大商業都市カルスルエ⑦
「ここです。」
その屋敷は森の中に佇んでいた。
ここも城壁の内側なのだが、住宅地を抜けると緑地が広がっており、そして気付けば森に入っていた。
その中に屋敷が一軒あった。
塀も門も蔦に覆われ、妙に景色に馴染んでいる。
門から続く小道の先に見える屋敷はボロボロで、もう人が住んでいないことは明らかだった。
「町の中に森があるなんてな。」
「いざという時に材木を伐り出すためなんだそうです。ここ以外は管理されていてきれいな森なんですけど…」
「ここは人が寄りつかなくなっている、と。」
「はい。」
正面の門に近付き、中を見る。
広い中庭だ。
放置されるにはもったいないが、化物がいるんじゃあしょうがないか。
さて、どこかに人造キメラが…あ、いた。
敷地の端の方に牛のような何かがうずくまってる。
「ターゲット発見。」
「どこどこ、ってあれか……寝てる?」
「かもな。」
「後ろから襲っちゃう?」
「いや、敷地には入るなって言われてるからここから魔法で狙うよ。」
「そうなの!? アタシの出る幕ないじゃん。」
「悪いな。」
「…楽できるからいっか。エル、大人しく見てよ。」
そう言ってフィネはエルを後ろから抱きしめた。
身長差があるからエルの頭にフィネの顎が乗る形になる。
「とりあえずこっちに呼ぶか。アイシクル。」
門越しに氷柱を一本飛ばしてやると、腹の後ろのあたりに刺さった。
油断していたのか、魔力障壁は張られていなかったようだ。
――メ゛エ゛ェェェ!!
山羊のような鳴き声を上げながら人造キメラが跳び上がる。
首はサイなのに鳴き声は山羊なのか。
キメラはすぐに攻撃されたのだと気付き、こちらに駆け寄ってきた。
「アイシクル。」
氷柱を3本追加。
おっと、さっとかわされた。
意外とすばしっこいな。
レッサードラゴンにも当たったのに。
――メェェ!
奴は俺が門の外にいることに気が付いたようだ。
門外に攻撃しないというのは本当らしい。
こちらを警戒しつつも距離を取られた。
これで回避に専念されれば確かに討伐難易度は高めだろう。
「ま、動きを止めてしまえば問題ないかな。」
魔力を練る。
引き続き氷魔法だ。
足元から冷気を伝わせ、人造キメラの足を凍りつかせて地面に固定しよう。
「アイスロック。」
――ビキン!
魔力感知されることもなく魔法が決まり、急激に氷ができる高い音が響いた。
――メェェ! メェェェェ!
期待通りキメラの足が地面に固定されている。
時間をかければ外されてしまう可能性があるから手早く倒してしまおう。
「アイシクル。」
5本の氷柱を同時に放つ。
その全てが命中して、人造キメラは動かなくなった。
「おー、なんなく倒したね。」
「イズミ様すごいです!」
エルが拍手している。
あまりほめられると照れくさいが。
「フィネ、これの討伐証明ってなんて書いてあったっけ?」
「サイの角と山羊の角とヒヅメ2つと蛇の牙。」
「うわ面倒…」
「でも中入らなきゃ取れないよね。」
「ああ、もう倒したんだし入っていいだろ。」
「そうなの?」
「ああ、たぶんだけど。」
門を押すと簡単に開いた。
錠はかかっていなかったようだ。
「じゃ、取ってくるから森の入口あたりで待っててくれよ。」
「りょーかい。」
解体作業を子供に見せるのは可哀想だと思ってフィネとエルを先に帰す。
そしてスキル【武具収納】を発動して剣と短剣を取り出し討伐証明部位を切り離した。
角が大きくて意外とかさばる。
「あ、そうだ。次元袋使うか。」
セルテンからもらった次元袋に収納してみる。
体積のある素材だが、簡単に呑みこんでくれた。
重さすら感じなくなる。
やっぱり便利だな。
