大商業都市カルスルエ②
「着いたぁー!」
「この列を並ぶのか?」
「並ぶしかないっしょ。」
カルスルエ城門には長い列ができていた。
ざっと30人は並んでいる。
面倒な入門手続きでもあるのだろうか。
「町に入るのに何か必要だとかは言ってなかったよな?」
「だね。でも聞いてみよっか。…ねー、おじさん。」
フィネが前に並んでいる男の腕を横から軽く叩いた。
行商人のような恰好をしている。
「あ?」
「アタシたちカルスルエに来るの初めてなんだけどさ、町に入るのになんか要る?」
「…それを知らねぇで来るやつがいるとはな。」
「ここに住んでる人に呼ばれたんだよ。」
「そうかよ。で、お嬢ちゃんの質問に答えてオレにはどんな得があるんだ?」
「親切心とかないの?」
「オレは商人だからな。情報料として銀貨5枚だ。」
「高い。」
「じゃあ他のやつに聞きな。」
「そうする。」
俺が口を挟む隙がない。
フィネは続いて行商人の前にいる男に話しかけた。
フードを目深に被っている。
「ね、お兄さん。」
「…オレだって親切心はないぞ?」
「銀貨2枚で売ってよ。」
「……」
フード男が先にフィネが話しかけた行商人をちらりと見る。
表情は見えないが、行商人が肩をすくめた。
フード男が再度口を開く。
「…先払い。」
「はい。」
フィネは金をフード男に渡す。
「…あんたたち、冒険者だろ? 並ぶ必要がないから門まで進みな。」
「どういうこと?」
「この列は商人の手続き待ちの列なんだよ。商品の確認と関税の支払いのな。ただの通行人には関係ない。冒険者ならジョブカード見せりゃすんなり通れるさ。」
――ピンッ!
フード男が銀貨を指で弾いて飛ばした。
行商人がそれを掴む。
情報料の山分けか。フィネがうまく値切ったように見えたが、実際そうだったのかはわからないな。
まぁ、銀貨2枚くらいまるで問題はないんだが。
「…イズミ、行こ。」
「おう。」
ちょっと不機嫌になったフィネと一緒に列の横をどんどん進む。
門の前に着くと軽装鎧を着た男が話しかけてきた。
「やぁいらっしゃい。用向きは?」
「俺たちは冒険者なんだが、ここを活動拠点にしようと思っている。」
俺が答える。
「じゃあジョブカード見せてくれる?」
二人でカードを取り出し、名前と冒険者ランクだけを表示して見せると、あっさりと道を開けてくれた。
「ようこそ、カルスルエへ。」
「ああ、ありがとう。」
気さくな感じの人だったな。
門を通って町の中へ。
この門からメインストリートが伸びているのは山の上で見たときに気付いていたが、それにしても大きな通りだ。
両脇の建物はほとんどが商店で、そこから歩道を挟んで露店も並んでいる。行き交う人の数も多く、活気がある町だというのがすぐにわかった。
メインストリートの交差点の真ん中には噴水がある。大した広さではないが周りが緑地になっており、ベンチで休んでいる者もいるようだ。
そこには着古した服の子供も10人以上見えるが、あれが観光案内をしている子供なのだろうか。
「ねぇ、イズミ。」
「なんだ?」
「いっこ我儘言っていい?」
「聞こう。」
「案内人はアタシが選びたい。」
「オッケー。」
「え、いいの?」
「いいよ任せる。俺はまだ判断基準もないしな。むしろ適任だろ。」
「やった!」
フィネがにかっと笑って小走りで噴水に向かった。
すぐに一番手前の子供に話しかけられたが、それはあしらっている。
なにか選ぶ基準とかあるんだろうか…?
「お兄さんお兄さん! 冒険者さん? それとも観光かい?」
子供が話しかけてきた。10歳くらいだろうか。
「あー、冒険者なんだが、案内は間に合ってるよ。」
「そうなの? でもこの町は広いよ? ギルドまでまっすぐってわけじゃないし。」
断られてもすぐには諦めないとは。
流石は商人の国の代表都市か。
「いや、悪いんだけど、連れが案内人を頼んでるところなんだ。」
「じゃあお連れさんが選んだ子とボク、どっちがこの町に詳しいか勝負しようよ! 勝った方がお兄さんの案内ってことで。」
「押しが強いな…」
「ボクも生活かかってるからさ、ね、お願い。絶対ボクの方が町に詳しいし、お兄さんを満足させられるから。」
「でもなぁ…」
「はいそこまで。」
フィネが戻ってきた。
正直助かる。
「フィネ…。」
「このお姉さんがお連れさん?」
「ああ。」
「そう、アタシがお連れさん。案内はもうこの子に決めたから諦めな。」
「ええー…ってエルちゃんじゃん。」
「ピートくん、ごめんね?」
フィネが連れてきた子供が言った。
こっちの子よりは年上だろうか。
使い込んだよれよれの服を着た女の子だ。
「うー……引き下がるよ。お兄さんごめんね、ボクよりこの子の方が詳しいから…」
「そうか、悪いな。」
意外にも男の子は引き下がった。
まだ食い下がられるかと思ったが。
ピートと呼ばれた少年はさっさと噴水の方に向かって行く。
「ということでイズミ、この子にしたよ。」
「エルと言います。今日はよろしくお願いします。」
エルが丁寧に頭を下げた。
「よろしく。んでフィネ、何か選ぶ基準とかあるのか?」
「まず嘘臭さがないヤツで、かわいくて礼儀正しい子。かわいさが一番重要かな?」
「…かわいさ?」
「え!? かわいいでしょ! 好みじゃなかった?」
そういう意味ではかわいらしい顔立ちをしている。
ってどういう意味だかわからないが。
しかし好みって…何を求めているのだろうか。
「いや、そこを否定してるんじゃなく、かわいさが重要なのかってとこなんだが。」
「重要でしょ。一日一緒にいるんだから、外見と人格が良くないと。」
「そうか…まぁ、フィネに任せたんだし異論はないよ。…不満もない。」
「でしょー?」
不満もない、の方に反応してフィネが笑顔を見せる。
「じゃあエル、アタシはフィネ。そっちがイズミ。今日はよろしくね。」
「はい! よろしくお願いします!」
心なしかフィネの声がやさしい。
名前も本名ではなく愛称で言ってるし。
意外と子供好きなんだな。




