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あらためて冒険者生活を①

 ギルドを出ると、日が沈みかけていた。

 宿に行くにも良い頃合いだ。


「エル、商会で宿の位置聞いてたよね?」

「はい。ご案内しますね。」

「よろしくぅ。」


 エルの案内で宿に向かう。

 通りを歩く人が増えたような気がする。


「ねぇエル、明日も頼める?」

「もちろんです!」

「町の外になっちゃうけど。」

「イズミ様はお強いですし、フィネ様も同じくらいお強いのならば何も怖くはありませんよ。」

「いやいや、アタシをイズミと同列にしないで。って言ってもわからないよね…でも安全は保障するよ。」

「では明日はいつごろお伺いしましょうか?」

「日の出の2時間後くらいかな。」

「承知しましたっ! あ、あの建物がセルテン商会の方が言っていた宿ですよ。」


 着いたところは石造りの重厚な建物だった。

 今日はこういう建物にしか縁がなかったが、街並みはほかの栄えている都市とそう変わりはない。レンガや木組みの建物も多いし、漆喰(しっくい)もかなり見られる。

 しかしこの建物は石だけでできているようだ。

 宿の吊り看板が出ているから間違いなく宿なのだろうが、扉は金属製だ。

 防犯のしっかりした高級宿に違いない。

 多少割引かれようも大して変わらないくらい高いんじゃないだろうか。


「マジか…」

「イズミ、ここいくらかかるかな?」

「うーん…エルすまん、宿代次第ではほかの宿にするかもしれんからちょっと待っててくれるか?」

「わかりました。」

「じゃあフィネも、ちょっと待っててくれ。」

「あいよ。」


 おそるおそる戸を開けて中に入る。

 内装もしっかりしている。

 やっぱりここは高級(たか)そうだ。

 身なりのしっかりした男が声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。」

「あー、セルテンさんの紹介で来たんだが…」

「お名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」

「イズミだ。あと外にもう一人、アドルフィン…じゃなくて、フィネ。」


 セルテンにはアドルフィンではなくフィネって呼ばれてるんだった。


「ようこそお越しくださいました。イズミ様。」


 男がしなやかにお辞儀をしてみせる。

 動作が洗練されていてかっこいい。


「チェックインは済んでおりますので、すぐに鍵をお持ちしますね。」


 セルテンの秘書がすでにチェックインまで手配してくれていたようだ。

 だが、いくらかかるかが問題だ。

 見栄を張ってもしょうがないし、ストレートに聞いてみよう。


「待った。すまん、ここ1泊いくらなんだ?」

「本日分はすでにいただいております。明日以降は、組合長からのご紹介ですので1泊朝食付きで銀貨10枚を頂戴いたしたく存じます。」


 安い!