さて、それじゃあ戻るか。
ギルドに戻ると、窓口の行列がなくなっていた。
まだ夕方だが、みな仕事を終えてしまったのだろうか。
達成報告のためにフィネからジョブカードを受け取る。
「じゃ、行ってくるな。」
「よろしく。明日の討伐依頼選んじゃってていい? Eランクのやつになるけど。」
「もちろん。よろしくな。」
先に受注しておけば明日ここに寄らなくてもいいしな。
達成報告したらすぐに受注してしまおう。
「達成報告をしたい。」
達成報告窓口に行き、そう言いながらジョブカードをカウンターに置いた。
「はい、イズミさんと、アドルフィンさん…Dランク依頼…えっと…あったあった、これですね。ってええええ!?」
「なにか?」
「え…あ! 依頼のキャンセルですか?」
「いや、達成報告だ。」
「…ケムニック博士のキメラを倒したってことです?」
「そうだよ。今討伐証明部位を出すから。重いけどどうすればいい?」
ギルドの窓口はその名の通り、事務所側とこちら側を隔てた壁に窓が開いたようになっている。
次元袋からサイの角を取り出してみるが、これはギルド職員には重すぎるだろう。
「ええ!? それって次元袋…ってかホントに倒してる!」
「だからそう言ってるだろ。」
「あわわわわ……少々お待ちくださーい!」
職員が奥に走っていった。
どうしたものかと思うと、すぐに部屋の端の方の扉を通ってこちら側に出てきた。
もう一人、女性が一緒に出てくる。
「お待たせしました。先輩、この方です。」
「大変お待たせして申し訳ございません。討伐証明部位は全てお揃いでしょうか?」
「揃ってるよ。」
「この場で構いませんのでご提示を。」
「了解。」
サイの角を置き、次元袋からほかの部位も取り出して床に置いていく。
「これで全部だ。」
「…人造キメラの討伐の達成を確認いたしました。ジーニァ、達成処理を。」
「はい!」
はじめに対応した受付嬢が事務所に戻っていく。
もう一人はここに残るようだ。
「対応に失礼があったことをお詫び申し上げます。」
「ああ…いや、そんなに失礼な事をされたわけじゃないが。」
「いえ…。この依頼はランクDには不釣り合いで、長らく放置されていたものでして。」
「そうみたいだな。受注のときも止められたよ。」
「ええ。屋敷の敷地に入らなければ危険はないとは言え…」
「イズミイズミ、どうかしたの?」
フィネだ。
「問題ないよ。素材がでかすぎて窓口から渡せなくてな。」
「あーね。」
「申し訳ございません。今報酬と実績を準備していますのでもう少々お待ちいただけますか?」
「いーよいーよ、別に急いでないし。」
「いい依頼はあったか?」
「これこれ、この3つなら一日で回れそうだよ。」
「ほぉ、そりゃ効率いいな。」
「でしょー! にひひ。」
フィネが残った受付嬢に依頼票を渡した。
「これ受けたいんだけどいいかな?」
「もちろんです。」
受付嬢が報告窓口の前へ動くと、そこにはすでにはじめに対応した職員がいた。
「ジーニァ、この依頼3つ、お二人が受けてくださるそうよ。」
「あ、はい。3つも…?」
「人造キメラ討伐ができるんだから問題ないでしょう。達成処理はできた?」
「はい。こちらに。」
「イズミさん、アドルフィンさん。こちらへどうぞ。」
「ほーい。」
二人で窓口へ。
「こちら実績と、報酬の金貨2枚と銀貨40枚です。ジョブカードもお返しします。」
カードに実績を重ねて実績を反映させる。
とはいえ、ランクアップのとき以外はジョブカードの表記に変化は起こらないようだ。
そのまま報酬を山分けて革袋に入れた。
受付嬢に声をかけて窓口をあとにする。
「それじゃあ。」
「ありがとうございました~。」




