大商業都市カルスルエ⑥
「じゃあ、次は冒険者ギルドだな。」
「だね。エル、よろしく。」
「はい!」
セルテン商会を出てギルドに向かう。
ギルドは意外にもすぐ近くにあった。
「ギルドもでかいな…」
「この町、人多いから混んでるかもね。」
セルテン商会ほどではないが大きい。
4階建てだが、高さよりも横幅の方がある箱型の建物だ。
1~2階が石造り、3~4階が木造という珍しい造りをしている。
「えっと、観光的なお話をしますと…あそこに見える塔が建てられたときと同時期に建てられた比較的新しい歴史建造物です。」
エルが指差した方には町のどこにいても見えそうな高い塔がある。
四角い柱のような塔で、山道の途中から見下ろしたときには塔の根本に大きな建物があった。
「てかあの塔ってなに?」
「トゥルムと言って、ほかの国で言うお城です。上層階には代表が住んでいるんです。ほかの国で言う王様ですね。」
「代表って呼ぶんだっけ?」
「はい。あくまでも国民の代表であって、上に立つ者ではないという意味があるそうです。」
「上に立つ者ではなくても、上に住む者じゃんね。」
ぶはっ。
心の中で吹き出してしまう。
うまいことを言う。
「フィネ、国の偉い人の前で言っちゃだめなやつだぞ、それ。」
「ただの感想だって。エル、続き。」
「はい…えっと、中層階以下ではステイナドラー全体のことについて、各州の市長が定期的に集まって会議をしたり法律を立てたりしているそうです。お役人さんの仕事場と衛兵詰所もありますね。」
「へぇ…」
「都市同士が手を取り合ってステイナドラーという国ができたとき、ここカルスルエを代表都市として、大規模な区画整理を行いました。そのときにトゥルムや、この冒険者ギルド本部を建てたんだそうです。ただ、ギルド自体はもっと歴史がありまして、前の建物から移設したあの紋章はこの町で一番古いものの一つと言われています。」
エルがギルドの2階の壁に貼り付けられている紋章を差す。
馬車の車輪をモチーフにしたような大きな紋章だ。
確かに年季が入った外見をしている。
「歴史ねぇ…ローカルルールとか面倒くさそう。」
「そんなのあるのか?」
「昔からあるって自慢げに言うとこは謎ルールあったりするよ。ま、ここもそうかはわかんないけど。とりあえず入ろ。」
「おう。」
ギルドの中に入る。
今回はエルもついて来ていた。
やはり広い。
いきなり依頼を選んでいいものだろうか?
「とりあえず窓口行ってみるか…?」
「4つもあるけど?」
本当だ。
依頼発注、依頼受注、達成報告、登録か。
受注と報告はそれぞれ窓口が3つあり、いずれにも短い列ができている。
オーベルンでは受注から報酬をもらうところまで全部ユリアナがやってくれていたが、ここでは利用者が多いからか、分業にしているようだ。
「登録ってのに行って聞いてみるか。」
「うぃうぃ。」
登録の窓口の前へ。
登録窓口は1つだけで、カウンターに若い女性がいた。
「こんにちは。冒険者登録ですか?」
「いや、今日ほかの町からやってきたんだ。この町で活動しようと思っている。」
「ジョブカードでギルドランクを確認してもよろしいですか?」
ジョブカードを取り出して『オープン』と唱え、フィネと一緒にカードを差し出した。
「Fランクですか。ご存知かと思いますが、D、E、F、Gランクの依頼を受注できますので、あちらの掲示板にある依頼票を持って受注窓口に行ってください。」
「わかった。」
「支部とは違ってここは冒険者の数が多いため、受注のたびにジョブカードの確認を行いますのでご留意ください。」
「ああ。」
ユリアナみたいに客の顔を覚える対応はできないってことか。
「とりあえず依頼を選ぶか。」
「だね。」
さっき教えられた掲示板の前へ。
