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大商業都市カルスルエ③

「まずはオススメの食堂に連れて行って。ほい、頭金。」


 フィネがエルに銭貨を渡した。


「先払い!? ありがとうございます! ご飯なら、肉と魚と野菜ならどれがいいですか?」

「最近肉ばっかだったし、今日は魚かな。」

「りょーかいです!」


 エルを先導に、フィネと並んでついて行く。

 聖アロンでは子供は昼間、学校という教育施設に通っていたが、ここにはそういったものがないのか、昼間から子供が多い。

 子供たちは、身なりの良し悪しで孤児かそうでないかが一目で判別できてしまう。

 いや、むしろ判別させるために、親は子供に高級な服を着せているのだろう。

 下手すると子供の服の方が高そうな親子もいる。

 商人の町とは言え、ここまで貧富の差を見せられるのはあまり気持ちがいいものではないな。


「ここが第一庭園です。夜は篝火(かがりび)で幻想的な雰囲気になるのでデートスポットとして人気ですよー。あ、そして隣はディルク・ポンプの館です。中には入れませんが、最初にこの町を整備した偉人の一人で、歴史建造物になっています。」


 エルは歩きながらこの町について色々と教えてくれた。

 観光名所も多いようだ。

 ここもあとで見に来てもいいかもしれない。


「イズミ、ご飯だけどさ、その子も一緒でいい?」

「いいよ。」


 フィネが小さめの声で言った。

 おごりになるだろうが、それくらいなんともない。


「フィネさん、イズミさん、ここでいかがでしょう?」


 赤レンガで造られた店の前でエルが止まった。

 手で示した黒板には今日のおすすめが書いてある。

 魚介ばかり並んでいるようだ。白身魚のグリル、エビのロースト、貝とキノコのズッペ(スープ)、白身魚のガイロ煮…ガイロ煮?


「なぁ、ガイロ煮ってなんだ?」


 エルに聞いてみる。


「魚の頭と骨を煮込んだものです。小麦粉と芋を練ったパスタかパンが付くと思います。」

「ふーん…よし、俺はエビにしよう。フィネは?」

「グリルにする。エル、代金はアタシが払うから一緒に食べよう。好きなの選んで。」

「…っ!?」


 驚いた顔。


「いえっ、そんなわけには…」

「いいから。あ、案内料はちゃんと渡すよ、これとは別に。」

「でも、ここはセットしかないので安くても銀貨3枚からですよ?」

「選ばないならアタシが決めるけど?」

「ええっ!?」


 フィネがエルの手を引いて店内に入って行くので、俺も続く。

 外の人出の多さの割には、店内の混みようはほどほどだった。

 席に着くとウェイターがメニューを持ってくるが、フィネが即座に注文を口にした。


「水が2本、魚のグリル、エビのロースト。エルは?」

「え…あっ…」

「考える時間くらいやってもよくないか?」

「考える気があるならそれもいいんだけど、どう?」

「じゃあガイロ煮でお願いします!」

「オッケ、じゃあお兄さん、水2本、魚のグリル、エビのロースト、ガイロ煮でよろしく。」

「かしこまりました。」


 ウェイターは丁寧に頭を下げて厨房に向かった。

 接客が良いのはこの町では普通なのだろうか。

 少なくとも他の町では珍しい。


「本当にいいんですか…?」

「いーのいーの。」

「でもぼくなんかが食事をすれば周りのお客さんに変な目で見られますよ?」


 エルがそう言った。

 それはすでに感じている。

 孤児は差別されているのかなんなのか

 ひそひそ声で話す客もおり、話の内容はわからないが少々不快ではある。

 …ああ、フィネには話の内容まで聞こえているかもしれないが。


「エル、アタシたちが気にしてないんだから君も気にしなくていいんだよ。見たいやつは見てればいいし、言いたいやつには言わせておけばいい。」

「同感だ。」

「……」


 とは言え、この町にはこの町の常識があるのだろう。

 エルは居心地が悪そうなままだ。

 話を変えて気を紛らわせよう。


「なぁエル、さっき言ってた観光地って、ここから一番近いのはどこなんだ?」

「あ…はい。ちょっと歩けば『豪商倉庫』がありますね。銀貨1枚で入場できて、古今東西の美術品が見られますよ。正式名称はカルスルエ公民美術館と言います。」

「なんで倉庫なんて呼ばれているんだ?」

「展示されている美術品は商人が私費で購入しているからです。『商人の見栄の張り合い』と言えば、彼らの力の入れっぷりがわかると思います。過去には展示品が増えすぎる問題があったそうで、今は各商人・商会で一つまでという決まりができましたので、()りすぐりの一品が見られますよ。」