 ユリアナの家族がやっていた大麦亭は銀貨6枚。いつも食べていた朝食を付けると7枚だった。

 高級宿で銀貨10枚は安すぎるくらいだ。

 ここに決めていいだろう。


「わかった。じゃあ鍵を頼む。俺は連れを呼んでくるよ。」

「かしこまりました。」


 一旦、宿から出る。


「フィネ、1泊朝食付きで銀貨10枚だそうだ。宿のランクから見れば格安だぞ。」

「最高。商人のおっちゃんいいやつだね。」

「ふは…現金だな。ということでエル、今日の仕事は終わりでいいよ。長い時間ありがとうな。」

「いえいえ、明日もご用命いただいてますし、感謝するのはぼくの方です。」

「はい、お礼。」


 フィネが銀貨を1枚渡そうとするが、エルはそれを見て固まってしまった。


「どした?」

「え? いえいえ、もうお代はいただきましたよ?」

「あれは前金って言ったでしょ。アタシたちはエルの案内に満足したし、長時間付き合ってもらったし、このくらい受け取ってよ。」

「しかし…」

「フィネ、それじゃあ俺の感謝の分も上乗せしよう。」


 革袋に手を入れ、手さぐりで銀貨を取り出した。

 俺もエルに差し出す。


「えええええ!?」

「ほら、早く手ぇ出して。」

「ホテルマン待たせてるんだ。」


 そう言うとエルはおそるおそる両手を差し出した。

 二人でそこに銀貨を置く。


「じゃあ、おやすみ。」

「おやすみ~。」

「おっ、おやすみなさい! 本当にありがとうございました!」





 宿は期待以上の快適さだった。

 部屋は広々、ベッドはふかふか、朝食はしっかり。

 しばらく野宿だったこともあって幸せの絶頂のような心地だった。

 これがずっと銀貨10枚なら永住したくなる。


 フィネと共に宿を出ると、向かい側の建物にエルが寄りかかっていた。

 一応、朝食の前に外に出てまだ来ていないことを確認していたので、そこまで長く待たせてはいないと思う。


「おはようございます!」

「おはよう、エル。」

「…はょ~」


 早速、エルの案内で討伐依頼を3つこなした。

 どれもこれも人造キメラよりも弱い雑魚ばかりだったが、報酬は平均で金貨2枚だ。コストパフォーマンスを考えるとEランクの依頼の方が稼げるみたいだな。


 それと、ギルドに戻る前にセルテン銀行に寄った。

 セルテンからもらった金属のカードを見せると、やたら豪華な商談部屋に通されてカードの説明を受けた。

 いわくそのカードは、セルテンお抱え魔術師が開発した魔道具で、口座に入っている金額と入出金の記録ができるらしい。

 ジョブカードのように所有者だけが自由に内容を確認できる。

 今回の場合は俺とフィネの2人が所有者だ。


 口座の金はそのままにして、登録だけを済ませることにする。

 当面の生活費は依頼の報酬だけでまったくもんだいないし。


 そしてギルドに戻って達成報告を済ませた。


「お待たせしました。こちら報酬と実績です。」

「どうも。」


 実績をジョブカードに重ねると、冒険者ランクの文字が光って書き換わった。

 E、と記されている。


「お、ランク上がったな。」

「だねー。」

「ランクアップですか? おめでとうございます!」


 受付嬢が拍手する。

 ランクアップすると気付いていなかったようだ。

 ギルド側では個人の実績を記録していないのだろうか。

 事前にわかりそうなものだし、ユリアナなら先に教えてくれそうだが…。


「では今度はCランクの依頼も受注できますよ。」

「ああ、考えてみるよ。」

「イズミ、じゃあ考えてみてよ、今から見せる依頼。」

「ん?」


 フィネが掲示板に向かうので付いて行く。

 掲示板の近くで待っていたエルも呼んで、Cランクの依頼が貼ってあるところの前に立った。


「これこれ。」


 指差した先、フィネの身長では届かないところに【ガルガンガニの討伐】という依頼票があった。


「ガルガンガニ?」

「その辺の冒険者に聞いたらさ、攻撃的じゃないんだけど装甲が硬くて、負けないけど倒せない魔物だって言ってた。外見はでかいカニ。」

「ほうほう。」


 なら魔法で火あぶりにするか。


「いや察してないでしょ。」

「うん?」

「ハルミゥクの槍、試せるんじゃない?」

「っ!?」


 確かに!

 そう言えば使っていなかった。

 せっかく作ったのだから試してみないと。

 スキル【武霊解放】というのも気になるし。


「フィネ、これはぜひ受注しよう。」

「だよね。アタシ届かないからイズミ取って。」

「ああ。」


 手を伸ばして届かないことをアピールするフィネに覆いかぶさるようにして依頼票を取った。

 もちろんフィネに触れてはいない。

 依頼票を読んで見ると、場所が『壁外の農地 南部第3』となっている。


「エル、壁外の農地 南部第3ってあるけど、今から日帰りできるか?」

「ええ、受注のときに南部第3門の通行許可も一緒にもらっていただければ、戦闘に1、2時間かかったとしても問題なく戻って来れます。」

「わかった。」

「あ、ぼくの分もお願いします。手数料かかったりはしないので…」

「おう、わかった。」


 ギルドの受注窓口に行き、依頼の受注と通行申請を済ませる。

 そして職員がカード状の紙を取り出した。

 通行許可のひな形のようだ。

 職員が俺たちの名前を書き込むと、カウンターの上をスライドさせてこちらに差し出した。


「どうも。」


 時間の余裕があるんなら、昼食を食べてから行くことにするか。




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