ランクごとに異なる掲示板があり、それぞれたくさんの依頼票が貼ってある。
オーベルンの比ではない。
「選び放題か。」
「Dの依頼でいい?」
「その方がランクアップ早いのか? Fの依頼を素早くたくさんこなす方が早いかと思ったけど。」
「やー、Dの方が報酬良いからと思って。一応、Dランク1つでF2つ分の実績になるらしいけど、でもFランク依頼をたくさんソッコーでやった方が早いとは思う。」
「まぁ…そこまで急がなくてもいいか。Dランクってどんな感じだ?」
Dランクの掲示板の前に移動して依頼票を眺める。
【キラービーの巣の駆除】
【マジックゴブリンの捕獲】
【グール発生原因の調査】
【フンババの監視】
【人造キメラの討伐】
【竜尾鰐の毒殺】
……
「結構時間かかりそうなのが多いな。」
「うーん、居場所わかってるヤツの討伐ないかな。」
「この【人造キメラの討伐】は場所書いてあるぞ。ケムニックの屋敷ってわかるか、エル?」
「え…と…場所はわかりますが…」
「行きたくなさそうだな。」
「化け物がいることで有名ですから。」
「それがこの人造キメラか?」
「そうだと思います。牛の体に山羊の角が生えたサイの頭、尻尾は蛇って聞いています。」
キメラは山羊の体に獅子の頭だったと思ったが、人造だからちょっと違うのか?
「しかしなんで噂になるくらい放置されてるんだ?」
「それは窓口で聞いてみればいいんじゃない?」
「それもそうか。じゃあこれにしてみよう。」
「あ、イズミ。」
「うん?」
「その屋敷から近いところで別の討伐依頼ないか、エルと探してみるからそれの受注はお願いしていい?」
「オッケー。」
一気に2つ、3つ達成できれば楽だしな。
フィネからジョブカードを受け取って窓口に並ぶ。
受注の列は進みが早く、順番はすぐに回ってきた。
「こんにちは。依頼票とジョブカードを提示願います。」
「ああ、これだ。」
「人造キメラの討伐…ですか。失礼ですがランクFの方には難しいかと。」
「どのくらい強いんだ?」
「ランクDのバランスの取れたパーティで挑むような相手です。この討伐依頼の失敗でもう3人の冒険者が亡くなっていますので。」
まだ依頼が残っていたのはそういう理由か。
それなら挑戦する者も減る。
だったらCランクの依頼に上げればいいと思うが。
「だが放置していいってわけじゃないだろ?」
「いえ、屋敷の外には出ませんので放置しています。屋敷に入らなければ危険もないという判断で。」
「そうなのか?」
「はい。製造者のケムニック博士がそういう命令をしたんだと推測されています。いずれ餓死か衰弱するだろうということで半分放置状態ですよ。全然弱る気配はないようですが。」
「なら倒した方がいいよな。」
「しかし死者を増やしてまでというものではありません。」
「屋敷の外から攻撃してみるのはどうだ?」
「すでに試しましたが、反撃はしてこないそうです。ただし矢も魔法も回避されるか、魔力障壁で防がれたそうです。」
「試すだけ試してみてもいいかな?」
受付の職員が考え込む。
「まぁ、そうですね。いいでしょう。絶対に屋敷の敷地には入らないでくださいね?」
「もちろん。」
「では、依頼のキャンセルの際はまたこちらにどうぞ。もう一人のアドルフィンさんはどちらに?」
「掲示板のところだ。連れてくるか?」
「いえ、結構です。それではご健闘を。」
「ああ。」
ジョブカードを受け取って戻る。
「フィネ、どうだ?」
「全然ない。調査系が多いね。むしろEランクのが討伐依頼あるかも。」
「そうか…」
「ま、いっか。とりあえずキメラ狩りに行こ。」
「エル、その屋敷には今から日帰りで行けそうか?」
「町から出る必要がないので大丈夫だと思います。」
「よし、じゃあ行こう。」




