表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/72

戦いのあと②

――ゴォォォ……


 噴水広場の木造ステージに置かれた石台の上で大きな炎が上がった。

 燃えているのはたくさんの花飾りで彩られた(ひつぎ)だ。

 聖アロンでは土葬が多いが、ここでは火葬が一般的らしい。

 それでもこれだけ大きくやるのは珍しいことだろう。


 多くの人が涙していた。

 マンヴェンが多くの住民から慕われていたことがわかる。

 隣にいるユリアナも(うつむ)いたまま肩を震わせている。


 ゲオルグがステージに登り、何か語りかけはじめた。

 別れの言葉のようなものだろうか。

 棺の燃える音が大きくて声までは聞こえない。


 そのあとは数人ずつステージに登って、火の中に花を投げ入れていった。

 階段の脇で、俺も花を一輪受け取る。

 白い花びらの、手の平に乗るくらいの花を。

 炎に向かって投げると、すぐに見えなくなった。





 次の日は夜明け前に目が覚めた。

 体を起こしてベッドに座る。

 そのままぼーっとしていると、誰かが廊下を歩く音が聞こえた。


――ガチャ


「おはよう、イズミ。」

「おはよう、フィネ。」


 フィネが部屋に入ってきて床に座る。

 俺もベッドに座ったままだ。


「……」


 沈黙。

 何もする気になれない、というやつだろう。


 しかし、今日はギルドに報告に来いと言われている。

 急ぐ必要はないが、さっと済ませたいという気分もあった。


「…イズミ、明日からどうする?」

「明日?」

「うん、今日はギルドに行くけど、明日からまた自由になるでしょ。」

「ああ…」


 当面の目標は依頼をこなしてランクアップを目指すだったな。

 それの継続でいいんじゃないだろうか。


「ランクアップを目指して依頼をこなす、でいいかな?」

「え?」


 フィネが驚いたような顔になった。


「ん、何か変か?」

「あー…そっか、続けるんだね、冒険者。」

「…え?」


 まさかフィネはもうやめるって言うのか?


「あ、アタシはやめないよ!?」


 両手を俺に向けて首を振る。


「ただ、親しい人が死んじゃってやめる人が多いからさ。」

「ああ…そういうことか。そういう意味なら大丈夫だ。慣れることはなさそうだが、もう経験してる。」

「そっか。」

「ああ。」

「じゃあ、朝ご飯食べてギルド行こ!」

「ああ!」





「…では、そのベーンガンとやらを殺したのは間違いないんですね?」

「俺が事実として言えるのは、胸にパルチザンを突き刺して、それを横に振り払ったってことだけだ。それで死なないやつがいるとは思えないがな。」

「ふむ…」


 事情聴取役は支部長ではなかった。

 支部長が当事者の一人になっているから、わざわざ州都からお偉いさんが出てきたらしい。俺の話と支部長の話を突き合わせて裏を取るようだ。


「それで、そのあとは?」

「ベーンガンを倒すために全魔力を使ったから魔力切れを起こして意識を失った。ただ、ぶっ倒れる前にその場にいたレッサードラゴンを倒しておいた。」

「なるほど。むむ…ええと、レッサードラゴンの死体は残っていたんでしたっけ?」

「あったらしいぞ。」

「そうですか。わかりました。」


 事情聴取役はそう言いながら手元の紙にメモを続ける。

 俺のスキルや魔法のことは話さなかったが、起きたことは全部話した。


「…正直、荒唐無稽な話です。『魔物を作る』なんて。しかしゲオルグさんが同じ話をすれば真実として記録しますし、もし本当なら世界的に対処しなければならない話ですね。」

「ああ、対処してくれ。もう行っていいか?」

「ええ、どうぞ。ありがとうございました。」


 部屋から出てギルドホールに戻った。

 フィネに声をかけようとすると、誰かと話しているようだった。

 見た顔だ。

 前に馬車で(ディノ)REX(レクス)種に追われていた商人、セルテンだ。

 近づいて行くと、フィネより先にセルテンが俺に気が付いた。


「おお、イズミ殿!」

「セルテンさん。」


 特にかける言葉が思いつかなかったので名前だけ呼ぶ。

 セルテンは大仰にお辞儀をして言った。


「このあいだは命を救っていただいてまっこと感謝申し上げる。」

「礼はもういいって。」

「いやいや、今フィネ殿に話していたんだが、まさにお礼をしに参ったのだよ。」


 礼…?

 ああ、次元袋をくれるって言ってたな。


「でも使者を出すって言ってなかったか?」

「そう言ったが、私の商人の勘が、自分で行った方がいいと告げたんで急いで予定を調整したんだ。大当たりだったがね。」

「大当たり?」

「ああ、だがそれよりも。」


 セルテンがサイドポーチから何かを取り出す。


「これだ。」


 折りたたまれた黒い革袋が差し出される。


「これが次元袋か?」

「察しが良いな。そのとおりだよ。」


 受け取って広げてみる。普通の革袋のように見えた。


「レッサードラゴンの素材の代金を入れてある。それと剣が1本。」

「剣?」


 手を入れて確かめてみる。

 指先が金属に触れた。剣の()か。

 ()(つか)んで引き抜くと、明らかに袋よりも長い剣が出てきた。

 刀身にまで細やかな意匠が施された長剣だ。

 (ガード)黄銅(しんちゅう)製なのか、金色に輝いていて豪華な印象を受ける。


「わ、豪華な剣だね。」


 フィネが言う。


「これは?」

隕石(いんせき)、って知っているかい?空から炎を帯びて降ってくる石なんだが、そいつに含まれる鉄で作った特別な剣だ。」

「…そんな高価どころか、値が付けられないような品をくれるって言うのか?」

「ああ! 観賞用にしておくのはもったいないと思っていたんだが、私の食客には使いこなせる者がいなくてね。剣の達人のイズミ殿にぜひ使ってほしい。」

「いやさすがに」

「頼むよ! そいつを使って大物を倒したら、それが私の自慢話にもなるのだ。」

「…そうか?」

「もらっちゃいなよ。」

「なら、いただくよ。(めい)はあるのか?」

「特にないが。」


 ならあとで名前を考えるとするか。


「ありがたくいただくよ。この剣も、次元袋も。」

「ぜひ活用してくれ。それとフィネ殿にも。」

「うん?」


 フィネにも黒い革袋が差し出される。


「イズミ殿に渡したものの半分程度の容量だがね。」

「くれるの?」

「もちろん。」

「おお…マジか。あんがと。」

「わざわざフィネの分まで作ってくれたのか?」

「たまたま容量が小さくて売り物にならないものができてしまって……いいや、すまない、今のは嘘だ。」

「うん?」

「命の恩人相手に恩着せがましいことを言うべきではなかった。腹を見せよう。貴殿らとこれから交渉したいことがあってね、ご機嫌取りだよ。その次元袋が売り物にならないのは本当で、商品の荷運びに使う予定だった。それを贈り物に変えた、というだけさ。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