 それは面白そうだな。


「アタシは芸術とかよくわかんないんだよねー。イズミは?」

「絵はわからんけど、彫刻にはかなり興味があるよ。武器の装飾の参考になるし。」

「おお、そういうこと。じゃあ行ってみてもいいかな。」

「落ち着いたらって感じかね。」

「お客様。」


 会話を割って野太い声が降ってきた。

 ウェイターが変わったのか…いや、コックの格好をしている。

 体格が良く、特に腕が太い。

 コックは手を後ろで組んだまま言葉を続けた。

 にんまりと笑っている。


「店長のブルーノと申します。」

「ああ…なんで店長がわざわざ?」

「ほかのお客様からお申し出がありまして。孤児のような汚物が席に座っていると。」

「……」


 フィネが小さな殺気を放ち始めた。

 俺もイラッとはしたが、殺気出すのはやりすぎだろ。

 店長はフィネの殺気に気付いていないのか、それとも外見のとおり豪胆なのか、笑顔を崩さずに続ける。


「見たところお連れ様は孤児のようですな。お間違いないでしょうか?」

「何か問題が?」

「…ふむ、それはお連れ様が孤児だと認める、ということですかな? つまり、お客様は孤児に料理を食わせるために当店に入ったと!?」


 大きな声で言いやがる。

 ほかの客に聞かせるためだろう。

 もし出て行けと言うのなら、俺としてはそれでもいいと思う。

 その辺の屋台で何か買って食うのなら誰も文句ないだろうし。


「もう一度聞くぞ、何か問題があるのか?」


 店長を睨むフィネを手で制止して聞き返す。


「まっったくなにも問題ございません!!」


――トン。


 スープがエルの前に置かれた。


「当店自慢の白身魚のガイロ煮です。サービスで大盛りにしました! すぐにセットのパンとサラダをお持ちします。グリルとローストも。」

「…ん?」


 予想外の展開に3人で呆けてしまう。


「いやはや! 汚物が席に座っていたらどうしようかと思いましたが、お連れ様は孤児のような汚物ではなく孤児のような孤児だとわかりました。ご指摘されたお客様の勘違いですな。はっはっは!」


 変わらず大きい声で話している。

 今わかった。

 この店は差別などしないとほかの客に宣言しているのだ。


「それではごゆっくり。」


 店長は最後にそう言って厨房に帰って行った。


「…なに今の茶番?」

「さぁ…?」

「お二人ともごめんなさい。ぼくのせいで。」

「いや問題ないよ…あ、わかってるか? あの店長はエルを差別しないって言ったんだよ。」

「そうなんですか?」

「そーそー。まだるっこしい言い方だけどねー。ま、食べな?」


 そのあとすぐにグリルとローストも運ばれてきて、俺たちは普通に食事を楽しんだ。

 会計をして店を出ると、人通りが少し減っているように感じる。

 さっきは昼時だから人が多かったのだろうか。


「うまかったな。」

「うん、おいしかった。エル、いい店紹介してくれてありがと。」

「いえ、とんでもないです。」


 店長には癖があるが、もし宿から近ければ(かよ)ってもいいくらいの店だと思った。


「次はどちらにご案内しましょうか。先ほどお話しした豪商倉庫が近いところですが。」

「セルテン商会に行きたい。場所は知ってるか?」

「ええと、セルテン商会というと…武器屋でしょうか? それとも銀行?」

「店舗じゃなくて、商会本部に行きたいんだ。」

「商会本部…?」

「わからないか?」

「たぶん、トゥルムの近くの大きな館です。違うかもしれませんが…」

「いいよ、とりあえず行ってみよう。」




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