが想像できる。
『え!? ……かわいいですか? やだぁもう!』
「言ってないぞ。」
『精霊には心の声が聞こえちゃうんですよ?』
「心の中でも言っていないと思うが…」
『またまちゃ照れちゃって。』
「確かに顔は美人だと思うがな、いかんせん性格
『はいストーップ!! 「だが」とか「しかし」とかはいりません! 今私のこと美人って言いましたよね! 美少女って!』
「いや美少女とは…」
『いや~、やっぱりイズミ様は私のこと大好きですねぇ!』
「アタシさ、今ハルミゥクの声は聞こえてないけど、イズミの台詞と表情だけでハルミゥクがうざいこと言ってるってわかるわ。」
「ふ…」
フィネの言葉ににやけてしまう。
ハルミゥクはまだ何か言い続けているが、そろそろガルガンガニに攻撃してみよう。
「じゃあフィネ、始めるぞ。」
「オッケー。」
『いやいや、イズミ様、そこは私に言うところじゃありません?』
『イイズナ』を構えて駆け出す。
このまま突いても強そうだが、より強力なスキルが発動できそうな感覚がある。
『あれ、聞いてます? 無視なの? 精霊の声を無視するって相当ですよ?』
感覚に身を任せて槍を繰り出す。
「オオナムチ!!」
――ズォ…
瞬間、魔力が渦を巻き始める。
――ゴオォォォ…!
――ドンッッ!!
その渦は槍身に沿って流れを作り、螺旋状の一撃となってガルガンガニを貫いた。
でかい体の真ん中を突いたはずだが、甲羅ごと消失して脚の一部だけが残っている。
「どーですか? 凄い威力でしょ?」
ハルミゥクが空中に姿を現して言った。
オオナムチを放ったせいか、すでに『イイズナ』は元の形に戻っている。
「ああ…」
あまりにも強力な一撃に言葉がでてこない。
「ってかやりすぎ。」
隣にやってきたフィネが言った。
振り向くとエルはさっきまでいたところで待っている。
「素材消滅してるし。討伐証明は脚でもいいと思うけど。」
「ええー! フィネさん、もっと驚いてくださいよう。そして賞賛の言葉を!」
「すごいすごい。それは本当すごい。」
「ああ、完全に同意だ。すごいぞハルミゥク。当面『イイズナ』は封印だな。」
「ええええぇぇぇ!?」
「こんな威力の攻撃、使いどころないだろ。地面にまで穴空いてるし。ドラゴン並みに強い相手でもないと。」
「使ってくださいよぉ~! 地面なら私が戻しますから~!」
そう言ってハルミゥクが指をすいっと動かすと、地面にぽっかり空いていた穴がふさがった。
精霊といえど、そんなに簡単に地形を変えたりしていいのだろうか。
「それに、オオナムチは奥の手なんですから。」
「奥の手?」
「はい。この辺の大地から魔力をもらってますから。しばらく使えませんよ?」
「武霊解放もか?」
「それは私の魔力だけでいいので大丈夫です。」
「ふむ…わかった。なら普通の武器でやれないときは『イイズナ』を呼ぶよ。」
「本当ですか!? ありがとうございますぅ!」
「それじゃ、今日はもう『イイズナ』をしまっていいか?」
「はいっ、わかりました!」
すんなりと承諾してくれた。
嫌がるかと思ったが。
「…じゃあ、またな。」
「またね、ハルミゥク。」
スキル【武具収納】を発動。
「また呼んでくれるのを楽しみにしていますね!」
『イイズナ』を収納する寸前、ハルミゥクはそう言ってにこっと笑った。




